
応募者の多くが次のような経験をしています。求人応募フォームの入力を進めていくと、最後に属性情報の入力を求められ、人種や障害のほか、兵役の有無などその国特有の状況に基づいた選択肢があります。ところが、性別の項目には男性と女性の2択しかありません。自らの性自認を男性または女性という2つの枠組みに当てはめない人々、つまりノンバイナリーのジェンダーカテゴリーに属する人々は、適切でない性別を選択することになり、大きな疎外感を抱く可能性があります。
職場のノンバイナリー従業員が占める割合は急速に拡大しています。現在、米国内で性自認がノンバイナリーである成人は約120万人おり、その大半(76%)が30歳未満です。しかしながら、多くの企業の採用プロセスは依然として、ノンバイナリーの人々の存在を認識したものではありません。こうした採用プロセスは、重要な労働者層を遠ざけるリスクにつながっています。なぜなら、ノンバイナリーの人々が、そうしたインクルーシブでない求人応募フォームを目にすることにより、支援を受けられる職場環境ではないと判断するからです。
「採用プロセスから求職者が受け取るサインはきわめて重要です」と、職場でのトランスジェンダー(ジェンダーアイデンティティや性表現が出生時の性別と異なる方)のインクルージョン(誰も取り残さないような施策や環境を作ること)について研究を続けてきたアリゾナ大学経営学のKatina Sawyer准教授は述べます。
ノンバイナリーの求職者にとって応募プロセスがよりインクルーシブなものになるような取り組みを、次にご紹介します。
インクルーシブな求人応募フォームを作成する
ノンバイナリーの応募者にとって安全な職場であることを伝えるため、求人応募フォームがインクルーシブな表現で書かれていることを採用マネジャーが確認するようにしてください。応募フォームは将来の従業員と会社との最初の接点であり、LGBTQ+の求職者にとっては職場の価値観を知るための重要なサインになります。
「求人広告や仕事内容、そこに記載された言葉や表現の重要性が過小評価されているように感じます。もっと多くの人材を惹きつけるために、手軽にできることがいくつか紹介します」と、Indeed でEmployee Lifecycle担当Global Directorを務めるJessica Hardemanは語ります。
求人応募フォームのジェンダーの項目に「その他」という選択肢を加えるだけの企業もありますが、これは専門家の多くが避けるよう助言しているやり方です。「この言葉には何の効果もありませんし、支援の意思を表すものでもありません。さまざまなジェンダーを『その他』として分類する意図であったとしても、ひとくくりにまとめられること自体に疎外感を感じる方もいるでしょう」と、インクルージョンをテーマとする従業員研修を手がけるEmtrainの創設者兼CEOであるJanine Yanceyさんは指摘します。
Yanceyさんは代わりに、男性、女性、ノンバイナリーという性別の選択肢を作ること、あるいは自由記入欄を用意しておくことを推奨しています。
また、英語などジェンダーを代名詞に使用する言語で選考を進める場合は、応募者が自分の代名詞を記載するためのスペースを追加するのもよいでしょう。候補者が面接に進んだ場合、リクルーターや採用マネジャーが代名詞を把握しておくと、相手の性自認と一致しない扱いをしてしまうというミスジェンダリングを避けるのに効果的です。とは言え、代名詞に関する質問は必ず任意にするべきです。ノンバイナリーの応募者の中には、バイアス(意識的または無意識のうちに形成された、特定のグループに対する固定的な見方や態度)に対する恐れから、応募の初期段階で自分のアイデンティティを共有することに抵抗を感じる人もいます。
官公庁向けの書類でノンバイナリーの従業員を正しく報告する
米国では、連邦政府に提出する必要のある書類には、通常、男性または女性の2つの性別しかありません。このことが、多くの経営者が、求人応募フォームや従業員データのジェンダー欄にノンバイナリーの選択肢を追加しない要因となってきました。
しかし、このパラダイムは変わりつつあり、米国では連邦政府のレベルでもノンバイナリーというアイデンティティの公認はより一般的になってきています。2022年4月、米国政府はノンバイナリーの人々向けに「X」と記載されたパスポートの発給を始めました。ただし、人事担当者にとっては残念なことですが、すべての機関でノンバイナリーであることを簡単に表明できるようになったわけではありません。
米国では、従業員数が100人以上の企業は、「Equal Employment Opportunity Employer Information Report(雇用機会均等従業員情報レポート、通称EEO-1)」を連邦政府に毎年提出することが義務付けられています。この報告書では、従業員の「人種または民族、性別、職種カテゴリー」を特定することが目的として謳われています。米国雇用機会均等委員会(EEOC)は、職場のダイバーシティを測定するためにこの報告書を使用していますが、EEO-1フォームには大きな問題が1つあります。ノンバイナリーというジェンダーの選択肢がないのです。
ただし、性自認が男性と女性のいずれでもない従業員を受け入れたいと考える企業には、正確にジェンダーを記録する方法があります。EEOCは2019年以降、ノンバイナリーを自認する従業員について、EEO-1フォーム下部のコメント欄に記載することを推奨しています。EEOCは経営者に「追加従業員データ」という文言を使って、コメント欄に従業員を追加し、説明するよう求めています。たとえば、「追加従業員データ:ジェンダーがノンバイナリーの従業員1名」と記載し、その従業員の職種と人種・民族を後に続けます。
EEO-1は中規模から大規模の米国企業に提出を義務付けている、連邦政府向けの書類ですが、一部の州ではこれを補完する書面もあります。このような書面を活用すると、多くの場合、ノンバイナリーの従業員についての記載がかなり容易になります。
たとえばカリフォルニア州では、賃金格差を把握するために経営者に給与データ報告書の作成を毎年求めています。給与データ報告書では、企業によるノンバイナリーの従業員の特定が、男性または女性と同じように必須です。カリフォルニア州の記入例を挙げると、「A30 - ヒスパニック、ラティーノ - ノンバイナリー」と記載した後に従業員の職種と給与を続けます。
その他のインクルージョンにも焦点を当てる
求人応募フォームと従業員データでインクルーシブな表現を使うことは、間違いなく重要な第一歩です。その一方で、真にジェンダーインクルーシブな採用プロセスを実現するには、トランスジェンダーのアイデンティティについて留意すべき、さまざまな場面が出てくることを考慮に入れる必要があります。
たとえば、リクルーターと採用マネジャーは、場合によっては応募者の複数の名前を把握しておく必要があるかもしれません。トランスジェンダーとノンバイナリーの人々は、出生時に与えられた名前とは別の名前を使うことが多いため、採用担当者は応募者が希望する名前を使うよう留意する必要があります。
同様に、身元確認のプロセスでは、紹介者や以前職の上司が応募者を別の名前で認識している可能性を念頭に置きましょう。名前が違うことに採用マネジャーが気づいても、応募書類に偽りがあったと捉えるべきではないでしょう。「応募者が採用プロセスの途中で放り出され、まるで身元を偽っていたかのように問い詰められたという恐ろしい話を聞いたことがあります」と、Sawyer准教授は言います。
採用マネジャーは名前の違いについて応募者に問いただすのではなく、大学の成績証明書などの会社が入手した情報に、応募者がもう使っていない出生時の名前、いわゆるデッドネームが使われている可能性を考えましょう。
ノンバイナリーとトランスジェンダーの違いについて、採用マネジャーとリクルーターを対象とした研修を実施することも、職場のインクルージョンを向上させる1つの方法です。また、ノンバイナリーの応募者を尊重していないと思われる従業員について、会社として責任を持って対処することも同様です。
リクルーターが、応募者が希望する代名詞を軽んじていたり、訂正後もデッドネームで呼び続けたりすることは、優秀な応募者だけでなく現在の従業員をも疎外する恐れがあります。思慮深いインクルージョンは企業ブランディングのためだけの活動ではなく、職場を構成する人々にとっても欠かせない取り組みです。組織内にインクルーシブなマインドセットが根ざすことは、採用プロセスにも必ず前向きな波及効果を及ぼします。
「求職者は、企業ページで、今その会社で働いている人々について学び、自分自身がその会社で働く姿を想像できるかを真剣に考えます。このような事柄はすべて、求職者が最終的に応募の送信ボタンをクリックするかどうかの意思決定に影響を与えるのです」と、Indeed のDI&B Senior Business PartnerのKathryn Kooは指摘しています。