変化の激しい世界では、仕事が安心できる場所になっている人も多いかもしれません。「誰もが頭の中で次から次へとすばやく思考を巡らせています」と、Indeed でGlobal Diversity, Equity, Inclusion and Belonging担当Vice Presidentを務めるMisty Gaitherは言います。「従業員は様子を尋ねる気遣いに感謝するものです。私は『朝一番の簡単な挨拶』と呼んでいますが、現状について尋ねる時間をスケジュールや会議に取り入れています。」
そうした習慣は、単に素晴らしいことというだけでなく、ビジネスにとっても有益な場合があります。調査によると、従業員の幸福度が高いほど生産性が向上し、転職する確率も低くなることが分かっています。企業のリーダーは、他者への礼儀や思いやりある行動を、自社の文化に意識して取り入れる必要があるかもしれません。また、偶然の結果に頼るだけでなく、組織が意図的に健全で働きやすい環境になることも大切です。この記事では、学者やウェルビーイング(心身の健康と社会的な幸福度)の専門家4人に聞いた、思いやりの文化を育むためのベストプラクティスをご紹介します。
「アヒルのおもちゃ」で伝える称賛の力
アメリカ心理学会(APA)でDirector of Internal Communications and Staff Wellbeingを務める、Tara Davis氏
優れた仕事を認める:新型コロナウイルスの感染拡大前、アメリカ心理学会が「レコグニションデー」と呼んで互いの功績を認め合う日には、従業員が同僚に感謝する言葉をメッセージカードに書き、小さなアヒルのおもちゃを添えて渡していました。「従業員は、黄色いアヒルをデスク周辺に並べて飾っていました。それが最高の称賛だったのです。」ここ数年、同僚を公の場で称賛する習慣はオンラインに移行しています。従業員は「ダッキーグラム」(アヒルのイラストが描かれたメール)を送信するか、社内のバーチャル休憩室にメモを残すことができます。
チームが自主性を発揮できるようにする:「従業員の仕事のやり方や、働く場所と時間に柔軟性を持たせましょう。従業員の生活を尊重し、細かく命令するつもりがないことを示しつつ、日々の仕事の成果だけでなく、個人として従業員を気にかけることは、思いやりそのものであるからです。」
会議を改善する:アメリカ心理学会では、Web会議疲れを防ぐためのガイドラインを提供しています。「同僚に対して敬意や優しさ、思いやりを示し、人生において仕事がすべてではないという共通の理解を表す、健全な会議の慣行を作成しました」とDavis氏は話します。それには、カメラのオンオフが必要な場合にそう伝える、休憩時間を設けるため会議は数分早く終了する、画面で個人的な生活が垣間見えることに理解を示す、などが含まれます。「会議に集中しながら、同時進行で洗濯もこなせる人に対して私は怒りを感じません。むしろすごいなと思います。」
質問を受け付け、正直に回答する:「アメリカ心理学会のCEOは1か月に1~2回程度、従業員とのカジュアルな対話を実施し、人事関連以外であれば、従業員が希望するあらゆるテーマについて話し合います。人気のテレビ番組を観ているかどうか聞く人もいれば、気候変動へのアメリカ心理学会の取り組みについて尋ねる人もいます。彼はそうした質問に、ありのまま誠実に答えています。」
Thrive GlobalでChief Wellbeing Officerを務めるDavid Hoke氏によると、ビジネスにはもっとコラボレーションとつながりが必要だと言います。
思いやりと誠実さが敬意を育む
メディア企業の元CEOで、フォーダム大学教授、また『Leading with Kindness: How Good People Consistently Get Superior Results』の共著者であるWilliam Baker氏
優しい人が誰よりも早く目標に到達することを忘れない:多くのメディアが非常に優秀な上司に注目しがちですが、現在、一般的に成功しているのは思いやりのあるリーダーであるとBaker氏は言います。「メディアが取り上げないため、あまり聞くことはありませんが、非常に大きな成功を収めているビジネスエグゼクティブは本当にたくさんいて、米国だけでなく、世界中で最も優れた企業を経営しています。」
極地探検家のErnest Shackletonの行動から学ぶ:「私は北極にも南極にも行ったことがあり、さまざまな偉大な探検について時間をかけて学びました。シャックルトンは誰からも尊敬されています。彼は有言実行の人であり、常に真実しか話しませんでしたし、約束を守りました。この有言実行が思いやりのある上司になるための要素だと思います。」シャックルトンにとっての有言実行は、氷上で1年以上を過ごした後に探検隊のメンバー全員を無事に帰宅させたことでしたが、これは功績と呼べる行いでしょう。
一人ひとりの従業員を知る:「自社の従業員をどのように把握しているでしょうか。昔ながらのやり方は、シンプルに歩き回ることです。それは一人ひとりの従業員と知り合うことであり、わざとらしい食事会を開くことでも、心のこもっていないスピーチをすることでもなく、実際に社内を回って従業員と話すことです。従業員はパズルのピースではありません。彼らは人間であり、それぞれが色々な出来事のなる人生を送っているのです。」
管理職を称賛する:「中間管理職より重要なものはありません。ほとんどの著名な大企業で、実際にすべての仕事をこなしているのは中間管理職なのです。最も思いやりに満ちている必要があるのは中間管理職でしょう。」
個人に焦点を当てることで組織を改善する
Thrive GlobalでChief Wellbeing Officerを務めるDavid Hoke氏
自分を偽らない:「テクノロジー過多の時代には、誰が何をしているかを常に監視し、把握することが可能です。うわべだけの対応はもう通用しません。自分を偽らないことが大切です。自分に正直でないと、同僚やチームに見透かされるでしょう。」
従業員にリフレッシュする時間を与える:従業員の予定が休みなしに埋まっていたり、片付けることが不可能な量の業務が積み重なっていたりすると、従業員は実力を最大限に発揮できない場合があります。「空っぽのカップから注げるものはありません。従業員は自分が持っているものでしか貢献できません。従業員に配慮し、投資する際は、必ず十分な余裕を与えるようにしましょう。与えれば与えるほど、より多くを会社にもたらすようになります。」
競争第一の価値観を推奨しない:「勝つことが全てではない。それが唯一のことだ」と言ったのは、著名なアメリカンフットボールコーチ、Vince Lombardiです。しかしHoke氏は、現在の世界には当てはまらないと反論します。「今日、私たちはより多くのコラボレーションを行う必要があり、企業内でつながりを増やす必要があります。仕事以外の世界にはネガティブな要素があふれています。マクロ環境(企業を取り巻く外部環境)はネガティブな発言に偏っているため、従業員は自然と常にそれらを耳にすることになります。…どこかに安全な避難所がなければなりません。」
最後までやり遂げる:「発言するだけで実行しないことは、最悪の行為です。」
思いやりの文化を育むには時間とリーダーシップの賛同が必要
アリゾナ大学の経営組織学の准教授、Katina Sawyer氏
最善が尽くされていることを想定する:「誰かが間違えたときや失敗したとき、まずは好意的に解釈することが大切です。従業員も人間であることを理解し、組織にダメージを与える意図でやったのではないと想定しましょう。何か起きたときには思いやりを示す、というあり方が、優しさのある想定だと言えます」
自分自身も同じ水準を保つ:「ときにリーダーは、文化を育むことは従業員のためであると考えがちです。自分たちはリーダーであり上級管理職だから、そうした知識をすでに持っているはずだし、思いやりを育むトレーニングを受ける必要はない、と思うかもしれません。一般従業員のために文化を醸成することには関心があるものの、自分自身は時間も労力も費やすつもりがない場合、その考え方は従業員にも伝わります。また、そうした態度は、この会社では他者に優しくしなくても出世できる、という誤ったメッセージを発信することにもつながるでしょう」
優れた文化を育むには時間がかかることを理解する:「組織は、ポジティブな変更を導入した後には、すぐに結果が出ることを期待するものです。しかし、強固な文化を育むには時間がかかります。複数の要素が関わっており、そうした要素が互いに呼応し始めるまでには時間がかかるためです。」