頭痛や気分の落ち込みなど、様々な症状が現れる更年期障害。症状がひどい場合は仕事に支障をきたし、離職につながってしまうケースもあります。女性の社会進出が進み、管理職も増加するなかで、働き盛りの世代にのしかかる更年期障害の特性とは何か、また会社としてどのような対処ができるのでしょうか。複数の企業で保健師として活躍する藤吉奈央子さんに伺いました。

更年期障害の主な要因は、ホルモンの減少

――更年期とはどのような年代のことで、更年期障害となるとどういった症状が現れるのでしょうか。

更年期というのは女性の場合、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせたおよそ10年間を指します。その時期に卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンの分泌量が減少することによって女性の体に様々な不調が現れやすくなります。これらの症状を更年期症状といい、その症状が日常生活に支障をきたすほど辛い場合を更年期障害と言います。ホルモンが急激に減少するなかで、仕事や家庭の変化などの環境要因、性格や体質などの個人的要因などが重なって症状が現れます。

その症状は非常に幅広く、イライラする、不安感があるなどの感情的な不安定さや肩こり、腰痛、頭痛、めまい、ホットフラッシュ、さらに月経周期の変化、コレステロール値や血圧が上がる、眠りが浅いなど様々です。あらゆる症状がある上に、その程度は人によって差があるので、更年期障害という診断ではなく、うつや適応障害という診断を受けてから、その背景に更年期障害があったことが分かるケースも少なくありません。

――これだけ症状の幅が広いと、なかなか診断がつきにくいのですね。

女性の場合、基本的には婦人科の領域になりますが、症状が多様なので内科などほかの診療科を受診し、更年期障害の診断までたどり着かないことがあります。ホルモンの数値を調べたとしても、その数値だけでは更年期障害と診断できないケースもあるようです。症状が多岐にわたり、他の疾患との区別がつきにくく何科を受診するのか判断が難しいかもしれません。

私が実際に対応したケースでも、涙が止まらない、やる気が出ないなどの症状から、うつと診断されたものの、実は更年期障害だった人もいました。コロナ禍の影響で在宅勤務も広がっているので、症状が辛くてもなんとか仕事を続けられている人も増え、更年期障害が顕在化しにくくなっているのではないでしょうか。ただし、症状が出ている当人は無理をして頑張っているはずなので、集中力が低下したり、仕事の効率や生産性が落ちたりしている人は大勢いると想像しています。

――更年期障害と診断された場合、どのような治療をするのでしょうか?

主な治療法はホルモン補充療法です。急激に減少するエストロゲンを補うことで、諸症状を緩和させるもので、内服薬や貼り薬、塗り薬など様々なタイプが開発されています。特にのぼせやほてりといった症状に対して有効なようですが、不正出血や下腹部のハリなど、まれに副作用がある場合があるため、定期的に受診して問題がないか診てもらいましょう。更年期症状を我慢してしまう人も多いかもしれませんが、症状が辛い場合は婦人科を受診して専門医に相談することをおすすめします。

女性管理職が増える中、更年期障害が大きな課題に

――なぜ今、企業が従業員の更年期障害に対処する必要があるのでしょうか?

企業が更年期障害の対応策に取り組むべき理由は、女性の社会進出が進み、女性の管理職も増える中で、女性特有の健康問題が引き起こす経済的な損失が大きいからとも言われています。これは更年期障害に限った調査ではありませんが、女性特有の月経随伴症状による、1年間の労働損失は4911億円を超えるとも言われています。更年期障害にともなう労働損失も少なくないと予想されますが、生理に関する休暇制度などに比べて更年期に対する対策はまだ不十分なのが現状です。

というのも、これまでの時代は40~50代の管理職に就いている女性が男性に比べて圧倒的に少なく、更年期障害が仕事に与える影響がそれほど大きな問題として捉えられていなかったという現状があります。しかし近年、女性の管理職の割合が増えたため、新たな課題として浮き彫りになってきています。

これまでも生理や更年期障害に伴う心身の不調によって、昇進をあきらめた、大事な仕事を断ったなど、職場で何らかのことをあきらめた経験がある人が42.5%というデータも(※1)あり、女性活躍が進む中、企業が更年期障害に対処する必要性が高まっています。

――更年期障害というと女性特有のもののように思われがちですが、男性にもありますね。

はい。男性にも更年期障害はあります。女性と同じく、男性ホルモンのテストステロンが減少することに、仕事や家庭の変化などの環境要因や性格や体質などの個人的要因が重なって症状が現れます。具体的には筋力低下や関節痛、異常発汗、ほてり、不安感、イライラする、性欲の減退などです。男性も、不調があっても言い出せない面があると思うので、男女問わず大きな健康課題の一つと捉えられます。

更年期障害も多様性の一つとして理解を

――男女問わず起こりうる更年期障害という健康課題に対して、企業は具体的にどのようなことができるでしょうか?

企業内に産業医や保健師などの専門職がいる場合は、まずは相談窓口を設けることが有効になると思います。しかし、専門職の人がいない企業も多いので、その場合は外部の相談窓口を上手に使うのも一つの方法です。また、更年期障害に限定せず、治療や介護、子育てなど個人的な制約がある人が使いやすい自由度の高い休暇制度があると、通院や具合が悪いときに活用できます。時間単位の年休やフレックス制度を取り入れるなどして柔軟に働ける環境をつくることも有効でしょう。

一方で、未だに一部では更年期障害に対する偏見もあり、人に言いづらい側面があります。しかし、前述のように更年期障害は男女問わず、誰にでも起こりうるので、ダイバーシティの考え方のように多様性の一つとして捉えるべきだと思います。誰もが通る道だと理解できたら、少しずつ更年期であることを言いやすくなり、辛いときに周囲の理解も得られやすくなるのではないでしょうか。まずは偏見をなくし、みんなが更年期への理解を深めることも大切だと私は考えています。

(※1)…2017年度経済産業省「働く女性の健康推進に関する実態調査」




<取材先>
Harmony ~Life&Work~ 代表 藤吉奈央子さん
関西を中心に複数の企業で保健師として活動。産業看護職の育成に関わる傍ら、人事労務担当者・経営層向けの研修講師なども行う。また、大阪産業保健総合支援センターで相談員・両立支援促進員として大阪府内のがん拠点病院を中心に“治療と仕事の両立”に関する相談対応や医療職向けのセミナーなども実施している。

TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト