業務改善助成金とは
「業務改善助成金」は会社の生産性を向上させ、「事業場内で最も低い賃金(事業場内最低賃金)」の引き上げを図る中小企業・小規模事業者を支援する助成金です。
事業場内の従業員の最低賃金を一定額以上引き上げるほか、機械設備、コンサルティング導入や人材育成・教育訓練生産性向上につながる設備投資などを行った場合に、その費用の一部が助成されます。
業務改善助成金は会社単位ではなく、各営業所や事業所、工場などの「事業場」単位で申請できます。
特例的な要件の緩和・拡充が行われた背景
新型コロナウイルス感染症の影響によって、2021年8月から「業務改善助成金」は対象人数の拡大や助成上限額の引き上げが行われました。
その背景には、最低賃金の引き上げが一つの要因としてあります。2021年10月、同年度の最低賃金の全国平均は時給換算で902円から930円になりました。中でも最低賃金がもっとも高い東京都は、1,013円から1,041円まで引き上げられています。
特例的な要件緩和・拡充の具体的な内容
業務改善助成金の申請ができる対象者は下記です。
- 中小企業の事業主であること
- 対象事業場規模は100人以下であること(申請は企業単位ではなく事業場単位)
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金との差額が30円以内であること
助成上限額は、賃金の引き上げ額と賃金を引き上げる労働者数によって変わります。詳しくは厚生労働省のリーフレットを確認してください。
今回の特例的な要件緩和・拡充による変更点は下記です。
- 45円コース(引上げ額が45円以上)を新設(赤い点線の枠で囲われた箇所)
- 年度内に2回の申請が可能
- 上限加算の対象人数を10人まで拡大(助成金上限額を450万円から600万円へ拡大)
- 設備投資として、パソコン、スマートフォン、タブレットなどの端末、貨物自動車の新規購入(増設含む、30円以上の引き上げコース)も助成対象となる
生産性要件については、厚労省の生産性要件算定シートで算出できます。
また、3及び4については、事業所内最低賃金900円未満の場合と、生産量要件を満たす場合に認められます。生産量要件とは、売上高や生産量などの事業活動を示す指標の直近3カ月間の月平均値が、前年または前々年の同じ月に比べて30%以上減少していることを指します。
◆支給要件
業務改善助成金の支給要件は下記です。
1.賃金引き上げ計画を策定し、事業内最低賃金を一定額以上引き上げること(賃金引き上げ前に助成金交付申請書の提出が必要です。交付申請後であれば賃金引き上げは交付決定前でも可能。賃金引き上げについては事業場内最低賃金の規定を就業規則等に明記し、その写しと、賃金を引き上げた労働者の賃金台帳の写しを提出すること。)
2.引き上げ後の賃金額を支払うこと
3.生産性向上に役立つ機器・設備などを導入して業務改善を行い、その際に必要な費用を支払うこと
4.解雇、賃金引き上げなどの不交付事由がないこと
◆申請方法
業務改善助成金は、次の流れで申請から受け取りまでを行います。
1.助成金交付申請書の提出
2022年1月31日までに、事業改善計画と賃金引上計画を記載した交付申請書を都道府県労働局に提出する
ただし、助成金は予算が無くなればもっと早く締め切る場合があります。
2.助成金交付通知
交付申請書の内容が適正と認められれば受理され、助成金交付通知が届く
3.業務改善計画・賃金引上計画の実施
2022年3月31日までに設備機器やサービスの導入を実施し、実際に業務を効率化して生産性を向上させる
4.事業実績報告書の提出
業務改善計画の実施結果と、賃金引上の状況を明記した「事業実績報告書」を都道府県労働局へ提出する
5.助成金額の確定通知
事業実績報告書の内容が受理され、助成金額の確定通知が届く
6.支払い請求書の提出
支払い請求書を都道府県労働局へ提出する
7.助成金の受け取り
支払いが実行される
最低賃金引き上げをどう活用する?
2020年はコロナ禍の影響から最低賃金の全国平均の引き上げ幅は1円にとどまったものの、国は年々引き上げを実施しています。2021年度は、政府が「より早期に平均1,000円をめざして引き上げに取り組む」と表明しており、今後もこの流れは続いていくことが予測されます。
賃金の引き上げは、会社にとって負担の大きいものですが、いずれ対応していかねばならないものです。助成金を活用しながら先んじて賃金の引き上げを行うことは、他社との差別化による人材の獲得や、従業員の意欲向上につながります。会社の価値を上げていくことが、将来的に大きなメリットになると考えられます。
とはいえ、一度上げた賃金を引き下げるのは困難です。業務改善助成金の要件に合わせることを目的として賃金設定をしてしまうと、後で資金繰りが苦しくなる可能性もあるため、無理のない範囲で計画と申請を行いましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
<取材先>
TOMA社会保険労務士法人 代表社員 特定社会保険労務士 渡邉哲史さん
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト