実践企業事例 日本電気株式会社 Owned Media Recruiting/日本電気株式会社(NEC)人材組織開発部 タレント・アクイジショングループ ディレクター 大橋康子氏(右)、同グループ ブランディング プロフェッショナル 西井友紀氏(左)

テクノロジーの力を最大化することで社会価値を創造し、持続可能な社会の実現を目指す日本電気株式会社(以下、NEC)。同社では本格的なデジタル社会の到来を見据え、人的資源の強化とダイバーシティ&インクルージョンの推進に着手。その取り組みの一つとして、即戦力人材の採用を2018年より本格化した。当時は年間80人程度だった中途採用数は、2021年度には600人に達する。

人材組織開発部 タレント・アクイジショングループ ディレクターの大橋康子氏と、同グループ ブランディング プロフェッショナルの西井友紀氏に、デジタル人材の採用に向けた戦略と、求職者に向けた情報発信の考え方について聞いた。

右から、大橋康子氏、西井友紀氏
大橋康子氏(右)。人材組織開発部 タレント・アクイジショングループ ディレクター。営業からキャリアをスタートし、新卒、中途採用媒体の立上げ・制作に関わり、人事採用コンサル・アウトソーシング企業を経てインハウス人事へ転向。LINE株式会社にて中途採用、HRBPリードの経験を積み、2021年よりNECにて中途採用のディレクターに従事。
西井友紀氏(左)。人材組織開発部 タレント・アクイジショングループ ブランディング プロフェッショナル。新卒でNECに入社後、事業マーケティング、営業を経験したのち、全社マーケティング・コミュニケーション部門へ異動。デジタルマーケティング、コーポレートブランディングの経験を積み、2021年より現職。

創業120年で初めて中途採用を本格始動するなど、組織カルチャーの変革を推進

西井氏、大橋氏のインタビューカット

――デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代と言われて久しいですが、御社のビジネスモデルも変化しつつあるのでしょうか。

大橋:当社は創業から120年という長い歴史のなかで、ファクシミリやテレビ、コンピューター、携帯電話などを世に送り出してきました。また、企業だけでなく官公庁や公共団体を含め、様々な組織にソリューションを提供してきました。

そして現在、テクノロジーによる社会変革に取り組んでいます。たとえば基地局市場のオープン化を前提としたグローバル5G事業や、行政業務の効率化を図るデジタル・ガバメント事業、金融と情報技術を融合したデジタル・ファイナンス事業などです。

今後、社会を変えていく存在としてNECが歩んでいくには、自ら変化を楽しめるような、より強靭で柔軟な組織になる必要がありました。そのため、2018年から組織のカルチャー変革を推進してきました。

――組織の変革にあたり、採用を含めてどのような課題感があったのでしょうか。

大橋一つは創業以来初の中途採用の本格化です。当社は長い間、終身雇用を前提とした新卒一括採用に重点を置いてきました。しかし、そのルートだけでは目まぐるしく進化するテクノロジーや社会の変容に追いつかないという懸念がありました。

これまでも中途採用は行っていましたが、基本的には欠員補充が目的で、年間の入社数は数十人程度。当社には単独でも2万人以上の社員が在籍するなかで、割合としては非常に少ないものでした。当社にはなかった視点やスキルを持ち合わせた人を集めて多様性を担保するには、ジョブ型採用を前提として力のある人材を積極的に採用していく仕組みが必要だったのです。

もう一つは、外部に向けた発信の強化です。さきほども申し上げたとおり、当社は数年かけて組織カルチャーの刷新に取り組んできました。

今でも外部からのNECのイメージというと、まだまだ旧態依然としたイメージが強いようで、面接でも「毎日スーツを着て出社するんですよね?」「SaaSのベンチャーにいたのでカルチャーフィットするか不安です」といった声をよく耳にします。

しかし、実態は違います。社員個人の状況に合わせて在宅勤務を選択できますし、オフィスでもカジュアルな服装の人は多いです。個人の成長とオープンネスを大切にし、前例に捉われない新たな挑戦を歓迎する風土が培われつつあります。そうした部分は積極的に発信する必要があると感じています。

リクルーティング専任チームを立ち上げ、600人の中途採用を実現

採用について語る、大橋氏

――採用で特に力を入れているポジションなどあるのでしょうか。

大橋:やはりシステムエンジニアは外せません。どんなに素晴らしい構想やアイデアも、形にできる人がいなければ実現できません。

これまで社内になかった領域も、積極的な採用を行っています。たとえば戦略コンサルタントは、NECとしてのアセットを、人々の暮らしや社会課題、地球環境の問題を的確に解決する仕組みをデザインする重要なポジションとして採用を進めています。

チャレンジングなマインドとともに、NECが培ってきたものを大切にできる価値観を持ち合わせているかは、職種を問わず重視しているポイントです。未開拓の地に新しい町を作るのが新興IT企業だとしたら、当社は歴史ある古都をリノベーションするイメージに近いと言えます。ゼロから作った町並みは、新しくて綺麗です。一方で、年季の入った古民家が集まる町には味わいがあります。

今のNECは、時代に合わせた暮らしができるようにバージョンアップを図っていて、都市部からの移住者も増えているイメージです。“変革”といっても、すべてを破壊してまっさらな状態から作り直すのではなく、すでにある資源を活かしながらより良いもの、新しいものを作り出せる人を求めています。

――どのように採用活動を進めてきたのでしょうか。

大橋:中途採用を担うタレント・アクイジョングループを2018年に立ち上げました。初期の頃は執行役員クラスの人材、翌年以降はプレイヤークラスへ範囲を拡大しつつ、徐々に中途人材の採用数を増やしていきました。2021年度は年間で600人の中途採用を達成し、新卒採用とほぼ同数になっています。

2021年にはタレント・アクイジョングループのなかに、ダイレクトソーシングチームと採用ブランディングチームを立ち上げて体制を強化しました。前者の主な役割は、当社と領域の近い企業での経験があり、すぐに活躍が期待できる方のスカウトになります。専任のチームを立ち上げたことで、採用企画チームは事業部との連携に集中できるようになりました。

人事がコンサルタントのように事業部と伴走し、採用活動を自分事化する

採用について語る、西井氏

――中途採用施策における事業部との連携のポイントを教えてください。

大橋:これまで中途採用をほとんど行ってこなかったため、全社的に経験値を持ち合わせていませんでした。最も大きな課題は、事業部における採用の市場感の欠落です。

求職者への入社の動機づけや、仕事やチームとのマッチングを探るなど、現場の人だからこそできることはたくさんあります。そのためタレント・アクイジョングループは、コンサルティングのような立ち位置で事業部と接しています。

――事業部との連携は具体的にはどのように取られているのでしょうか。

大橋:分かりやすいところで言うとジョブディスクリプションです。中途採用を始めた当初は、事業部に作成をお願いすると3行程度しか書かれていなかったり、社内用語ばかりで社外の人にはわからないようなものだったりといった状況でした。

そこで、採用準備の段階で、タレント・アクイジョングループと事業部でミーティングを実施しました。ジョブディスクリプションのフォーマットと記入例を渡し、盛り込むべき情報やわかりやすい表現を解説して、チェックとフィードバックを繰り返して作成するフローにしました。

仕事の内容や求める人材像を言語化する作業は、事業部側にとっても意義のあるプロセスです。事業部側が市場感や人材採用のイメージを持ち、タレント・アクイジョングループと同じ感覚で情報共有ができるようになっていくことが必要だと感じています。

NEC【新規ビジネス開発】のジョブディスクリプション:職務内容のキャプチャ
NEC【新規ビジネス開発】のジョブディスクリプション:応募資格のキャプチャ
ジョブディスクリプションには、各ポジションのアピールポイントや、MUSTとWANTでレベル分けされたスキル要件などが詳細に記載されている

――採用ブランディングチームでは、どのような取り組みをされていますか。

西井:チームの立ち上げ初年度の大きな取り組みに、採用ページ全体のリニューアルが挙げられます。その際に、これまでなかった中途採用専用ページの新設も行いました。

内容で最も力を入れたのは、社員のキャリアストーリープロジェクトストーリーなどの社員が登場するコンテンツです。仕事のことだけでなく、働く環境やNECの文化についても、魅力と課題を交えながら率直に語る姿が印象的でした。

これまで求人情報、組織や事業のこと、働く環境や制度についてなど、それぞれがコーポレートサイト内に分散して置かれている状態でしたが、専用のページができたことで求職者の視点で求める情報を集約させることができました。

高い志を持つ人に響くNECの魅力を、若年層にも届けていきたい

西井氏、大橋氏のインタビューカット

――今後の課題や注力したいテーマなどあれば、教えてください。

大橋:中途採用の仕組みも現時点で7割程度整備されてきたと感じています。残り3割を早急に整えて、より安定した採用活動を進めていきたいですね。

外部に向けた発信をするために社内の情報の棚卸しや整理をしたことで、以前にはなかった中途採用に対する姿勢が浸透してきたのを強く感じています。

西井:これまでの取り組みが功を奏してきたのか、社会課題を解決したいという志で入社してくれる仲間が増えています。当社に携わることは日本の変革に直結するという考えで、特に30代以降の方を中心に自身のキャリアを試したいとエントリーされる方が多く、嬉しい限りです。

一方で若年層に向け、当社の認知度を高める必要を感じています。事業の主軸が変わり、コンシューマーとの接点が限られるようになったことが、少なからず影響しているのかもしれません。

大橋:今後はできるだけ早い段階で、中長期視点でプロアクティブな採用ができたらと思案中です。たとえば次の世代を見越して、エグゼクティブ人材を早期にプールするといったように、実際の人の動きよりも半歩先にアクションを起こせている状態が理想です。人材は会社の要です。これからも事業に資する採用を展開していきたいですね。