
直近数年間で、新規契約件数・年換算保険料ともに積み上げを加速させ、過去最高業績を達成したライフネット生命保険株式会社。業界に先駆けたインターネットによる生命保険販売という革新的な事業展開は、業界の常識にとらわれない企業文化や人材への考え方とも結びつく。採用サイトもユニークで、トップページに個々の情報がタイル状に表示され、どのコンテンツにも一様に目が向くよう工夫されている。
生命保険という歴史の長い業界において、新たな風を吹き込み続けるライフネット生命が、情報発信を通じて目指す“組織のあり方”とは。

山田修平氏(右)。人事総務部 人事グループ(2020年12月当時)。2016年早稲田大学文化構想学部卒業、2018年明治大学大学院理工学研究科新領域創造専攻修了。ライフネット生命に新卒で入社し、マーケティング部広報を経験。2019年4月より人事総務部にて定期育成採用を担当。現在はお客さまサービス部収納保全グループに所属。
発信の軸は“進化論”をベースにした「多様性」と、体温を感じる「正直さ」
――採用の9割が中途採用(通年即戦力採用)で、そのうち6割が他業界出身者とお聞きしました。中途採用の募集要項にも書かれているとおり、人材の個性を尊重する情報発信をしています。多様性はライフネット生命の採用で重視されているコンセプトに見えますが、なぜでしょうか。
窪川:ライフネット生命の役職員が創業の原点として拠り所にしている「ライフネットの生命保険マニフェスト」の行動指針に「私たちは、多様性を尊重し、協力しあうことで、変化に対応しつづける。100年後もお客さまに安心を届けられる会社であるために」という項目があります。ダーウィンの『進化論』にも「生き残るのは強い者でも賢い者でもなく、環境に適応したものだ」という言葉がありますが、当社も多様性がビジネスを強くすると考えています。
生命保険は超長期の契約を続ける商品の特質上、会社存続が至上命題です。変化の激しい時代で生き残るためには変化に適応し続けなければなりません。多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まることで、より変化に適応できる組織になると考えています。生命保険業界だけでなく、IT系、金融系、医療系など様々な領域からの中途採用が多いですね。
――社員を紹介する「社員図鑑」ではメンバーの不得意なところも書かれていますね。
山田:当社は開業以来、マニフェストにもある「正直に わかりやすく」という点を事業全般のコアに置いています。それは採用も同じで、採用候補者も企業もお互いのよい部分だけを見せるのではなく、あえて弱みをさらけ出すことで「正直に」向きあう姿勢を大切にしています。この正直さは、採用の段階だけでなく、入社後も自身の意見を述べたり多様なメンバーとチームで働いたりするうえでの心理的安全性につながっていると思います。
窪川:特に開業からしばらくはライフネット生命と言うと創業者の出口(治明)と岩瀬(大輔)の印象が強く、二人が語る言葉のイメージが先行して求職者に伝わっていました。ただ、実際に働くことをイメージするうえでは、一緒に働くメンバーがどういう人かを知りたいはずだと考え、2016年から今のような社員の顔が見える採用サイトになっています。きれいなところだけではなく苦手分野を出すことでより体温を感じられるようになっていると思いますし、当社特有の“やわらかさ”のようなものを感じていただけたらと思っています。

“マニフェストへの共感”をコアに、会社のフェーズに合わせて発信内容を調整
――多様性を尊重しているということですが、「こういう人に応募してもらいたい」という共通した人物像はありますか。
窪川:やはりコアである「ライフネットの生命保険マニフェスト」に共感いただいていることが重要です。スキルはマッチしているけれど、マニフェストへの共感が不足しているため見送りになるケースもあります。多様性がありつつ、みんなが一つの方向に向かっていけるのは、マニフェストをベースとした採用をできているからだと思っています。
――創業時からの採用へのこだわりが伝わってきます。2021年で開業13年目を迎えますが、採用方法や情報発信はどのような変化を辿ってきたのでしょうか。
窪川:前述したマニフェストをコアにするという大きな軸はぶれていません。
山田:これは必ずしも意図していたことではなかったと思うのですが、当社は2015年に業界に先駆けて同性パートナーの方を死亡保険の受取人に指定できる取り組みを始めました。そのような施策がきっかけで当社に共感を持ってくださったり、応募をしてくださったりする方も多数いました。
窪川:発信する情報の変化という点では、入社時30歳までの方向けの総合職採用「定期育成採用」の選考方法が挙げられますね。定期育成採用では応募のために求職者から「重い課題」の提出を求めています。
――「重い課題」は、定期育成採用の応募時に提出することが条件となっている『わたしの正直さ』『わたしが応援される理由』『わたしの弱さ』の3つのテーマを、それぞれ表現するという課題ですね。
山田:「重い課題」は、2011年に始まりました。当時は論文形式で、たとえば「50年後に日本人の平均寿命が100歳になるとしたら、社会がどのように変化するか。また、その社会ではどのような問題が起こり、どう解決すべきか」といった、多くの資料を参考に書くものでした。新卒一括採用に対するアンチテーゼとして、一つのテーマについて論理的に考える力を発揮できる人を採用したいということもありましたし、高いハードルによるスクリーニングの役割も果たしていました。
しかし、課題自体のテーマ設定に影響を受けてか、出会える人材に偏りがありました。もう少し幅広いタイプの方に出会いたいと考え、2017年から「正直さ、応援される理由、弱さ」というテーマを加えたところ、このテーマを選択される方の割合がとても高くなりました。
窪川:2011年は開業して4年目で、当社に応募いただく方は情報感度が高く、論理的に考えアウトプットを出す課題とマッチ度が高かったのです。その後、企業の成長フェーズも変化するなかでライフネット生命に興味を持ってくれる層もだんだん変化していることを感じ、別の選択肢を提供したという形です。
求職者が“欲しい”と思える情報の準備を可能にした“当たり前に発信する”文化の醸成

――発信の仕方ではどのような点を意識していますか。
窪川:採用サイトだけでなく、いろいろな角度から会社の情報を発信しています。マニフェストは企業サイトに掲載されていますし、当社で運営している人と仕事とお金について考えるオウンドメディア「ライフネットジャーナル オンライン」内にある「社員ブログ」でも様々な社員が思いを発信しています。
インターネットで生命保険をお届けする会社だからこそ「顔の見える会社にしたい」という思いから、開業以来続いています。こちらはマーケティング部が主導で製作を行っています。
面接などピンポイントの接点だけでどういう会社かをお伝えするのではなく、当社に興味を持っていただいた方がより多くの情報を知りたいと感じた時に、いつでも必要な情報にアクセスできるよう常に準備しています。

――社員ブログは採用だけでなく、健康のことや日々の雑感など自由に書かれている印象です。こちらは社員の方々が担当されているのでしょうか。
窪川:そうですね。担当部署から折にふれて執筆依頼があります。当社は社員ブログに限らず“自ら発信する”機会が多くあります。
たとえば入社3カ月目の中途採用社員が対象の「ニューカマープレゼンテーション」は、入社後に感じたことや会社の課題と、それを踏まえた提案を執行役員会で発表するものです。新しく入られた方が15分間程度で、スライドを使って自己紹介する「自己紹介ランチ」もあります。また社員が講師役になって、自部署の業務や部員の紹介をしたり、特定のテーマで学び合ったりする「ピアラーニング」の仕組みもあります。日々発信する機会が多いので慣れていくところがあるかもしれません。
山田:当社は2008年に開業した戦後初めて生まれた独立系生命保険会社です。まだ認知度もゼロに近い状態の会社と超長期の保険契約をするお客様に、どうすれば当社を信頼してもらえるか考えていました。その一つが「こういう人が実際に働いています」と社員の顔が見えるようにすることでした。「全員マーケティング」と呼んでいるのですが、情報発信に協力的な人が多いので、率先して社員ブログも書いてくれることが多いです。
窪川:社員ブログを見て「社員が面白そうだから興味を持ちました」という応募者も多いです。人事の努力というより、社員みんながちょっとずつ発信しているからこそ届いているのかなと思います。成果がすぐに現れづらいことを継続するのは、地味ですがとても強いことだなと今日インタビューを受けていて思いました(笑)。
当社は「総合職正社員の定年制がない」や「女性管理職が3割いる」など、多様な働き方やキャリア形成の仕方に注目していただくことがあります。当社にとっては、当たり前だと思っていることが、求職者の方にとってはまさに知りたい情報である可能性もあるのでもっと戦略的に発信していかないといけないですね。
変化に対応する柔軟な組織作りと、ブレない情報発信の両立
――コロナ禍で保険業界も大きな変化があったと思います。採用活動の方向性や、ライフネット生命にとってのオウンドメディアリクルーティングの役割について、今後どうなっていくとお考えでしょうか。
窪川:当社はもともとオンラインで契約が完結するビジネスモデルです。保険をオンラインで検討したことがなかった方が、社会の変化や要請などにふれていくなかで、当社のサービスにもご興味を持っていただくことが増えたように感じています。会社も成長を続けており、積極的に採用活動を行っています。
山田:面接は基本的に最初から最後までオンラインです。面接官も柔軟な人が多くツールや方法の変化をすぐに受けいれてくれました。また、元々面接のなかでスキルだけでなく考え方や価値観といったところまで深堀りすることが行われていて、オンライン面接でもそのスタンスは変わっていないので、今後も世の中の情勢を見極めながら臨機応変に打ち手を考えていきたいと思っています。
窪川:オファー面談の際に恒例イベントとして実施していた社内ツアーで社内を歩き回っていただくことができなくなったので、山田さんがパソコンを持って社内を回りながら社員やオフィスを紹介したこともありましたよね。手作り感満載でやっています(笑)。
今後も様々な理由でこれまでのやり方ができなくなる、通用しなくなることがあるかもしれません。ライフネット生命にはいろいろなバックグランドの人がいるからこそ、時代に合わせてビジネスを前進・革新させていけると信じています。今後も状況に応じて変化はしながら、カルチャーマッチを第一としたブレない情報発信を行っていきたいですね。
このようなインタビューの機会をいただいて、自社の当たり前を、求職者が知りたい特徴だと捉えきれていなかったところがあることに気付かされました。まずはあらためて求職者目線で社内を見つめ直し、当社の特徴としてとして正直にお伝えできればと思います。
※インタビューは感染症対策を行ったうえで実施し、撮影時のみマスクを外して対応いただいています