この記事は、英語で書かれた記事を日本語に翻訳したものです。オリジナル版のリンクやデータには、主に米国市場に関する参照先が含まれますが、翻訳上の編集などは行っておりません。

9月21日に開催された Indeed FutureWorks 2023のセッションで、Indeed の経済研究部門、Hiring LabのChief EconomistであるSvenja Gudellは、その日の朝に発表されたHiring LabのAIに関する最新の研究を紹介し、今後の労働市場の動向についての知見を共有しました。中でも、AIの急速な進化によって、多くの人が感じている不安を取り上げ、「かつては、オートメーション(自動化)といえば、肉体労働がオートメーションに取って代わられる可能性についてでした。現在、この影響を受けているのはナレッジワーカーであるという話が急浮上しています」と話しました。

AIに仕事を奪われる可能性や景気後退への備えなど、さまざまな不安を感じている方に、 Indeed Hiring Labからよい知らせがあります。立ち見も出るほど盛況だった、GudellのFutureWorks 2023のプレゼンテーションから、5つのキーポイントをご紹介します。

Hiring LabのChief Economist、Svenja Gudell

労働需要は冷え込んでいるが...

Hiring Labでは、Indeed 求人掲載指数をもとに労働需要を測定しています。この指数は、Indeed に掲載されている合計求人数を、2020年2月以降の Indeed の新規掲載の件数と比較したものです。採用企業も十分に理解しているように、現在の失業者1人当たりの求人件数は1.5件と、労働市場はこれまで同様、依然として逼迫しています。

需要面では、2020年2月に最初の落ち込みを見せましたが、労働市場は徐々に回復し、2022年初めにピークを迎えました。それ以降は緩やかな下落傾向にあります。

Indeed 求人掲載指数(Indeed に掲載されている合計求人数を、2020年2月以降の Indeed の新規掲載の件数と比較したもの)によると、2022年初めにピークを迎えてから、米国の労働市場の需要は冷え込んでいる

Gudellは、ソフトウェア開発やマーケティングといった業種毎の影響を掘り下げて明らかにしました。2022年は、どちらの業種の雇用も増加しており、それ以降の需要は、コロナ禍前の水準にまで回復しています。

一方で、看護や食品の調理といった接客に携わる職業の需要は、新型コロナウイルスの世界的流行が始まった直後に低下しましたが、現在は一貫して増加傾向にあります。

…労働市場は堅調に推移している

Gudellが「ようやく、大退職時代は終わったと正式に宣言できるでしょう」と述べると、会場から歓声や拍手が上がりました。離職率は、新型コロナウイルスの流行が始まる以前にもすでに高かったものの、感染が世界的に拡大するにつれさらに上昇しました。現在ではコロナ禍前の水準にまで回復しています。

離職率は、新型コロナウイルスの流行が始まる以前にもすでに高かったものの、感染が世界的に拡大するにつれさらに上昇。現在ではコロナ禍前の水準にまで回復

コロナ禍では、病気や解雇、子育てや介護といったさまざまな理由で仕事を離れ、女性など多くのグループの再就職が困難になりました。「労働供給が再加速するのには時間がかかりましたが、歴史的水準と比較すると、好調に推移しているようです」と、Gudellは話します。

また、どのデータも、全体として労働市場が好調であることを示していると説明した上で、「以前ほどではないものの、労働市場は引き続き堅調に推移しています」と締めくくりました。

インフレを上回る賃金上昇率

労働市場が冷え込むにつれ、賃金上昇率も鈍化していますが、賃金が依然としてインフレ率を上回るペースで伸びていることは、労働者にとって素晴らしいニュースです。 

しかし、給与だけでは報酬を詳しく理解することはできません。Hiring Labの調査によると、看護をはじめ、現在もサイニングボーナス(入社一時金)を提供している採用企業は多く、減少する気配はありません。

賃金上昇率が低下する中、採用企業は Indeed の求人掲載でサイニングボーナス(入社一時金)を採用企業が提供する動きは高まっている

今後、景気後退が起こる可能性

労働者も採用企業も同じように、誰もが最も懸念しているのが景気後退(リセッション)が起こる可能性です。Gudellは、Hiring Labの景気後退の予測の根拠となるデータの内訳について説明するため、まず個人消費の動向を分析しました。 

Gudellは、新型コロナウイルスの世界的流行開始直後は、目にみえる有形の商品を指す「財」への個人消費が高まり、その後新型コロナワクチンの登場によって、目に見えない無形のものを指す「サービス」への個人消費が回復していく経緯を図で説明しました。現在の個人消費は、財とサービスのどちらも健全に推移しています。

個人消費は財とサービスともに堅調で、景気後退のリスクは低下

Gudellは「興味深いことに、多くのエコノミストが考えていたほどには、財からサービスへの転換は進みませんでした。これを機に、労働市場が大きく活性化することは間違いないでしょう。この図式が成り立つ限り、経済は依然として好調に推移しています」と説明しました。

また、景気後退時には失業率やレイオフが増加する傾向があるため、これらに注目して景気後退リスクを測定した上で、全米の雇用全体を見ると、レイオフが失業率上昇の原因であることは、繰り返し報道される見出しほどではないとの見解を示しました。

失業率の上昇は、労働力人口が増え、新しい仕事を探す人が増えたことが主な原因であり、失業者が増えたことによるものではありません。Gudellは、3.8%という失業率について「驚くほど低い」と強調しました。

そして、「その一方で、私たちは皆、景気循環の中にいるため、景気後退はいつか必ず起こりますが、現時点では近い将来に起こるとは考えていません」と補足しました。

AIは人間の仕事に対応できるが、十分とは言えない

Gudellは、Indeed Hiring Labの「AI at Work」シリーズの調査レポートの結果を公開し、セッションを締めくくりました。このシリーズでは、Hiring LabのGenerative AI Job Trackerを使用して、生成AIが求人に与える影響を調査しており、Indeed の求人情報のうち、「Generative AI(生成AI)」という言葉やその他の関連キーワードを含む求人情報を追跡します。

この調査によると、昨年から急増しているにもかかわらず、生成AIに関する求人情報はまだ求人情報全体の1%未満にとどまっています。このようなツールが構築され職場で使用される初期段階にある一方で、Indeed がHRや人材獲得リーダーを対象に行った Indeed のAIに関するアンケートによると、87%が現在何らかの形でAIを使用していることが分かりました。この結果は、私たちが将来受ける影響をも示しています。

この1年で、生成AIに特化した求人情報は急増しているが、求人情報全体の1%未満にとどまっている

AI at Workレポートでは、Hiring Labが Indeed に掲載された5500万件以上の求人情報と2600以上のスキルを分析し、生成AIがさまざまな分野の仕事に与える影響と、その仕事で必要なスキルを明らかにしました。

調査で判明したのは、近い将来に、AIに仕事を奪われることはないということです。経済研究チームの研究によると、調査した5つの仕事のうち1つは生成AIの影響を受けやすく、具体的には、その仕事に必要なスキルの80%以上は生成AIで対応できることが分かりました。また、この調査結果から、生成AIは事実上、世の中のあらゆる仕事に対応しているとはいえ、現時点の技術では、単独で仕事をこなすには不十分であることも分かりました。

生成AIは法律や人事、マーケティングといった分野の仕事に影響を与える可能性が高いでしょう。一般的に、運転や育児のように人との関わりが求められる仕事では、生成AIはそれほど役に立ちません。実際、リモートワークと生成AIの潜在的影響には高い相関関係があります。しかし、Gudellは、ナレッジワーカーが生産性を向上するツールとしてAIを活用し、単調な作業などの仕事を減らすことで、有意義な仕事に集中できるようになると指摘しました。

また、「多くの場合、生成AIは、繰り返しのタスクや要約作業で効果を発揮します。その一方で、批判的思考力や共感力、リーダーシップなど、他者と接するためのソフトスキルが求められるような仕事には対応できません」と説明しました。

最後に、AI技術による業務の効率化について「変化は間違いなく起こると考えており、また、その変化は厳しいものとなるでしょう。雇用が失われることもあるかもしれませんが、歴史が教えてくれているように、このテクノロジーの進歩に伴い、新しい仕事も確実に増えていくでしょう」と前向きな見方を示して締めくくりました。