新卒学生を採用するための広報や選考の時期を定めた「就活ルール」と呼ばれる指針について、一般社団法人日本経済団体連合会(以下、経団連)は2021年卒以降の学生に対して策定しないと発表しました。その後は厚生労働省が就活ルールを定めていますが、法的な拘束力はありません。人手不足を背景に、新卒採用は“売り手市場”が続いており、就活ルールよりも早期に採用活動を開始する企業もあります。中小企業が新卒採用を始めるタイミングや取るべき施策について、就活やキャリアに関する執筆や講演活動を行うジャーナリストの石渡嶺司さんが解説します。
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求人を作成する「就活ルール」は形骸化
経団連が2021年卒(2021年春入社)以降の学生に対する「就活ルール」を廃止すると発表した後は、政府が就職・採用活動日程のルールを定めて企業に遵守するよう要請しています。厚生労働省が示している現在の「就活ルール」は、「採用のための広報活動は大学3年生の3月から、選考活動は4年生の6月から、内定は10月以降に」というスケジュールです。これは経団連が2016年に発表した「就活ルール」から変わっていません。
しかし、このルールは形骸化しているのが実情です。大手企業を中心に、大学3年生向けに夏から翌年2月にかけてインターンシップを行う企業が増えています。インターンシップという名目ではあるものの、実質的には企業説明会が行われていることが珍しくありません。ルール上は3月に広報解禁となっていますが、説明会と言いつつ3月頃には事実上の選考をスタートさせ、6月には内定を出し始める企業が少なからず存在します。ある調査によれば、来春(2023年)卒の学生の就職内定率は2022年5月時点で6割以上となっており、いかに就活ルールに則った採用活動を行う企業が少ないかが分かります。
就活ルールが守られないのは今に始まったことではありません。戦前から「あまりに早く就職活動が始まると、学業に支障が出る」という批判を受けて就職協定が定められてきましたが、そのたびに守られず、新しいルールが作られ、また形骸化する、ということが繰り返されています。
新卒採用における内定の取り消しや選考過程でのセクハラ・パワハラについては法律で禁じられています。同様に就活スケジュールにも企業に対して罰則を設けてルールが守られるようにすれば良い、と思われるかもしれません。しかし、説明会や面接は「人と人が会っているだけ」とも言えますから、これを法律で規制することは大変難しいものです。ですから「就活ルール」はあくまでも目安であり、早い時期に選考してもとがめられることはない、と考えられてきました。
選考時期の多様化、分割化が進む
以前は「大企業が早期に新卒採用を開始し、一段落したところで中小企業が募集を開始する」というスケジュールが一般的でした。しかし今では企業規模や業界、地域によって採用を始める時期は様々です。ITやベンチャー、外資系、不動産や人材系の企業はかなり早期に採用活動を開始したり、通年採用をしていたりする企業が多い印象です。
また、首都圏・関西圏といった大都市圏では、多くの企業が大学3年の夏から秋にかけてインターンシップやセミナーを行い、12月~3月にかけて選考を開始している一方、地方都市では大学4年の4月以降から動き出す企業が主流です。
そして、近年では選考時期を分割化する企業が増えています。たとえば、1期目として2月に説明会、3月に選考を開始し、4月に内々定を出し、2期目は3月に説明会、4月に選考、5月に内々定、と時期をずらして何度か選考を行うものです。企業によっては3期、4期と何度も選考を行うところもありますし、早い時期に内々定を出せる学生が集まれば1期目で終わらせるという場合もあります。
新卒採用はいつ開始しても問題はないのですが、学生にアプローチし始める時期は早くとも大学3年生の夏ごろからというのが現実的です。かつて、ある大手企業が大学1年生に内々定を出したことが話題になりましたが、その後は続きませんでした。長期にわたって学生をつなぎ止めることは難しいためです。
中小企業は学生との接点の持ち方に工夫を
では、中小企業は今後、新卒採用をどう進めていくべきでしょうか。以前のように大企業の動向に合わせて自社の採用スケジュールを決めることは難しいですし、他の企業に先んじて一刻も早く採用しようと初動を早めても上手くいくとは限りません。
10年ほど前までは、就職活動のスタートが遅い学生は「意欲や能力に欠けた学生、企業にとってはあまり採用したくない学生」だとされていました。しかしここ数年の“売り手市場”となった新卒就活においては、必ずしもそうとは言えない状況となっています。選考時期が分割化・通年化していることを知り、じっくり就職活動をしたいと考えている学生もいます。中小企業は採用の時期に悩むよりも、学生との接点の持ち方そのものを見直していくべきでしょう。
一つはインターンシップの活用です。ですが、大企業に対して知名度が低い中小企業がインターンシップを学生に向けて募集してもなかなか来てもらえないものです。ただ、中小企業の顧客は大企業であることが少なくありません。顧客に大手電機メーカーがあれば「電機業界まるわかりセミナー」と銘打って、電機業界を研究する1日だけのインターンシップを実施し自社を学生に知ってもらう機会にすることができます。
また、自社単独ではなく、同業他社や同じ地域の企業など、複数の企業が合同でインターンシップやセミナーを実施し規模を大きくすることで、学生との接点を増やすこともできるでしょう。
新卒採用をやめる手も? 若手の採用手段を柔軟に考えよう
採用ツールの複線化も重要です。大手の新卒採用サイトへの企業情報の掲載に加え、公式LINEアカウントや企業マイページへの登録を促しコミュニケーションを密にする必要があります。また、大手サイトだけではなく新興のサイトや逆求人型サイト、就活エージェントといった新しいサービスを利用するのも一手です。こうしたサイトには、大手よりも早期に情報発信ができる等のメリットもあります。
説明会や面接は対面に加えてオンラインも併用しましょう。一般的には、企業説明会や選考の初期〜中盤はオンラインで、選考の中盤〜終盤は対面で面接というパターンが定着しつつあります。コロナ禍によって、合同説明会もオンラインで実施されているものを選ぶ学生が増えています。
さらには、そもそも新卒採用から中途採用へ切り替える企業も増えていると感じています。先ほど「就活を始めるのが遅い学生は意欲に欠ける」というレッテルは過去のものだと話しましたが、中途採用でも同様のことが起こっています。
新卒採用は“売り手市場”が続いているため、学生にとっては比較的スムーズに就職を決められる状況です。それは見方を変えれば企業とのマッチングが上手くいっていなくても内定が出やすい状態とも言えます。そのため、入社してから「何か違う」と分かって辞める若手社会人が絶えません。つまり、就職してすぐ辞めたからといって、仕事への耐性がないとは言えないパターンが非常に増えているということです。
今、第二新卒や20代の転職市場はかなり拡大しています。新卒採用が思うように進まない場合には、無理に採用の基準を下げるよりは転職者の採用に切り替えるという方法も検討してはどうでしょうか。
少子化が進む中、企業の規模の大小に関わらず、新卒者の採用は容易ではない状況が続くでしょう。採用活動のタイミングも方法も、従来の常識にとらわれず、時代に合わせて柔軟に変えていくことが求められています。
※記事内で取り上げた法令は2022年6月時点のものです。
<取材先>
大学ジャーナリスト 石渡嶺司さん
ライター・大学ジャーナリスト。大学、教育、就職活動などをテーマに『就活のワナ』(講談社+α新書)、『大学の学科図鑑 改訂版』(SBクリエイティブ)など著書多数。
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト
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