ミッショングレード(役割等級制度)とは
「等級制度」とは人事制度の骨組みとなるもので、従業員をある基準でランク分けし、業務を遂行する際の権限や責任、さらには処遇などの根拠としていく制度を指します。
「ミッショングレード」(役割等級制度)とは、この等級制度の一つであり、「役割」単位で等級が決められています。一つの職種のなかに、レベル差のある役割があり、その役割の遂行度や発揮度で給与が決められる制度です。
他の等級制度との違い
等級制度には、ほかに「職能等級制度」と「職務等級制度」とがあります。
◆「職能等級制度」(アビリティ・グレード)とは
「人」単位で、等級が決められている制度です。職種にかかわらず、その人の能力で給与が決まっていく制度です。ここでいう能力とは、これまでに蓄積された業務を遂行する能力を指し、経験が重要視されやすくなります。かつて多くの日本企業で採用されていた制度で、年功・勤続要素が高いため、賃金は年々高くなっていく傾向にあります。また、配置転換などもしやすいため、広範囲にわたる知見を持つ「ゼネラリスト」を育成するのに向いており、帰属意識が育ちやすい制度です。
◆「職務等級制度」(ジョブ・グレード)とは
「仕事」単位で等級が決められている制度です。アメリカでは一般的な制度で、年齢や経験に関わらず、その仕事をする人は「スペシャリスト」として給与が設定されます。労働内容に応じた給与が明確になる点がメリットです。一方で、日本企業は欧米の企業に比べて職務を超えて従業員が助け合うことも多いため、職務の明確な線引きが難しいというデメリットがあります。
職務等級制度から生まれ、この2つの制度の良い部分を合わせたのが役割等級制度です。経営目標を達成するにあたって「役割」に応じて等級を与えます。そのため、「人」にも「仕事」にも偏らず、設定された役割の大きさに応じて等級や序列を決める制度として近年導入する会社が増えています。
ミッショングレード(役割等級制度)のメリット・デメリット
◆メリット
- 会社独自の「役割定義」によって評価項目を決められること
- 経験や勤続年数にとらわれないため、中途採用が多い中小企業などにも運用しやすい
ミッショングレード(役割等級制度)は、現時点での役割において貢献度が高い人を評価しやすいため、役割を果たしている従業員には年齢に関わらず高い評価を与えることができます。
逆に従来の年功序列型で高い地位や賃金を維持している従業員に対しては、処遇を見直すなど、より適正な評価が可能となります。また、従業員は自身の現在の等級やスキルレベルなどを自覚した上で、今後何をすべきかを認識しやすいため、将来を思い描きやすく、意欲の向上にもつながります。
◆デメリット
各従業員に果たすべき職務や成果を具体的に提示するため、導入時に自社に合った「役割定義」の作成が必要です。役割定義の作り方によっては、適正な評価がしづらく、評価基準があいまいになってしまうリスクもあります。
また、勤務年数の長い年配の社員も降格や降給の対象になり得るため、一部の社員からは不満が生じやすくなるという事態も考えられます。
榎本あつしさんの資料をもとに編集部が作成
導入の際に行うべきこと
ミッショングレード(役割等級制度)の導入は、次の5つのステップで行います。
1.会社内での職種を分ける
例えば、建設業なら「営業」「工事」「設計」「本部」など、社内での職種を分けます。
2.社員をいくつかの段階に分ける
次に、社員を段階に振り分けます。たとえば指示通りに仕事を完遂できる「スタッフ(S)」、スタッフに指示ができる「リーダー(L)」、人材の育成ができる管理職「マネージャー(M)」など。1つの職種につき、3つ程度に区分します。
榎本あつしさんの資料をもとに編集部が作成
3.それぞれの段階の役割定義を作る
「求められる成果」「必要な能力」「裁量と責任の大きさ」など、それぞれの段階ごとに役割定義を作成します。なるべく具体的に設定しましょう。
榎本あつしさんの資料をもとに編集部が作成
4.2で区分した段階をさらに3~4つに分けます。同じ「S:スタッフ」でもさらにレベルで区分けして「S1」~「S3」などに分類し、ランク付けをします。
5.職種と段階を組み合わせる
職種と段階を組み合わせて、一つの職種につき9つ程度の等級を作ります。役割等級では、職種ごとに給与設定をします。
榎本あつしさんの資料をもとに編集部が作成
等級制度の導入時に、「S等級はそれぞれ2年」「L等級はそれぞれ3年」など、目標とする職位や職務に向かって、必要なステップを踏んでいくための順序や道筋となる「キャリアパス」を示すと、従業員が具体的に次のステージを目指しやすくなります。
初めて「ミッショングレード」(役割等級制度)を導入する場合、完全にゼロの状態から自社の役割定義を作るのは難しいため、同業他社の事例を参考にしたり、専門家に意見を聞くなどして作成したりするケースが多いようです。
制度を運用する上で大切なこと
役割定義は、等級を決める上で重要なベースとなるものです。決めたら終わりではなく、上司も部下も「自分がどんな役割を求められているか」を認識し、期間中もこまめに面談などでコミュニケーションを取って「今の役割ができているかどうか」を確認していくことが大切です。
作成後も常に役割等級の内容を見直し、必要に応じてブラッシュアップしていくことが重要です。
※記事内で取り上げた法令は2021年5月時点のものです。
<取材先>
株式会社MillReef 代表取締役 榎本あつしさん
2002年、大手派遣会社の人事部より独立。「人材育成」と「業績向上」を実現する「A4一枚評価制度」や、「評価をしない評価制度」の開発者。シンプルで運用重視の中小企業向けの人事評価制度コンサルティングを主要業務としている。著書に『人事評価制度の課題がこれで解消!「評価をしない評価制度」』など。社会保険労務士法人HABITAT代表社員、「人事制度の学校」代表。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト