人事考課でフィードバックを行う際の注意点

考課表のイメージ

人事考課において、まずは従業員自らが自身の評価をするケースが一般的になってきています。このとき、人事担当者は上長に対し、その自己評価をもとに、従業員本人にどのようなフィードバックを行うよう伝えたらいいのでしょうか。人事考課でフィードバックを行う際の注意点について、人事考課に詳しい、株式会社メディンの代表で経営コンサルタントの西村聡さんに話を伺いました。

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人事考課とは

人事考課は、従業員一人ひとりの能力(行動)や勤務態度、業績を、一定の考課要素に従って上司が査定することです。査定は年2回とする企業が多く、その結果が賃金管理や異動配置、能力開発などに生かされます。
 
考課するための基準(内容)は経営方針や目標、経営計画とも連動するため、目標管理の強化や部下育成にもつながる面があります。

人事考課導入のメリットと注意点

人事考課のメリットは、さまざまな判断材料から従業員を一定の基準で公正に評価できることです。現在、日本の多くの企業は能力評価を重視する傾向にあります。能力そのものは客観性に乏しく、これを測るには、正しく評価するための要素とその基準が複雑になるという難点があります。人事考課はそうした難点をできるだけ克服し、評価することが求められます。
 
また、人事考課も導入・運用の仕方によっては、期待通りに機能しないことがあります。考課のための職務基準に経営方針などが含まれるように、企業は従業員に対し、経営計画や目標を共有することが欠かせません。
 
このため経営陣は会社の経営計画と目標をきちんと定め、従業員に理解してもらうコミュニケーションが必要です。経営陣と従業員で「同じ目的地を目指すためにどのような方法をとればよいか」の認識をそろえ、会社の掲げる目標を達成するために、従業員一人ひとりがどのように行動していくべきかを明確にすることで、人事考課制度が正しく機能し、人材育成や会社の業績の向上につながります。

人事考課のフィードバックの行い方

従業員自らが自身の評価をし、上司がそれを参考に本人に対して評価結果をフィードバックする際は、まず会社の掲げる経営目標を改めて共有し、従業員との認識をすり合わせておくことが必要です。
 
そのうえで、従業員の日常の業務(行動)がどのような業績につながっているか、結果と事実を確認し、評価基準に基づいて達成度を評価します。
 
評価にあたっては、結果よりもむしろ原因に目を向け、従業員が業務の達成のためにとった行動を振り返ることが大切です。
 
これらを円滑に進めるために、フィードバック面談に臨む準備の一つとして、フィードバックメモを作成することをおすすめします。

◆フィードバックメモに記入しておくこと

  1. 導入部…職務環境や業務、労働条件などについて聞き、上司からの理解の言葉を伝える。事前にある程度想定しておくとよい
  2. 褒める点…業績考課(前回設定した目標がどの程度達成できたか)についてのプラス面
  3. 注意する点…業績考課についてのマイナス面
  4. 育成点…ジョブ・スキル考課(業務においてのスキルがどう変わったか)、セルフコントロール・スキル考課(感情のコントロールや切り替え、モチベーションの保ち方など)に関してのマイナス面とその改善策についての助言
  5. エンディング…ジョブ・スキル考課、セルフコントロール・スキル考課に関してプラス面と激励の言葉


フィードバックの前には、事実を整理しながら、業績に達成しなかった場合は原因とその対策を上司も想定しておくことが重要です。達成している場合であっても、その方法(やり方)を継続、あるいは他業務や他者に水平展開できるようにするにはどうするかをあらかじめ整理、確認しておきましょう。

人事考課のフィードバックの注意点

人事考課のフィードバックにおける注意点は、憶測で判断することを避けることです。同僚や部下、人事担当者など、周囲の人間からの多面的な情報を集め、事実に基づいた客観的な評価を行います。

◆よくある人事考課エラー6例

人事考課において、人事考課者がやってしまいがちな代表的なエラーは下記の6つです。
 
1.ハロー効果
何か1つ悪い点があると、何もかもが悪く見えてしまい、逆に何か1つ良いと何もかもが良く見えてしまうこと。部下の持つハロー(光景)に惑わされて評価が歪んでしまう。たとえば、「部下の明るく積極的に取り組む姿勢から、協調性もあるもの」と勘違いする。
 
2.寛大化傾向
意図的もしくは無意識に評価を甘くつけてしまい、結果として、SやAばかりになってしまうこと。かわいがっている部下や、好意を抱いている部下などを実際以上に甘く評価してしまう。
 
3.中心化・極端化(分散化)傾向
評価結果がBに集中したり、極端にSとかDをつけたりしてしまう。中心化傾向は、極端な評価を避けたり、当たり障りのないようにと考えたり、評価に自信がない場合に起こる。
極端化傾向は、中心化にならないようにあえて評価をバラつかせたり、1つの事実を極端に捉え、評価してしまったりする場合に起こりやすいので注意。
 
4.論理的誤差
考課者が、関連のありそうな要素をつなげて飛躍的、短絡的な評価をしてしまう。たとえば「英文科出身なので英語が得意に違いない」「転職をしているので、物事を投げ出しやすい性格だ」など。
 
5.対比誤差
役割基準や職能要件といった客観的基準を無視し、「彼の年齢の頃は、私はこうしていた」などとその基準を自分に求め、自分と部下を比較し、判断してしまう。
 
6.期末効果
考課時期に近い職務行動の印象が強く残り、それに引きずられ、考課対象期間全体の評価ができないこと。日常業務の中での考課に対する関心が薄い場合や、人事考課のための記録をつけていない考課者に起こりやすい。

適切なフィードバックを行うために日頃から取り組みたいこと

適切なフィードバックは、すぐにできるものではありません。日頃から、以下のポイントを取り入れるよう人事考課者に伝えると良いでしょう。

◆部下を責めない

人は頭ごなしに責められると、「自分を否定された」と思って自己防衛に走りやすくなります。建設的にフィードバックを行うためには、ネガティブな情報こそ感情的にならずに伝えます。その際、必ず良かった点も探し出して伝えると相手も受け入れやすくなります。

◆自分でも原因を想定する

部下が失敗してしまった場合、その原因について考えさせることが大切です。「部下の失敗」という結果だけを見ず、部下の取った行動にスポットライトを当てて、失敗を招いた原因を筋道立てて分析できるように促しましょう。また、上司自身も「自分ならこの失敗をどういう手順で解決していたか」を想定しておき、部下が自分で考えられるようにフィードバックの中でヒントを与えましょう。

◆日頃からフィードバックを行う

考課制度のフィードバックはあくまでも制度上のものです。ゴールである経営目標の達成には、日々の管理やフィードバックが必要不可欠です。日頃から部下の様子を観察し、良かったことや気になったことをメモしておき、折に触れてしっかりとコミュニケーションをとりましょう。

◆考課者訓練を受ける

部下に人事考課を行う上司は、フィードバック面談などをロールプレイする考課者訓練を受けるのが理想的です。経験の多い別の上司が部下役を務め、演習を行うことで、上司自身が人事考課制度への理解を深めることができます。

◆被考課者訓練を取り入れる

人事考課を受ける側の部下に向けた訓練も有効です。管理職が効果的なフィードバックをしていくためには、フィードバックを受ける相手が目標管理・人事考課の目的や運用方法について深く理解していることが必要といえます。被考課者も訓練を受けることによって、自己の振り返りや、目標設定の仕方などを学ぶことができます。

テレワークで評価制度が変わる?

テレワークが普及し、それぞれが別々の場所で仕事をするようになってからは、今まで以上に能力評価をすることが難しくなりました。そのため、「1日の進捗」や「成果」で業績管理を行う流れが生まれています。これはテレワークになったからというよりは、元々の曖昧にならざるを得なかった能力評価を見直し、より公正な評価制度(業績評価)に移行する好機とも考えられます。


※記事内で取り上げた法令は2021年5月時点のものです。
 
<取材先>
株式会社メディン代表 西村聡さん
(公財)関西生産性本部主任経営コンサルタントとして活動後、独立。近畿大学非常勤講師、経済学修士。日本労務学会、日本経営工学会などの正会員。ビジネスプロセスの改革を行う独自の役割等級人事制度の導入・構築手法で企業の経営革新を支援している。著書に『経営戦略を実現するための目標管理・人事考課』(日本法令)などがある。
 
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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