企業が学生の採用に向けて実施するインターンシップに、コロナ禍の影響が及んでいます。社員がオフィスに出社して働く機会が減ったことから、インターンシップをオンライン上でリモート開催する動きが活発になってきました。
 
出社を前提としていた従来のインターンシップに比べて、リモートで実施するにはどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。また、IT業界ではない中小企業では、オンライン上でのインターンシップをどのように自社で取り入れることができるでしょうか。
 
HM人事労務コンサルティング代表で社会保険労務士の丸山博美さんに、お話を伺いました。


インターンシップのリモート化はIT業界以外でも広がった


――インターンシップのリモート化には、どのような動きがありますか?
 
新型コロナウイルス感染症の拡大をきっかけに、2020年度はインターンシップのリモート化が様々な業界でぐっと進みました。対面で実施するはずだったインターンシップを急遽オンラインに切り替えたケースも多かったようです。
 
「インターンシップのリモート化」といっても、業界や職種によってはいまひとつピンとこない方も多いかもしれません。しかしながら、実はコロナ以前から、IT業界を中心に積極的にリモート開催する動きはありました。たとえば、とあるIT企業では、2019年時点でオンライン完結型のインターンシッププログラムを展開し、次世代のエンジニア育成に取り組んでいます。
 
実際にやってみると、インターンシップは必ずしも対面である必要はなく、リモートでも問題ないと実感した企業も多かったようです。コロナが落ち着いたとしても、引き続きオンラインでインターンシップを実施する企業は増えていくでしょう。

中小企業が遠方の学生にも自社をアピールできるチャンス


――特に中小企業にとって、インターンシップをリモート化するメリットは何ですか?
 
最も大きなメリットは、より幅広く学生を受け入れられることです。インターンシップにあまりコストをかけられないという中小企業でも、様々な学生に自社をアピールできる機会になります。
 
オンラインであれば居住地や移動時間の制約が大きく減るため、遠方や海外在住者を含め、あらゆる場所にいる優秀な学生に参加してもらいやすくなるでしょう。自社内に学生の作業スペースを確保する必要もなくなります。
 
また、従来の出社を前提としたインターンシップは、交通費や宿泊費などの費用の全額または一部を会社が負担するケースが多くありました。交通費の負担がなくなれば、限られた予算でもインターンシップのコンテンツの質を高めやすくなります。
 
――反対に、リモート化のデメリット(課題点)はありますか。
 
まずは、学生のモチベーション管理です。好きな場所に居ながら参加できる分、出社を前提としたインターンシップと比べれば、学生の緊張感や集中力の維持が難しくなるかもしれません。テレワーク導入時に社員のモチベーション低下に直面した企業もあったのではないでしょうか。それと同じです。インターンシップは、雇用契約ではない形で実施することも多いので、企業にはなおさら工夫が求められます。
 
また、実際に会社を訪れて社員と直に接する機会がないため、どうしても実際の社風、雰囲気が伝わりづらくなるというデメリットもあります。出社を前提としたインターンシップであれば、ランチタイムや終業後に自然に発生していたコミュニケーションが、リモート開催では発生しづらくなります。いわゆる「飲みニケーション」は、最近では問題視されることはしばしばですが、こういう場で働く人や会社のことを深く知ることもありますよね。
 
――企業にはどのような対策ができるでしょうか?
 
自然発生的なコミュニケーションが生まれるよう、企業側が意識的に場を設けてみては。具体的には、以下のような工夫ができるでしょう。

  • オンライン通話で1on1の時間を設ける
  • ビジネスチャットツールに雑談のチャンネルを作る
  • アイスブレイクのワークショップをプログラムに組み込む


デメリットとして「緊張感の維持が難しい」と挙げましたが、視点を変えれば学生にとってリラックスしやすい状況ともいえます。担当者の企画力次第で、出社を前提としたインターンシップと同等かそれ以上の質のコミュニケーションが図れると思います。
 
いずれにしても、企業側からの学生一人ひとりへの配慮を重視することで、モチベーション管理やコミュニケーション不足といったデメリットも乗り越えていけるのではないでしょうか。
 
――業界により、オンラインでの取り組みに慣れていない中小企業の人事担当者もいると思います。どのような姿勢が求められますか?
 
エッセンシャルワークをはじめ、どうしてもオンラインだけでは完結できない業種はありますが、テレワークが可能な業種であれば、基本的にはインターンシップのリモート化は可能です。前述したように工夫次第ですので、最初から「ウチは無理」と決めつけず、柔軟に取り組む姿勢が大切になります。
 
社内の理解を得るために、まず人事担当者は経営層に採用面でのメリットを示してみてはどうでしょうか。「インターンシップをリモート化すれば、従来よりも幅広い人材確保に活かせます」というアピールは、経営層にとっても魅力的に聞こえるでしょう。企業にも学生にも有益なインターンシップの方法を考えていただけたらと思います。

先行事例を集めて、自社でできることを考えよう


――2020年度、リモートでのインターンシップはどのような開催状況だったのでしょうか。
 
弊事務所の関与先のいくつかも、2020年度はインターンシップをリモート開催していました。自社を幅広く学生に周知する良いきっかけとなったことは確かですが、いずれの現場でも「オンラインでどのようなプログラムを組むか」「何を体験させるか」が課題となり、実施はできるものの実感として「手探りのまま終わってしまった」というケースも多かったようです。
 
中長期間の実施が難しいと判断し、1dayオンラインインターンシップを開催した企業も目立ちました。この場合、「会社説明会+α」といった程度の取り組みですから、一般的な「インターンシップ」とは毛色が異なります。
 
2021年度は、実際に取り組んでみた経験を踏まえて、各企業の差が出てくるかもしれません。
 
――多くの企業が取り組みを始めたばかりなので、中小企業にとっては他社と差別化を図る機会にもなりそうです。
 
コロナ禍の採用活動の一手段としてはもちろん、今後ますます進展する少子高齢化とそれに伴う労働力不足への対応として、インターンシップのリモート化は今後の活用が期待できます。
 
やむを得ずオンラインに移行せざるを得なくなった企業もあるかもしれませんが、これを好機と捉えることもできます。これからインターンシップのリモート化を検討する中小企業は、従来であれば出会えなかったような人とのマッチングが実現するよう、まずは情報収集を進めてみてはどうでしょうか。

 
 

<取材先>
丸山博美さん
HM人事労務コンサルティング代表。社会保険労務士。大学卒業後、教育関連の会社に勤務。2014年にHM人事労務コンサルティングを設立。
 
TEXT:遠藤光太
EDITING:Indeed Japan + ノオト