経団連と大学側が採用や大学教育の未来などについて話し合う産学協議会において、インターンシップ(就業体験)の定義を見直すなど、インターンシップのあり方が変化しています。インターンシップとは何か、特に採用直結型インターンシップのメリットやデメリット、企業が導入する際の注意点などについて、インターンシップ共創センター代表理事でインターンシップアナリストの野村尚克さんにお話を伺いました。
インターンシップとは
日本のインターンシップは、1997年に当時の文部省、通商産業省、労働省の三省により「インターンシップの推進にあたっての基本的考え方」が取りまとめられた際に、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義されています。
インターンシップの役割と種類
インターンシップには、1日だけの1DAYインターンシップや、数日から1週間程度行われる短期インターンシップ、1カ月から1年と長期間働く長期インターンシップなどがあります。
内容もプログラムによって異なり、明確に種類分けされているわけではありませんが、大まかに下記の種類があります。
◆仕事理解型インターンシップ
企業が学生に業界や企業について総合的に理解してもらうことを目的としている。
◆課題解決型インターンシップ
インターン生の課題解決力や社会人基礎力を向上させるために行う。課題の解決、企画の立案等を主にグループワーク形式で行われることが多い。
◆就業体験型インターンシップ
実際に企業での就業体験を通して、より実践的に企業や業界などの業務を習得できる。
◆採用直結型インターンシップ
企業とインターン生が良い面も悪い面も互いに開示しながら就業体験を行う。インターンの終了と同時にその企業から内定が出る、採用活動の一環としてのインターンシップであり、採用ミスマッチの解消が期待できる
本記事では、主に採用直結型インターンシップについてまとめています。
採用直結型インターンシップにおける禁止事項とは
◆インターンシップの問題点
先述したように、インターンシップには定義があるものの、明確なガイドラインが定められておらず、様々な問題点が指摘されています。
その一つに、学校・学生・企業それぞれが持つ、インターンシップについての意義や見解の違いがあります。
・学校(教育機関)
インターンシップは学習・教育であるという考え。学生がインターンシップに参加することで、本分である学業がおろそかになること、就職活動が早期化・長期化することについての懸念がある。
・学生
インターンシップに参加することで、自分に合った職業や企業を見つけたり、進路を具体的に考えたりする機会となり、就職活動に有利になる。また、ビジネスのスキルが身につき、インターンシップ体験そのものが、就職活動において「ガクチカ」と呼ばれる「学生時代に力を入れたこと」としてPRでき、大学名にとらわれない学習歴として評価される。
・企業
企業などに対する理解の促進、魅力発信につながり、従来の就職活動とは違ったアプローチによって自社に合う人材を見つけやすくなる。
◆採用直結型のインターンシップは禁止?
2019年、政府で「採用直結型インターン禁止要請」の方針が固まり、2021年卒の学生から進められることになりました。その背景には、学校側が懸念している、就職活動の長期化と早期化や学生が混乱することなどの防止が挙げられています。
また先述したように、インターンシップには明確なガイドラインがないため、参加してみると単なる会社説明会であったり、企業が学生を無償で働かせたりと、インターンシップとは名ばかりの、悪質なインターンシップ(通称「ブラックインターンシップ」)が横行するようになったことから、要請を歓迎する学生もいます。
ただし、あくまでも「禁止要請」にとどまっており、法的な拘束力があるわけではありません。
インターンシップの問題点を解決し、適切な運用を行うためには、採用直結型を含めたインターン全体の明確な定義づけや、学校・学生・企業それぞれが受け入れる新しいガイドラインが必要であると考えられています。
企業側からみた採用直結型インターンシップのメリット、デメリット
◆メリット
・採用活動のコスト削減
通常の採用活動を行うより低コストで自社に合った人材を見つけられる可能性が高まる。
・採用の新しい手法が増える
一般採用では採れなかった人材を、採用直結型インターンシップで採用できる可能性が高まる。また、就職活動の早期終了が期待できる。
・ミスマッチを防げる
企業は学生の人となりを知ることができ、学生の能力や適性を測れる。学生は仕事の内容を理解しながら自分に合った会社かを見極めることができる。学歴や試験だけではわからない部分が見られるため、ミスマッチを防ぎ、就職後の早期離職が少なくなる。
・書類上ではわからない魅力を伝えられる
企業の公式サイトや自社製品・サービスなどの広告、書類などでは伝わりにくい企業の魅力を学生に知ってもらえる機会が増える。特に、採用活動にコストをかけられない中小企業に効果的である。
◆デメリット
・手間や負担がかかる
インターンシップ・プログラムなどの作成が必要なので、手間がかかる。また学生への対応や教育などを、通常業務のなかで行っていくため担当者の負担となる。
・企業側も見られることを意識する
企業が学生の能力や適性を見ると同時に、学生側も企業の社風や将来性などを見極める機会を持つため、企業内の課題のあぶりだしや解決が必要となる。
受け入れる場合の企業側の注意点
◆労働者性の有無を判断する
労働基準法上の「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています(労基法9条)。行政解釈では、以下の観点から労働者性の有無を判断します。
- 企業から業務に関わる指揮命令を受けているか
- インターン生が携わった作業が企業に利益や効果をもたらしたか
インターン生に労働者性がある場合は、労働基準法と最低賃金法が適用されるため、法律に基づいてインターン生を労働者として扱う必要があります。基準の詳細については、各自治体に問い合わせるとよいでしょう。
◆公正な情報開示
インターンシップの目的やプログラムの内容、期間や待遇など、インターンシップに関する情報を積極的かつ公正に開示し、うそ偽りのないインターンシップを行うことが大切です。
◆誠実な行動
インターンシップに参加する学生をはじめ、インターンシップで関係する全てのステークホルダーに対して誠実なコミュニケーションを行います。上記の公正な情報に基づいたインターンシップを行うことを心がけましょう。
◆教育の実施
インターンシップに参加する学生への教育を行い、内容については事前に説明しましょう。参加するとどのようなことを学べるのか、学生に求める到達目標を記したシラバスのようなものが用意できるとベストです。
インターンシップは適切に運用することで、学生の能力や適性を見極め、自社に合った人材を獲得する好機となり得ます。メリットとデメリットを理解して導入しましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年12月時点のものです。
<取材先>
一般社団法人インターンシップ共創センター 代表理事 野村尚克さん
インターンシップアナリスト。企業や大学のインターンシップを多数手がけ、中立的な立場によるインターンシップの新しいガイドラインの策定を統括。企業のインターンシップを評価認証する「GOOD INTERNマーク」の審査責任者を務める。共著に『企業のためのインターンシップ実施マニュアル』(日本能率協会マネジメントセンター)。立教大学大学院修了、筑波大学大学院退学。
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト