マイカー通勤や業務使用で生じる企業の法的リスク
従業員が車移動をする場合、業務的に考えれば、交通事故にあった従業員がケガで欠勤すれば当然人員が欠けるので、労働力不足などのリスクが生じます。また、法的な観点では企業は以下のリスクを負います。
◆労働者死傷病報告(労働安全衛生規則第97条)
通勤中・業務中の交通事故は労働災害に当たるため、企業は労働者死傷病報告を行う義務を負います。
◆使用者責任(民法第715条第1項)
通勤中・業務中に起こした交通事故によって、従業員が第三者にケガなどを負わせた場合、企業も「使用者責任」を負うことになります。
◆運行供用者責任(自動車損害賠償保障法第3条)
「運行供用者責任」に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。運行供用者責任とは、車の所有者だけでなく、車の運行を支配し、利益を得る人にも事故の責任を課す制度です(自動車損害賠償保障法第3条)。
リスクを避けるために企業ができる対策
従業員の交通事故による損害賠償リスクを回避するには、通勤や業務におけるマイカーの使用を許可制にすることが考えられます。また、従業員には極力、徒歩や公共交通機関を利用してもらい、マイカーの利用を原則として認めないルールを就業規則などに明記することで、交通事故による損害賠償のリスクはかなり低くなります。
とはいえ、交通手段が豊富な都会ならまだしも、地方に行けば行くほどマイカー通勤を認めないルールは現実的ではありません。
通勤・業務にマイカーの利用を認める場合は、法人向けの自動車保険に加入することが望ましいです。さまざまな種類の保険があるので、自社にあったものを検討してください。
従業員の無断マイカー通勤における企業の責任と注意点
従業員が許可なくマイカー通勤をし、事故を起こしてしまった場合、原則として、使用者責任等は発生しないと考えられます(最高裁昭和52年9月22日判決)。
ただし、明示の承諾がなかったとしても、企業がマイカー通勤を許容(黙認)していたと認めるべき事情があれば、使用者責任等を問われる可能性があります(同最高裁判決)。
万が一、無断でマイカー通勤をしている従業員が発覚したら、気づいた時点で注意勧告するなどの対応を行いましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年7月時点のものです。
<取材先>
ゆら総合法律事務所 代表弁護士 阿部由羅さん
西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
