
質問に人間のような答えを返したり、コンテンツを生成できる人工知能(AI)チャットボットであるChatGPTが、今注目を集めています。その一方で、AIが採用活動の役に立つのか、それとも妨げになるのかについて、多くの採用企業や人材リーダーが疑問や懸念を抱いています。たとえばAIは、職種に応じた求人内容を作成するのにかかる時間をどの程度短縮できるのでしょうか?AIを使ってカバーレターを作成した候補者が採用される、ということが起きていくのでしょうか?AIを活用したツールの普及は、ナレッジワーカーの仕事がなくなることにつながるのでしょうか?このように、AIには多くの未知数が存在します。
技術分野でのAI需要の高まりを受けて、Indeed はData Science DirectorのTrey CauseyをHead of AI Ethicsに任命しました。この記事では、Causeyの調査や経験に基づいてAIにできることや限界を明らかにするほか、AIが採用活動にもたらす影響をわかりやすく紹介します。
AIは情報のファクトチェックができない
ChatGPTはインターネットに散らばる膨大な情報を整理して、その結果をユーザーに提示します。ですがインターネット上の情報は必ずしも正確ではありませんし、受け取った情報の参照元が不明確であることもあります。
Causeyによると、ChatGPTなどのツールから得た情報を活用する際には「サンドイッチ法」を使うのが有効です。サンドイッチ法では、AIに質問して返ってきた答えを自分で編集します。そして、修正した情報を質問としてChatGPTに投げかけ、さらに修正を行ってもらう手法のことであるとCauseyは言います。
「AIに仕事を奪われるとかアイデアを取られるということはありません。別の人の視点を取り入れるようなもので、同僚から意見をもらうのと同じことです」と、Causeyは語ります。

Indeed のHead of AI Ethics兼Data Science DirectorのTrey Causey:「AIを使って難しい問題を解決したと謳ったり、採用プロセスが劇的に変えられると考えているような業者は疑ってかかった方がよいでしょう」
しかしAIが有用なのは採用企業側に限った話ではありません。AIを活用できるのは求職者も同じであり、採用担当者はカバーレターや履歴書がAIによって作成されたものでないかに注意しなくてはなりません。AIによって作られた情報では経歴が誇張されていたり、事実とは異なる記述がされていたりすることがあります。記述が単調な、AIの使用を疑われる文書は慎重に判断した方がよいでしょう。AIが生成したコンテンツを検出すべく開発されたツールも存在し、その中にはChatGPTの開発企業が提供している無償のツールもありますが、効果的な手段とは言い難いようです。当のOpenAIによると、そのツールではAIが生成したコンテンツの74%を見破れていないとのことです。
AIは職種名や求人内容の作成、紹介文の枠組みを作成するのに役立つ
Indeed には、サービスを頻繁に利用する大小さまざまな企業が参加し、サービスに関するフィードバックを提供する Indeed Insidersというコミュニティがあります。Indeed Insidersで行ったアンケートでは、採用担当者は主に採用活動の初期の段階でAIやChatGPTを活用しているという回答を得ました。それによるとAIを駆使したツールは次の点で役立っていると言います。
- 採用サイトや求人サイト、SNSで使用する文言の改善
- 職種名や求人内容、募集企業の紹介文の作成
- お勧めのブール検索キーワードの作成
- 採用戦略や採用計画のテンプレートの作成
- 特殊なスキルセットを持つ人材を探すための調査
- 応募者に連絡を取るためのメールテンプレートの作成
- 求職者にアピールする際のメッセージの作成
「AIを活用すると負担がぐっと減ります。いちから自分で考えなくても、ChatGPTが出した案に手を入れてブラッシュアップするだけで済むのですから」と、前述のアンケートに回答したある企業の担当者は言います。
AIはスクリーニングでのバイアスをある程度緩和してくれる
人間のバイアスはAIに影響を及ぼす可能性があるという記事がHarvard Business Reviewで取り上げられています。AIは人の手で作られたものであり、人の意思決定のあり方を模倣するからだというのがその理由です。この事実は、求人内容などAIが作ったすべてのコンテンツに対する懸念となり得ます。前述のアンケートに回答した企業は、AIを利用して採用活動を行った経験に基づき、次のように話しています。「たとえば『スタンフォード大学を過去15年以内に卒業していること』という表現が年齢差別にあたることを、AIは理解できません」。
最新のAIやChatGPTのこうした性質に対しては改良が重ねられているものの、現時点のAIツールには、求職者の就労機会を制限する障壁となっている、教育や経済面に関する微妙なニュアンスを理解できるほどの能力はありません。AIの限界に対してだけでなく、スキルベース採用に対して理解のある採用担当者が入念なチェックを加えることが、自動化ツールに足りない部分を補う上で有効だと思われます。
Recruiter.comは、AIが応募者をスクリーニングする際のバイアスを軽減できると紹介しています。適性やスキルだけに注目させ、ジェンダーや民族などの要素は判断材料に含めないように調整することでそれが可能だと言います。ウィスコンシン大学マディソン校のエンジニアが発見したように、ChatGPTは調査の効率化に有効であり、基本給が職務に応じた妥当なものであるかをチェックする用途にも活用できます。給与にまつわるプロセスを常に検討することは、社内での給与の公平性を担保する上で大切なことです。給与の透明性に関する法律が普及するにつれて、その重要性は一層増しています。
AIを活用すれば応募者や新入社員のために割ける時間が増える
前述の Indeed Insidersによる企業アンケートによれば、AI最大のメリットの1つは今までと違うことに時間をかけられるようになることだと言います。通常は管理者が自分でこなさなければならないタスクをAIに任せることで管理面での負担が減り、採用活動や新入社員との面談、研修といった大事な仕事に時間を使えるようになるということです。
「AIを使ったタスクの自動化によって煩雑な仕事への対処方法を見つけ、応募者のために使う時間を増やせることが、AIの最も優れた側面だと思います」と、回答した企業はコメントしています。
アンケートに回答した別の企業も次のように話します。「最もやりがいを感じる仕事の1つは、応募者のために割ける時間を増やすために、どのようにAIを駆使してタスクを自動化し、こまごまとした仕事に対処すればよいかを見つけ出すことです。それができれば、採用活動に費やす時間や応募者と話をする時間が増え、活動に一層専念することができます」
人事関連のテクノロジーの多くがそうであるように、AIもまた合理化によって負担を軽減し、人と人との対話という代えがたい機会を得るための有用なツールとなります。
人事ではAIは「人」の代わりにはならない
確かにChatGPTなどのツールは、人間のように会話をこなし、メールなどのテンプレートを作り出すといったタスクを合理化することはできます。それでも応募者の能力の見極めや不採用のような微妙な判断、新入社員の研修などについては、人が対応するのとまったく同じというわけにはいきません。
Indeed Insidersによるアンケートに回答した企業は次のように答えています。「採用プロセスでは応募者が顧客対応に適した能力を有しているか、繊細さを要する問題解決スキルを備えているかを対話の中で見極めることが求められます。AIにそのような判断ができるとは到底思えません」
回答した企業の中には個性やその人らしさが失われ、似たり寄ったりの内容になるのではないかと懸念する人がいる一方で、AIはアイデアやデータの宝庫だと評価する人もいます。さらに別の担当者はこう話しています。「AIのせいで採用担当者の仕事がなくなるとは思いません。使える手段が増えるというだけですし、考え方を比較する上で面白い方法だと思います」
ただしChatGPTなどのAIを人間による適切な監視を設けずに取り入れることについては、Causeyは次のように注意を喚起しています。
「AIを使って難しい問題を解決した、あるいは採用プロセスを劇的に変えることができると考えているようなベンダーは疑ってかかった方がよいでしょう。また転職や給与に関する情報、従業員の個人情報など、慎重に取り扱うべき情報をチェック体制が整っていないAIプラットフォームで扱うことには慎重を期すべきです」
ChatGPTの利用者が入力したメッセージが他のユーザーの目に触れてしまうという情報漏えい事故が起きたことを踏まえ、多くの国でAIテクノロジーをいかに規制すべきかという検討が進められています。1,000人を超えるAI専門家らの署名を集めた嘆願書は、開発者たちに対して、安全性が担保されたルールが整備されない限りGPT-4(ChatGPTの最新バージョン)から先にAIの開発を進めないよう求める内容でした。CauseyはAIを導入している企業に向けて、プログラマーだけではなく多様な背景を持つ個人の集まりを結束させるガバナンスモデルを提唱しています。このモデルでは責任を持ってAIを導入できるよう、エンドユーザーのために公平な立場から監視し、アプリケーションを客観的な視点で検討できる人も加わるべきとされています。
ロボットに支配された世界の終末的なシナリオを恐れる必要はなく、むしろこの最新技術の発展を、注視はしつつも前向きにとらえるべきだというのがCauseyの考えです。「AIには効率的に成果を得られるという強みがあるだけで、やはり道具であることに違いはないのです」
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この記事は「What AI Can Do for Your Recruitment – And What it Can't」を翻訳したものです。リンク先の記事はすべて英語で書かれています。