経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)とは
◆連鎖倒産から中小企業を守る共済制度
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、中小企業の連鎖倒産を防止する目的で作られた制度です。万が一、同制度に加入している企業の取引先事業者が倒産し、その取引先事業者との間に回収できない売掛金債権等が生じた場合、共済金の貸付を無担保・無保証人で行います。1978年に中小企業倒産防止共済法に基づき発足し、国が全額出資している独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営しています。
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)の特長
◆掛金月額が選べる
掛金月額は5,000円~20万円の範囲内で、5,000円単位で選べます。加入後も掛金月額の増額や減額が可能ですが、減額には一定の要件が必要です。掛金総額が800万円になるまで積み立てられ、掛金総額が掛金月額の40倍に達した後は、掛金の掛止めができます。
◆貸付を受けられる条件
経営セーフティ共済の加入者の取引先事業者が倒産し、売掛金債権等が回収困難になったときに貸付が受けられます。この場合の「倒産」とは下記を指します。夜逃げは倒産には含まれないため、貸付を受けることはできません。
- 手形交換所に参加する金融機関から取引停止処分を受けた場合
- でんさいネット(株式会社全銀電子債権ネットワーク)に参加する金融機関から取引停止処分を受けた場合
- 法的整理(破産手続開始、再生手続開始、更生手続開始、特別清算開始の申立て)
- 私的整理(債務整理の委託を受けた弁護士などによって、支払を停止する旨の通知がなされた場合)
- 災害による不渡り
- 災害によるでんさいの支払不能
- 特定非常災害による支払不能
貸付は無担保・無保証人で受けることができます。利子は発生しませんが、共済金の貸付を受けると、貸付額の10分の1に相当する額が積み立てた掛金総額から差し引かれます。
◆貸付金額について
共済金の貸付額は、加入者が支払った掛金総額の10倍(最高8,000万円)もしくは、取引先事業者から回収できなくなった売掛金債権等の額のいずれか少ない額の範囲内で請求した額となります。
<算定例>
掛金総額100万円の加入者が取引先事業者の倒産に遭い、売掛金債権等1,500万円の焦げ付きが発生した場合
(A)掛金総額100万円×10=共済金貸付額の上限1,000万円
(B)売掛金債権等の被害額1,500万円
(A)と(B)を比較し、少ない額である(A)の1,000万円が貸付金額となる
◆償還期間と償還方法
経営セーフティ共済では、貸付金額に応じて下表のように償還期間が異なります。当初の約定完済日より12カ月以上早く完済するなど、特定の条件を満たすと「早期償還手当金」が支給されます。
「経営セーフティ共済」(独立行政法人 中小企業基盤整備機構発行)パンフレットより
共済制度に加入するための条件
経営セーフティ共済への加入条件は以下です。
(1)下表の条件に該当する中小企業者のうち、継続して1年以上事業を行い、「資本金等の額」または「従業員数」のいずれかに該当する必要があります。個人事業主も加入が可能です。
「経営セーフティ共済」(独立行政法人 中小企業基盤整備機構発行)パンフレットより
(2)企業組合、協業組合
(3)事業協同組合、商工組合等で、共同生産、共同販売等の共同事業を行っている組合
加入のメリット、デメリット
◆メリット
・税制上の優遇措置がある
経営セーフティ掛金は、法人の場合は損金、個人事業の場合は事業所得の必要経費に算入することができます。
・金融審査なしで貸付が可能
取引先事業者の倒産の事実が確認でき次第、金融審査を行わず無担保・無保証人で貸付が行われます。平均10日~2週間程度での短期間での貸付が可能です。
・掛金月額を変更できる
先述したとおり掛金月額が5,000円単位で選べるため、取引先事業者が増えた際に備えとして増額するなど、柔軟に制度を活用できます。
◆デメリット
・掛金納付月数12カ月未満は掛け捨て
経営セーフティ共済は解約した場合には「解約手当金」として掛金が戻ってきますが、解約手当金が支払われるのは掛金納付月数が12カ月以上の加入者です。そのため、加入後12カ月までは掛け捨てになることを知っておきましょう。
なお、加入から40カ月未満の場合は、受け取れる金額が掛金総額を下回るので注意が必要です。
解約手当金の額は、掛金の納付された月数に応じ、掛金総額に下表の率を乗じて得た額となります。
「経営セーフティ共済」(独立行政法人 中小企業基盤整備機構発行)パンフレットより
また、共済契約の解約の種類によっても解約手当金の額が変わります。
- 任意解約…契約者が任意に行う解約
- 機構解約…契約者が掛金を12カ月以上滞納したり、不正行為によって共済の貸付を受けようとしたりした場合などに機構が行う解約
- みなし解約…個人事業の契約者の死亡、会社解散、会社分割、事業全部譲渡などが起きた場合、その時点で解約されたとみなされる
・解約手当金は課税対象となる
納付した掛金は、法人の場合は損金、個人事業の場合は事業所得の必要経費に算入することができますが、解約して解約手当金を受け取った場合には全額が利益となるため、課税対象となります。
加入の判断基準
経営セーフティ共済は、取引先事業者の倒産による連鎖倒産を防ぐための貸付制度であり、商取引に伴い売掛金債権が発生する事業者の加入に適しています。一般消費者向けの事業を行う企業でも加入条件を満たしていれば加入は可能ですが、売掛金債権などが生じない事業者の場合は共済金の貸付を受けられないので注意しましょう。
経営セーフティ共済は、取引先に不測の事態が生じたときのためのセーフティネットシステムです。メリットとデメリットを知り、自社に合っているかじっくり検討しましょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年3月時点のものです。
<取材先>
独立行政法人中小企業基盤整備機構 共済事業推進部 浅野勉さん
略称は中小機構。2004年、日本の中小企業の経営を支援するために設立され、全国に地域本部や中小企業大学校を9か所設置。中小企業やベンチャー企業等への助言や研修、中小企業者向けの高度化融資、小規模企業共済、経営セーフティ共済などの事業を行っている。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト