視覚障害を持つ人が介助犬を傍にオフィスで働いている

米国では、スキル重視の採用活動への転換や、リモート勤務などの働き方に対する新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした影響により、障害のある人材にとって就業の障壁が低くなっています。実際、米国の障害がある多くの求職者が、コロナ禍にリーダー職に就き、チームがさまざまな障壁を乗り越え、新しい働き方を検討するようサポートしてきました。米国労働統計局(BLS)は、コロナ禍で障害のある人の雇用率が2021年の19.1%から2022年には21.3%へと、徐々に増加していると発表しています。 

この発表は、期待が持てる傾向だと言えるでしょう。これまで長い間、障害のある人々は教育や移動手段、就業などにおいて障壁に直面してきました。たとえば米国労働統計局によると「障害のある人は、障害がない人と比較して、四年制大学卒業以上の学歴を取得する可能性が低い」とされています。 

それでも、Indeed でSenior Marketing Accessibility Program Managerを務める私自身は、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)や、障害のある人に対する長年の誤解が、採用活動に多くの影響を及ぼしていることを確信しています。そして、さまざまな障害を抱える人材に対する、よくある3つの誤解を採用企業が認識することが大切だと考えています。なぜならこうした誤解は、障害のある人々のコミュニティが直面する就業の障壁を高くすることにしかならないためです。幸いにも、この発想力に優れた未開拓の人材の層にアクセスできる方法があります。 

IndeedのSenior Marketing Accessibility Program Manager、Donna Bungard

IndeedのSenior Marketing Accessibility Program Manager、Donna Bungard

誤解その1:障害とは「能力の欠如」である

採用面接でよく聞かれる「最大の弱みは何ですか?」という質問は、何と答えるべきか困ってしまう質問の1つです。事前に準備し、戦略的に自己認識力を示しながら、イメージダウンにならない回答をしようと努めるかもしれません。しかし、候補者の弱みも、仕事のパフォーマンスに与える影響もすでに知っていると勝手に判断されていたとしたらどうでしょうか。この質問をするどころか、そうした憶測に基づき、あなたを採用することを検討すらしなかったらどうなるでしょうか?

障害のある人の多くは、自分の障害について公表(非公表にできない、非公表にしておくことを望まない場合も含め)したときにこのような経験をしています。実際には、個人の症状や状態が、応募している仕事に直接的な影響がないにもかかわらずです。また、障害があると言って一括りにすることはできません。障害の状況は一人ひとりすべて異なり、仕事上の経験や能力への影響も同様に大きく異なります。 

障害のある人のコミュニティやアライ(当事者の支援活動をする人)は、障害のある人が直面する障壁の原因は、障害そのものではなく社会の構造にあると認識しています。障害のある人々の権利擁護に尽力した故Judy Heumannさんは、生前のインタビューで以下のように話しました。「障害は、生活に必要なものを社会が提供できない場合にのみ、悲劇となります。たとえば、就業の機会やバリアフリーの建物などです。車椅子で生活していること自体が悲劇ではありません」。

採用担当者にとっての目標は、応募者の障害ではなく、他の応募者と同様に、能力そのものを重視することだと言えるでしょう。  

誤解その2:障害のある人に配慮するためにはお金がかかる

組織の多くは、ADA(障害を持つアメリカ人法)に規定され、法的に義務付けられたアクセシビリティの慣行にただ従うだけでなく、より多くの取り組みを実施したいと考えています。ただ、そうした特別な配慮が、経済的な負担や従業員間の不平等につながるのではないかと、管理職が不安に感じていることがあります。 

しかし、皆さんの職場でもすでに使用されているかもしれないノイズキャンセリングヘッドフォンのほか、フレックスタイム制や在宅勤務など柔軟な働き方の選択肢なども、配慮とみなされることはあまり知られていないかもしれません。 

どのような配慮を必要としているかは、入社にあたって、「アクセシビリティについて、どんな要望がありますか?」と相手に尋ねて把握することが大切です。

これまでに十分、多様性のあるチームが持つ力は証明されてきています。必要とされる配慮を提供することで得られるメリットは、コストをはるかに上回るでしょう。 

また、障害のある人への配慮は、障害がない従業員にも有益である点が多いことを忘れてはなりません。 

昔からよく使われる例としては、街中の歩道にスロープ状の縁石を設けた場合、車椅子の利用者だけでなく、歩行器を使っている年配の方や、赤ちゃんを乗せたベビーカーを押す親などにもメリットがあります。また、あまり知られていない例としては、会議前にその日話し合うアジェンダを共有する、ビデオ通話で字幕が使えるようにする、会議後にアクションアイテムや期待値をまとめて共有するなどがあります。これらは、チーム内の障害のあるメンバーの助けになるだけでなく、リモートやハイブリッドチームで働いている場合に、チーム内にインクルージョンやビロンギングの意識を育むのに役立つでしょう。 

誤解その3:自社の求人掲載用テンプレートは、障害のある人のインクルージョンに十分配慮している

組織が新しい求人を掲載する際、仕事内容のテンプレートを使って準備を進めることはよくあります。「荷物を持ち上げる体力が必要」や「電話面接必須」など、要件が箇条書きにされている場合が一般的かもしれません。 

残念ながら、こうした仕事内容は意図せずとも、障害のある方に、自分は応募の対象外であると判断させ、応募プロセスから離脱させてしまう可能性があります。次に、障害のある人に対してもインクルーシブな求人掲載にするためのヒントをご紹介します。

障害のある人に対する差別表現を避ける。仕事内容は、募集している職種で業務を遂行するために必須の項目に絞って記載しましょう。たとえば、毎週必ず40時間働くことが本当に必要なのか、それとも適切な人材であれば、短い時間で仕事を完了できるのでしょうか。また、長時間デスクに座り続ける能力は必要なのか、それともスタンディングデスクを使用するオプションはあるのでしょうか。

障害のある人に対する差別表現が意図せず含まれている可能性もあります。たとえば、情報収集力がある人材を求めている場合に、求人掲載に「自分の足で情報を集められる方」といった表現が含まれていることがあるかもしれません。また仕事内容に「しっかり話せる」人を募集していると記載した場合も、実際に声を出して話す必要があるというより、条件に合う候補者は、コミュニケーション能力が高い人材という意味かもしれません。 

その他にも、単純に短い会議を意味する「スタンドアップミーティング」や、新しい情報を受け入れる能力という意味合いで、求人の求めるスキルなどに「聞く力」と記載されている場合などが、障害のある人に対する差別となる言葉や表現の例となります。 

障害のある候補者を惹き付けるために他にもできること

求人掲載で、メールや電話、オンラインでの応募など、複数の応募方法を用意しておくと、応募者が自分に合ったコミュニケーション方法を使うことが可能になります。 

すでに柔軟な勤務形態を提供している場合、従業員向けリソースグループ(ERG)を結成することをお勧めします。アクセシビリティの実践など、障害のある人のインクルージョンを推進し、求人掲載でも言及しましょう。そうした取り組みにより、障害のある応募者を積極的に受け入れ、価値を見出していることを伝えることができます。

インクルーシブな採用活動が互いのニーズを満たす

障害のある人のコミュニティにとどまらず、あらゆるマイノリティグループにとってどんな社会的な障壁が存在するのかというのはすでに分かっています。自社の採用プロセスに存在するバイアスを認識する方法を学ぶことで、組織全体で変化を促進することが可能になります。仕事内容のテンプレートを更新し、アクセシビリティに関するニーズを候補者に確認するプロセスを標準化し、業務の達成方法ではなく達成すべきゴールに重点を置くことで、障害のある人のインクルージョンを日々の業務にに取り入れることができます。これは、障害がない従業員にもポジティブな影響を及ぼします。全般的にインクルーシブな慣行は、ビロンギングの意識を高めることにつながるため、自社の文化の基盤となるでしょう。   

国連によると、さまざまなマイノリティグループの中で、障害のある人のコミュニティの規模は最大であるとされています。また、マイノリティグループの中で唯一、誰もがその一員となる可能性を持つグループでもあります。私たちの多くが、人生の中で何らかの障害を持つようになるのは、決して珍しいことではありません。

つまり、採用活動も、障害のある人に対してインクルーシブな慣行も、互いのニーズをうまく満たすのに役立つ可能性があります。組織は欠員を補充する人材が必要であり、求職者は自分のニーズを満たす採用企業を求めています。チームにポジティブな影響をすぐに与えることができる、優れた人材は存在します。障害のある人に対してインクルーシブな慣行をプロセスに取り入れ、障害のある人についてよくある誤解を解消することで、この未開拓の人材の層を活かすことが可能になります。