採用広報とは何か?
広報活動といえば、自社の製品やサービス、企業イメージなどをアピールする、ブランディングとしての「企業広報」を指すのが一般的です。これに対して、採用活動に特化し、求職者や就活市場に向けて行うブランディングのことを、「採用広報」と呼んでいます。
たとえば、理系の大学のキャンパス周辺で、研究開発系の企業の看板を見かけることがありますが、これは世間一般に向けた企業広報というよりも、採用広報の一例と考えるべきでしょう。
ただし、同じ「広報活動」と言っても、自社の製品やサービスがターゲットとする消費者と、従業員に求める人材像は必ずしも一致するものではない点で注意が必要です。一例を挙げれば、人々に癒やしや安心を与える製品を売っている企業でも、癒し系の人材を求めているとは限らず、むしろ企画開発や営業を精力的にこなすエネルギッシュな人材が好まれるのはよくあることです。
その意味で企業広報と採用広報は似て非なるものであり、広報活動に込められるメッセージとの違いに留意しなければなりません。
なぜ採用広報を行う必要があるのか
頻繁にテレビコマーシャルを見かけたり、駅前や街中などに多くの看板を設置している企業は、世間一般に高い知名度を持っています。消費者としてのターゲット層と、求める人材像に乖離がないのであれば、こうした知名度の高さが就活市場でも功を奏することは間違いないでしょう。
とはいえ、就活に取り組む求職者からすると、いくら社名や商品名を知っていても、「社風や理念がよくわからない会社」である場合は応募に二の足を踏んでしまうことも懸念されます。その場合は、人材獲得競争で不利になってしまう可能性があるので注意が必要です。
そこで必要になるのが採用広報です。自社がどのような人材を求めているのか、どのような理念に共鳴してほしいのか、そして人材にとってどのような環境を用意しているのかを補完することは、社名や商品の知名度の有無に関わらず大切です。
採用広報活動を適切に続け、採用ブランドが確立されれば、それだけ採用活動は有利になります。たとえば、独立心旺盛な人材が多く集まっていたり、専門スキルを備えた人材を十分に雇用できている企業などは、企業名と求める人材像が一致した採用広報に成功している事例と言っていいでしょう。
採用広報で成果を生むためのポイント
逆に、企業ブランドと採用ブランドが大きく異なっている場合は、採用広報が企業イメージにネガティブな影響を及ぼすこともあり得るので注意が必要です。
もし、癒やしを提供する会社でありながら仕事第一の人材が多く活躍している印象を与えてしまうと、企業イメージにハレーションが起こり、マイナスに作用してしまうこともありえます。
そのため採用広報を行う際にはまず、自社がどのような企業広報を行い、どのようなブランディングを目指しているかを理解しておくことが大切です。そして企業広報に込めているメッセージと、目指す採用ブランドにどのようなギャップがあるのかを正しく把握しなければなりません。そのうえで、企業イメージを損なわない手法や表現で採用広報を行えれば理想的でしょう。
繰り返しになりますが、製品やサービスの魅力を伝える企業広報との最大の違いは、「求職者にターゲティングした」広報活動である点にあります。“職場”としての自社の魅力をいかに表現し、いかにわかりやすく発信するかが広報担当者の腕の見せ所と言えるでしょう。
<取材先>
人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光さん 京都大学卒業後、リクルートに入社。人事部のゼネラルマネージャーとして培ったスキル・ノウハウと、2万人の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用する独自手法を確立。その後、大手生命保険会社などで一貫して人事領域で活躍し、2011年に株式会社人材研究所設立。著書に『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新聞社)などがある。
TEXT:友清 哲
EDITING:Indeed Japan + 波多野友子 + ノオト