労災保険とは
「労災保険(労働者災害補償保険)」とは、労働者の業務上の事由、または通勤中の傷病などに対して保険給付を行う制度です。原則として1人でも労働者を雇用する企業に適用され、アルバイトやパートなど雇用形態に関係なく補償の対象となります。
労災保険が適用される災害と主な給付内容は以下の通りです。
◆労災保険が適用される災害
業務災害……業務を原因とする、負傷、疾病、障害、死亡
通勤災害……会社への出勤時や帰宅時に被った、負傷、疾病、障害、死亡
◆労災保険の代表的な給付内容
療養補償給付……業務災害ならびに通勤災害により、通院や入院した場合に支給される
休業補償給付……業務災害ならびに通勤災害によって労務不能となり、賃金を受けられない場合に支給される
遺族補償給付……業務災害ならびに通勤災害によって死亡した労働者の遺族に対して支給される
労災保険適用の条件
労災保険が適用されるためには、次の2つの要件を満たす必要があります。
- 業務遂行性……労働契約に基づき、労働者が企業の支配下にあること
- 業務起因性……労働者の業務と傷病などの間に一定の因果関係があること
たとえば、昼休憩の外出中や終業後の会食中については、自由行動や私的行為の最中であるとして「業務遂行性」が認められず、労災保険が適用されないケースが多いといえます。
ただし、事業場施設内の休憩室にて休憩中に足を滑らせてケガをした場合や、会社の業務命令による接待中にケガをした場合などは、業務に付随する行為として「業務遂行性」が認められるケースもあります。
通勤災害の適用・適用外のケース
労災保険が適用になる災害の一つ「通勤災害」については、以下の通り定義されています。
1.住居と就業場所との間の往復
2.就業場所から他の就業場所への移動
3.住居と就業場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動を、合理的な経路および方法により行うこと。業務の性質を有するものを除く
『労災保険給付の概要』厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
3の「合理的な経路および方法」は、客観的に判断されるものです。たとえ企業に届け出ている経路と異なる場合であっても、「合理的な経路」と認められる場合があります。
「合理的な経路」の一例には「当日の交通事情によりやむを得ず迂回した経路」があります。しかし、電車が遅延したことを理由に居酒屋などで飲酒してから帰るといったケースは、経路を逸脱または中断していると判断される可能性があります。その場合は「合理的な経路」とは認められません。
また、コンビニなどでの日用品の購入、病院で診療を受ける行為、親族の介護といった一定のケースは、日常生活上必要な行為として経路を逸脱・中断しないものとされています。
万が一、労働者が企業に虚偽の届け出(通勤手当の架空請求)を行っていた場合も、ただちに労災保険の適用外ということにはなりません。社会通念上、合理的と判断されれば「合理的な経路」として認められます。
ちなみに、労災保険会社に労働者の架空請求が知れたとしても、基本的に企業に法的なリスクは生じません。
通勤手当の架空請求の回避と発覚した際の対応
前述したように、労働者が通勤手当の架空請求をしていたとしても、それを理由に労災保険の適用から外されることはありませんし、企業にペナルティが課されることもありません。しかし、企業内の秩序維持の面では問題といえるでしょう。
虚偽申請行為を放置すれば、不正受給が横行し、企業は経済的な損失を被ることになります。また、社内のモラル低下・士気低下を招きます。
このような事態を回避するためにも、架空請求をしていた労働者に対しては返金請求を行い、懲戒処分を下すことが賢明です。悪質な場合は、被害届の提出や詐欺罪として刑事告訴を検討する必要があります。
そもそも架空請求が起こらないよう、日頃から厳重な管理を行うべきです。入社時に「通勤経路届」を提出させるのはもちろん、定期的に労働者の通勤経路の実態を調査することは必須といえます。申告通りの定期券を購入しているか確認するため、年に一度は券面のコピーを提出させて確認を行いましょう。
上記のように、あらかじめ架空請求をしにくい環境や仕組みを作ることで、リスクを回避することができます。
※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
<取材先>
ブレイス法律事務所 弁護士 渡邉直貴さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト