福利厚生とは
福利厚生とは、企業が従業員に提供する給与以外のサービスを指します。「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」の2つに分類されます。この記事での福利厚生は、後者の、法で定められていない、企業が独自に実施する福利厚生を指します。福利厚生の導入・整備は、従業員が働きやすい環境づくりを目的としています。
課税と非課税の判断基準とは
福利厚生費は原則経費として計上できるので、企業にとって節税対策にも効果があります。
しかし、福利厚生の内容や支給方法によっては、従業員の給与に上乗せされ、所得税の課税対象となるケースがあります。
◆「所得税基本通達」を基準とする
特定の福利厚生が従業員の課税対象になるか否かは、所得税法や国税庁が定める「所得税基本通達」によって定められており、これらをもとに、課税か非課税かを判断します。
この福利厚生は課税?非課税?
◆社宅・独身寮など
従業員に対して社宅や寮などを貸与する場合には、従業員から1カ月あたりの一定額の家賃である「賃貸料相当額」以上を従業員から受け取っているかどうかで課税か非課税かが変わります。物件が企業所有の場合でも、借り上げ物件の場合でも同様です(所得税法9、36、所得税法施行令21、84の2、所得税基本通達9-9、36-15、36-41、36-45、36-47)。
賃貸料相当額=1+2+3の合計額
- (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント
- 12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))
- (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント
・課税となるケース
家賃10万円の部屋を企業が借り上げ、無料で貸与されていた場合(10万円が従業員の給与とされ、所得税が課税されます)
・非課税となるケース
家賃10万円の部屋を企業が借り上げ、従業員が賃貸料相当額以上である3万円を毎月支払っていた場合
◆在宅勤務手当
一律の金額を手当として支払った場合は課税、実費精算の場合は非課税となります。また、パソコンなど在宅勤務に必要な備品を支給した場合は課税となり、貸与した場合は非課税となります。
(国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」より)
・課税となるケース
在宅勤務の従業員に、毎月在宅勤務手当として5,000円を支給した場合
・非課税となるケース
在宅勤務に通常必要な費用を実費精算する場合
◆貯蓄・持ち株・NISA
すでに課税された給与の一部から天引きされ、積立てなどに充てられる場合は、福利厚生の扱いにはならず、所得税の課税関係は生じません。共済会・互助会の費用や、積立式の保険関係費や退職金なども同様です。
◆職場給食費
従業員に支給する食事は、次の2つの要件を満たしていれば、非課税となります(所得税法36、所得税基本通達36-24、36-38、36-38の2等)。
- 役員や従業員が食事の価額の半分以上を負担していること
- 次の金額が1カ月当たり3,500円(消費税及び地方消費税の額を除く)以下であること
(食事の価額)-(役員や従業員が負担している金額)
※「食事の価額」とは下記のいずれかを指します
- 弁当などの購入に際して業者に支払っている額
- 社員食堂などで調理をしている場合は、その原価となる金額
◆通勤・交通費
一律の金額を手当として支払った場合は課税、実費精算の場合は1カ月15万円を上限として非課税となります(所得税法9、所得税法施行令20の2、所得税基本通達9-6の3)。
・課税となるケース
毎月、定期代として定額(1万5,000円など)を支給している場合
・非課税となるケース
従業員が1万5,000円分の定期券を購入し、実費精算を行った場合
◆ユニフォーム
勤務場所のみにおいて着用するユニフォームや事務服、作業服等については、制服に準ずるとして非課税となります(所得税基本通達9-8)。
◆育児・育英費
手当として一律支給される場合は、原則的に課税対象になります(所得税法36)。
◆教育訓練費
教育訓練費には、従業員の能力や技能向上を目的に、講習会やセミナー、資格取得の勉強会の参加費、受講費などが挙げられます。この費用のうち適正なものは非課税となります(所得税基本通達36-29の2)。
◆健康・医療費
健康診断や人間ドックを受ける費用を指します。従業員全員を対象としているものや、著しく多額でない一般的な健診内容であれば非課税となります。年齢による受診条件を出すのも問題ありません(所得税基本通達36-29)。
◆レクリエーション関連費
企業が費用を負担して催した会食、旅行、イベントなどの行事に参加した従業員に対しては非課税になります(所得税基本通達36-30)。ただし、同じ行事に業務以外の理由で参加しなかった従業員に対して、企業がその参加に代えて金銭を支給する場合は、全員に対して課税する必要があります。
◆慶弔見舞金
葬祭料、香典又は災害等の見舞金のうち社会通念上相当とされるものについては非課税となります(所得税基本通達9-23)。
◆自社製品の割引
企業が従業員に対して自社製品(有価証券及び食事を除く)の値引き販売をする場合、次の要件のすべてに該当する場合は値引かれた部分の金額は非課税となります(所得税基本通達36-23)。
- 値引き販売の価格が原価以上であり、かつ通常で販売する価格の概ね70%未満でないこと
- 従業員の職位や勤続年数等に関わらず、値引き率が一律であるか、または、一律でなかったとしても、全体として合理的なバランスが保たれていること
- 販売数量が一般家庭で消費する程度であること
◆旅費・海外渡航費
出張に必要な旅費・海外渡航費は、実費精算のケースがほとんどと考えられるため、一般的には非課税となります。出張に伴って出張手当が発生する場合は、就業規則の旅費規程で定められている金額であれば、こちらも非課税となります(所得税基本通達9-3)。
◆カフェテリアプラン
カフェテリアプランとは、従業員に一定額の補助金(ポイント)を支給して、従業員はそのポイントの範囲内で用意された福利厚生メニューから選択し利用できる福利厚生です。その内容や用途によって支給されたポイントの課税・非課税を判断することになります。
なお、従業員の職務上の地位や報酬額に比例してポイントを付与されるような場合には、公平性に欠けることから課税対象となります。また、原則的に非課税となるのは現物支給に限られており、換金性のあるカフェテリアプランは課税対象になるといえるため、原則として課税対象となると考えたほうが無難です(所得税法第36条、所得税基本通達36-29)。
ひとくちに福利厚生といっても、課税・非課税が混在しているため、従業員の給与計算の方法が異なります。判断基準に沿って正しく計算を行うことが重要です。また、課税・非課税の仕組みについて、従業員にも理解を得られるようにしておきましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年9月時点のものです。
<取材先>
高橋創税理士事務所 高橋創さん
東京都立大学(現首都大学東京)経済学部卒業。卒業後、簿記学校税理士講座で所得税法の講師を務める。2007年に独立開業。著書に『税務ビギナーのための税法・判例リサーチナビ』『図解 いちばん親切な税金の本20-21年版』(ナツメ社)『桃太郎のきびだんごは経費で落ちるのか? 日本の昔話で身につく税の基本』(ダイヤモンド社)など。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト




