社員旅行とは?
社員旅行は、企業側が旅行費用の多くを負担し、従業員の慰労や交流を目的に行われるイベントです。1990年代以降は、働き方への意識の変化などに伴い、実施する企業は減少傾向にあるといわれています。しかし近年は、従業員へのねぎらいとともに、従業員同士のコミュニケーション向上や、組織の一体感の醸成などを視野に入れて社員旅行を開催する企業がみられます。
社員旅行の税務上の取り扱いとは
社員旅行は、原則的に下記の要件を満たせば福利厚生費として経費計上できるといわれています。ただし、これらは法律で定められているものではなく、所得税法基本通達や過去の事例から導き出された基準です。あくまで一つの目安として認識しましょう。
1.旅行期間
旅行期間が4泊5日以内であること。海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であることが目安になります。
2.参加人数
旅行参加者が全体の人数の50%以上であること。工場や支店ごとの旅行の場合には、それぞれの職場ごとの人数の50%以上が参加する必要があります。
3.旅行内容(金額)
旅行内容が「社会通念上一般的なもの」であること。豪華すぎる旅行プランは経費として認められない場合があります。過去の事例から鑑みると、会社の負担額は1名につき10万円以内が無難であるといわれています。
従業員が給与課税される可能性
本来、社員旅行にあたって、企業が負担した旅行費は現物給与として従業員の所得税の課税対象となります。これは、現物給与(金銭以外の経済的利益)で法令上非課税とされているもの以外のものは、給与所得として課税するのが原則とされているためです。
一方で、現物給与の特質を考慮した場合、少額なものまで強いて追求し課税することは必ずしも妥当ではないという「少額不追求」という考え方が採られます。この考え方をもとに、社員旅行などの従業員に対するレクリエーション旅行においては、以下に挙げる事情を考慮し、社会通念上一般的に行われている範囲内の福利厚生行事に限っては課税しないという取り扱いとなっています(所得税基本通達36-30)。
- 従業員は、雇用されている立場上、参加せざるを得ない面があること
- 従業員が参加することで得る経済的利益は少額であり、その価値についての評価が難しいこと
- レクリエーション行事は一般化しており、課税するのは国民感情からも妥当でないこと
ただし、社員旅行費が社会通念上一般的な金額よりも多額だとみなされた場合などは、従業員に給与課税される可能性があります。また、不参加者に旅行費用分を金銭で支給した場合は、金銭の支給を受けた従業員だけでなく、旅行に参加した従業員にも給与課税されるので注意が必要です。
こんなときはどうなる?
◆不参加者が多い場合
先述したように、社員旅行の参加人数が全体で50%以上であることが要件として挙げられています。参加者が50%未満で旅行を開催した場合、参加した従業員に給与課税される可能性があります。
◆従業員の家族の参加は認められる?
従業員ではない家族の場合は福利厚生費として計上できる条件を満たしていないため、企業の経費での参加は原則的に認められません。経費として計上した場合、後から従業員に給与課税される可能性があります。家族を同伴する場合は、従業員の自己負担で参加するのが望ましいでしょう。
◆企業単位ではなくグループ単位の旅行は可能?
社員旅行を福利厚生の一環として扱うためには、全ての従業員を対象とする必要があります。ただ、参加人数が要件を満たしていれば、別々の日程で支店単位や部署単位などのグループ単位で社員旅行へ行くことは問題ありません。
社員旅行の費用が所得税の対象となるかについては、明確な基準がないため、線引きが難しいところがあります。社員旅行を企画する際は、過去事例から導き出された基準をもとに、企業にも従業員にも負担にならないプランニングを心がけましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年9月時点のものです。
<取材先>
高橋創税理士事務所 高橋創さん
東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。卒業後、簿記学校税理士講座で所得税法の講師を務める。2007年に独立開業。著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』『図解 いちばん親切な税金の本20-21年版』(ナツメ社)『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか? 日本の昔話で身につく税の基本』(ダイヤモンド社)など。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
