出生率の低下による少子化に加え、東京などへの大都市圏への人口流出により、地方にある中小企業では採用が年々難しくなっています。岐阜県に拠点を置くシンクタンク、株式会社十六総合研究所は提言書『「女子」に選ばれる地方』(岐阜新聞社)で「地方から東京圏へという人口移動を起こしている主役は女性である」として、地方でのジェンダーギャップの解消こそが地域創生の鍵であると提唱して話題を呼んでいます。同書では女性が活躍できる環境を整えたことで業績を伸長させている地方の中小企業の事例紹介もされています。

同書の執筆を担当した十六総合研究所の研究員、藤木由江さんと高木安希子さん、カンダまちおこし株式会社の代表取締役である田代達生さんに、地方の中小企業が置かれている状況と女性の採用についてお話を伺いました。

ジェンダーギャップの大きい企業に人は集まらない

――「地方から女性が都市へ流出している」という状況は、地方の企業にどんな影響をもたらしているのでしょうか。

田代:『女子に選ばれる地方』を編纂するうちに見えてきたのは、女性たちがジェンダーギャップの大きな地方を避けて都会に逃れているようだ、ということでした。ジェンダーギャップとは「男女の違いによって生じている格差」のことです。日本では賃金や管理職の数、議員の数において男性よりも女性が低い水準にとどまっており、特に地方でその傾向が顕著です。

昔ながらの「男性は仕事、女性は家庭」という価値観が根強い地域ほどジェンダーギャップが大きく、こうした価値観に違和感を抱く女性が、比較的ジェンダーギャップが小さいと言われる都会へ出て行きます。地方の企業からすれば、働く意欲もスキルもある人材が地元からどんどん減っていく状況を招いているとも言えます。

「男性は仕事、女性は家庭」という考え方の背景には、男性が終身雇用で、年功序列で毎年必ず昇給し、家族を養えるだけの十分な収入や福利厚生が保障されている前提があります。この前提により男性は長時間労働もいとわず働かねばならず、女性は家事や子育てに専念せざるを得ない、という「性別役割分業」が成り立ってきました。

しかし今や終身雇用も年功序列も見直されつつあり、いわゆる非正規雇用で働く男性も少なくありません。未婚率も上昇し、家庭を持たない選択をする人も増えています。こうした状況にも関わらず「総合職は男性だけ、女性は補助的な仕事」「子育て中の女性は休みがちだから採用できない」と昔と同じように考えていては、特に若い世代の採用は難しくなるでしょう。

短時間勤務でも仕事の質は高められる

――「女子」に選ばれる地方』では、地方においても女性を積極的に採用し、ジェンダーギャップを解消しうるような施策を打って業績を伸ばしている企業についても紹介されています。

田代:岐阜県の最北端にある飛騨市は「人口減少先進地」と呼ばれ、「働ける若者はすでに働きつくしている」とまで言われていました。

そんな中での一例として、インターネット通販とコンサルティングを手がける「株式会社ヒダカラ」は、2020年に飛騨市で事業を開始して以来、1年半あまりで社員17名の規模にまで急拡大しています。社員の3分の2以上は女性です。働いてはいるけれどスキルを生かしきれていなかった多くの女性がヒダカラに転職して活躍しています。短時間勤務や在宅勤務など、子どもが小さくても仕事と両立しやすい環境を整えていることも選ばれる理由の一つです。

――人手不足に悩む中小企業では、労働時間を短くしたり休日を増やしたりすることは難しいのではないでしょうか。

高木:仕事の進め方や役割分担を見直して、限られた時間でも成果を上げられる仕組みを考える必要がありますね。たとえば、岐阜市でWebサイトの制作などを手がける株式会社リーピーでは、徹底したマニュアル化でムダを省き、生産性を高めています。「新しい仕事に取りかかる時には必ずマニュアル化する」をルールとし、どんな業務にも必ずマニュアルがあるそうです。結果として人に仕事を教える時間が短縮されます。2年間の産休と育休から復帰した社員も、マニュアルがあるので初日から他の社員と同じように働くことができたそうです。

また、全社員がお客様からの問い合わせのメールを管理・共有できるシステムを使い、誰がどのメールにどう対応したかが全員に分かるようにしています。誰かが休んでも他の社員がすぐに対応できるようにするためです。

こうしたマニュアル化とデジタルツールの活用により、長時間労働になりがちなWeb制作の企業にも関わらずリーピーは残業ゼロ・年間休日130日以上を達成しています。社員の6割が女性で、管理職も8名のうち2名が女性です。同社で働きたいというエンジニアやデザイナーは多く、スキルの高い人材が採用できるため、顧客にも質の高いサービスが提供できるという良い循環が生まれています。

広報やデザインの内製化も検討を

――『「女子」に選ばれる地方』では、女性が活躍できる職場を作る方法の一つに「クリエイティブな業務」を作ることを提案されています。社内に「クリエイティブ」な仕事を作ると言われても、どうしていいか分からない企業もあると思うのですが。

田代:たとえば企業のホームページやパンフレット、商品カタログや会社案内といったツールを東京など大都市の広告代理店やデザイン会社に発注していないでしょうか。

デザインやライティング、Webサイトの制作・運用などは場所や時間を選ばずできる仕事の代表格と言っても過言ではありません。以前は広告やデザインの仕事は東京など大都市の企業の仕事と思われていました。しかしIT技術の進化によって業務に必要なソフトは日本中どこに居ても誰でも比較的容易に入手できるようになり、地方でも高品質なサービスを提供できる環境は整っています。わざわざ地域外の企業に依頼するよりも、広報やデザインの担当者を採用して内製化する方が意思の疎通もしやすく、良いものが効率よく作れるかもしれません。「社内ではできないから」と外注していた業務やサービスの調達方法を検討し直してみてはいかがでしょうか。

高木:商品開発にも子育てを経験した人の視点を入れると新しい発想ができるという利点もあります。女性にも企業のコアとなる業務を任せていくことには多くのメリットがあると思います。

「ジョブ型雇用」で多様な人材を活かす

――「女性が採用できない」「女性を採用しても、長く働いてもらえない」と感じている地方の中小企業の経営者が取り組むべきことは他にありますか。

藤木:「終身雇用、年功序列、長時間労働」を前提とした「日本型雇用」は、人口が増えていく高度成長期にフィットした仕組みでした。しかし人口が減少しつつあり、男女ともに働く家庭が珍しくない現在では、女性の活躍を阻む壁にもなっています。

そこで注目されているのが「ジョブ型雇用」という働き方です。「職務、勤務地、労働時間のいずれか、または複数の要素が限定された正社員の雇用形態」と定義されています。旧来の「日本型雇用」が「メンバーシップ型雇用」と呼ばれ、部署異動などにより全く異なる職務を求められるかもしれず、拒否のできない転勤もあり得る働き方であるのに対し、「ジョブ型」では職務内容を限定して採用します。賃金も年齢や勤続年数ではなく、職務内容や職務の成果によって決定します。転居を伴う転勤のない「勤務地限定正社員」もジョブ型雇用の一種と言ってもいいかもしれません。

育児や介護と仕事を両立したい人、病気の治療をしながら働きたい人、大学などに通いながら働きたい人などにとって、「無限定」に働けるメンバーシップ型だけがリードする企業から、ジョブ型に近い働き方を取り入れて安定的に収入が得られる企業に注目が集まっています。多様な人材が活躍できる企業であるために、働き方にも多様性をもたらすべくジョブ型雇用の導入を検討してみるのも有効ではないでしょうか。




<取材先>
株式会社十六総合研究所 研究員
藤木由江さん、高木安希子さん

カンダまちおこし株式会社 代表取締役
田代達生さん

TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト