他社の人事・採用部門のリーダーが前年に経験した苦難と成功から教訓を得て、良いスタートを切りましょう。

キーポイント

  • 企業では、候補者の学歴や職歴ではなくスキルを重視する傾向が高まってきていますが、採用マネジャーが転職層を積極的に受け入れるには、さらなるデータと後押しが必要になる可能性があります。
  • ダイバーシティ、インクルージョン(誰も取り残さないような施策や環境を作ること)、エクイティ(成果を発揮するために、必要なリソースがすべての方に与えられること)(DEI)は引き続き重要視されていますが、政治的緊張の高まりや組織内での反発により、担当者がDEI目標に取り組むことはさらに難しくなっています。
  • 労働者はメンタルヘルス、キャリア開発、マネジャーからの強力なサポートを重視しており、企業は競争力を維持するために、従業員を定着させるための戦略や福利厚生の見直しを求められています。

デスクで大量のメールに追われている状況を想像してみてください。募集をかけても応募が集まらず、面接予定者が音信不通になり、追い付けないほどのスピードで新しいAI採用ツールが次々と登場しています。2024年に、人材の採用と定着に関してこのような経験をしているのはあなただけではありません。 

Indeed Leadership Connectコミュニティでは、人事・採用部門の上級管理職を招き、現在直面している課題や考えられる解決策について議論する場を提供しています。Indeed のリーダーや社外のビジネスリーダーは、次世代の労働力をリードするため、オンラインや対面の話し合いで示唆に富んだ知見や未来を見据えた戦略に焦点を当てています。

Leadership Connectのメンバーから寄せられた、採用や人材のマネジメントに関する主な課題とその対応策、さらには他社の成功事例に基づく実践的なアドバイスをまとめました。

他社の人材リーダーによるAIの活用方法に関する最新情報については、Indeed の採用活動でのAI活用に関する実践ガイドをご覧ください。

スキルファースト採用でチームを強化する

Leadership Connectのディスカッションで、「仕事に学位は必要ありません。それを求めているのは採用企業です」という興味深い発言がありました。採用企業が世界的な人材不足の深刻化に適応するには、採用方法を見直す必要があり、その解決策のひとつとして考えられるのがスキルファースト採用です。

スキルファースト採用(スキルベース採用)は、学歴や職歴、業界経験年数といった、一般的だが効果的ではない職務遂行能力の評価指標ではなく、求職者の能力や適性を重視する手法です。 

現在、多くの採用企業がスキルファースト採用を取り入れ始めています。たとえば、専門サービスを提供するAccentureは、学歴や職歴などの要件を取り除く取り組みを進めています。また、履歴書の提出を全面的に廃止している企業もあります。実際、Indeed の経済研究部門であるHiring Labが2024年に収集したデータによると、Indeed に掲載されている求人のうち、学位要件のある求人の数は、ほぼすべての業界で減少していることが分かりました。

スキルファースト採用を後押しするために、新しいアイデアを取り入れている採用リーダーもいます。たとえば、運送・物流のようなブルーカラーの業種では、応募者が正式な履歴書を作成するためのPCを持っていない場合もあるため、モバイルデバイスからでも応募しやすい方法が必要とされています。こうした課題に対処するため、Leadership Connectのメンバーの中には、Googleフォームを使って簡易的な応募者アンケートを実施したり、採用管理システム(ATS)を活用して仮の履歴書の作成や応募者のキャリアパス、スキルレベルの確認を行っているという声もありました。

スキルファースト採用戦略には、他にも次のようなものがあります。

  • トランスファラブルスキルを持つ人材プールを特定し、働きかける。
  • 社内の仕事の紹介を保証する職業訓練プログラムを作成する。
  • 必須の基本情報のみが記載された匿名の応募書類を採用マネジャーに渡し、公正な採用プロセスを支援する。
  • 従業員のリスキリング(学び直し)やスキルアップと、他の職務への配置転換を担当する専任チームに投資する(特にレイオフ(一時解雇)のリスクが高い業界)。

全体的に、リーダーたちはスキルファースト採用を支持していますが、この方法で採用された人材の定着率を示す調査データが不足しているという声もあります。リーダーは、要件と完全に一致する学歴や職歴を持つわずかな候補者を優先するのではなく、トランスファラブルスキルを持つ候補者を検討するよう採用マネジャーを説得するために、こうしたデータを求めています。

DEIに関する目標は重要だが、達成するのは難しい

多くの人がDEIの取り組みに関心を寄せ、ビジネス上の必要性を理解している一方で、人材リーダーたちはDEI(Indeed ではDEIB+)の目標を現実的な方法で達成することは難しいと感じています。その理由は、DEIの理念が文化的対立の的になっているためです。

DEIへの抵抗は、予想外の場面で顕在化することがあります。たとえば、学習と能力開発を担当するあるリーダーは、Leadership Connectのグループで「若い世代の労働者は優れたリーダーやメンターシップを重視しているため、マネジャーには多くのソフトスキルの開発が求められる」と指摘しました。しかし、このようなソフトスキルの研修にはDEIの取り組みに関する話題が含まれることが多く、否定的な言説が広がる中で、こうした研修を実施することはますます難しくなっています。

さらに、多くのATSでは、性別欄の選択肢が「女性」と「男性」に限定されているため、ノンバイナリー(伝統的な男女二元論の定義と一致しないジェンダーアイデンティティ)、トランスジェンダー(ジェンダーアイデンティティや性表現が出生時の性別と異なる方)、ジェンダーフルイドといった人々を排除し、そのような人に応募を思いとどまらせる原因になっているという課題もあります。一方で、インクルージョンを最大限に追求しようとする取り組みは、逆に反発を招くこともあります。

ある人材リーダーは「誰もが素晴らしい仕事を手に入れ、採用プロセスに恵まれることを望んでいます。ある人々を気にかけて措置を講じているからといって、そうでない人の価値観を非難しているわけではありません」と述べ、今年の米国大統領選挙が緊張感を高めたことを指摘しました。 

Leadership Connectのメンバーは、ディスカッションの中で、DEI目標に関する有意義な対話とフィードバックの機会を作るために、透明性と説明責任の確保に取り組むことを推奨しました。つまり、リーダーシップの評価指標(ジェンダーアイデンティティ、人種、社会経済的環境)を全社で共有し、組織が成功している点や改善の余地がある点を特定して、不十分な点に対処するための次のステップを話し合うことが大切です。

さらに、メンバーはDEIの取り組みを強化するための具体的な戦略も提案しました。

  • 社内や退職者に目を向け、多様な人材を惹きつける。あるリーダーは「私たちの多くがコロナ禍で人材を失いましたが、そうした人材はまだ身近な場所にいるかもしれません」と述べています。
  • 企業が惹きつけたいと考えているが、過小評価されている層を支援する地元の学校や大学、組織と連携し、人材パイプラインを構築する。
  • 職場でのインクルージョンやビロンギング(自分の居場所があると感じられること)、心理的安全性を確保するため、センシティブな話題を扱うための場を設ける。

時に緊張感のある環境では、セルフケアを優先することも重要です。ある人材リーダーは、「自分に決定権があり、変化を生み出せる分野に身を置くことは、DEI目標を追求する中で反発に直面し続ける場合でも、士気を保つための有効な手段です」と話します。

変化する労働者のニーズに応える

「人材を確保できたら、次の課題は定着率の向上です」と語るのは、人事部門のある上級管理職です。職場環境と従業員の期待が急速に変化する中、多くの企業が従業員のモチベーションを維持するために、こうしたニーズを理解し、満たすのに苦労しています。

Indeed のGlobal Work Wellbeing Report 2024によると、医療・ヘルスケア、教育、輸送・物流といった業界のウェルビーイングは、現場で働く人々に感謝の意を表していたコロナ禍以降、低下しています。現場で働く人々は、現在も同様に身を尽くして働いているにもかかわらず、感謝される機会は減っており、これが離職率の上昇につながっています。

2023年版のレポートと比較すると、職場の雰囲気をつくる責任は従業員よりも企業の方が大きいと考える回答者が増えています。人材リーダーは、こうしたデータを活用することで、従業員の現在の価値観や懸念事項を把握し、企業としての価値提案(EVP)を情報に基づいて適切に更新する上で、重要な役割を果たすことができます。ただし、福利厚生の見直しは、データに基づいて行うことが重要です。 

Leadership Connectのあるメンバーは、従業員の離職の根本原因を分析し、問題に対処することで、特に現場で働く時間給の職種で定着率が改善したと述べました。データからは、従業員が離職する主な理由は、ニーズが満たされないことや職務との不一致であったことが分かりました。驚くべきことに、給与の問題よりもマネジメント上の問題の方が多く理由として挙げられていたのです。

変更を実施したら、企業からの通知や採用ブランディング、求人の中で、新しい取り組みを効果的に発信することが重要です。「Indeed の職場のウェルビーイング指数を活用し、社内外の意見を収集して、何が求められているかを把握しました。その結果、求められるもののほとんどを備えていたものの、情報の発信が不十分だったことが分かりました」と、採用部門のある責任者は話します。「求められていたのは、キャリア形成、キャリア開発、ウェルネス(健康と福祉)、そして地域社会への貢献でした」

従業員の期待に応える取り組みには、他にも次のようなものが考えられます。

  • 従業員の定着を支援する専任チームやオンボーディングパートナーを配置し、新入社員が福利厚生やキャリアパスの選択肢を理解できるようサポートする。
  • 新入社員が参加できる従業員向けリソースグループ(人種やジェンダー、年齢、宗教、性的指向など、共通のアイデンティティを持つ従業員が活動するグループ)を立ち上げ、すぐにネットワークを構築できる場を提供するとともに、研修やオリエンテーションプロセスについてフィードバックを求める。
  • リーダーが個別と公の場の両方で従業員の功績を評価し、感謝の気持ちを伝えられる仕組みを構築する。

人材リーダーたちが急速に変化する採用環境に対応する中、スキルファースト採用を推進し、DEIへの反発の高まりに対処しながら、従業員のニーズを満たすことが中心的な課題となっています。柔軟性を保ちながら、こうした課題に正面から取り組むことで、現代の競争の激しい市場で優秀な人材を惹きつけ、定着率を高めることができるでしょう。