男性的な強さを意味するマッチョイズム。長年、日本企業ではこうした考えが重んじられ、精神的にも体力的にもタフであることが是とされてきました。しかし、パワーハラスメントなどの弊害を引き起こす可能性もあり、時代の変化とともにその問題点が指摘されています。ワーク・ライフバランスの取締役・大塚万紀子さんに、企業ができる取り組みについて伺いました。
男性的な強さを重んじる風潮
――「マッチョイズム」とは、どのようなものですか?
マッチョイズムは、男性的な強さを意味する言葉です。職場においては、収入や評価、肩書きを重んじ、自己主張が強く、野心的でたくましいことを是とする考え方や風潮を指す言葉とされています。男性だけでなく、女性がマッチョイズムを持っていることも多くあります。
たとえるなら、ちょうど元号が昭和から平成に変わった1989年に流行語となった「24時間戦えますか」というCMのキャッチコピーに近い感覚ですね。つまり、職場において不満をもらさずに耐え抜き、成果が出るまで滅私奉公で会社に尽くすというイメージです。
さらに加えると「マウントを取る」という言われ方もしますが、人の上に立ってねじ伏せることもマッチョイズムに含まれます。幅広い意味を持つ言葉で、他にも「強くあらねばならない」「働くのが生きがい」といった考え方もマッチョイズムを表しています。
――時代の変遷とともに、マッチョイズムによる弊害が指摘されているということですが、どのような問題がありますか?
昔は良しとされた考え方でしたが、現代においては様々な弊害が起こっています。たとえば職場で、マッチョイズム的な考え方でよかれと思って伝えた言葉を、受け取る側がパワーハラスメントだと感じるケースが増えています。ハラスメントは従業員の意欲の低下や離職、ひいては長期的な視点における企業全体の生産性の低下など、職場環境に悪影響を及ぼします。さらに、パワハラの発覚は企業の社会的な地位を失墜させるのに余りある威力を持っています。
また、「社会人はこうあらねばならない」といった他者への決めつけはダイバーシティ&インクルージョン(個々人の違いを認め合うこと)の欠落につながり、「お茶を出すのは女性の役割」など性別による役割分担が強まったりと、様々な弊害を引き起こす可能性があります。こうした弊害をもたらす環境は、若い世代を中心に敬遠される可能性が高まっているでしょう。現代的な考え方を持たない会社という印象も与えるため、採用にも悪影響を及ぼしかねないので注意が必要です。
「~しなければ」の思いがマッチョイズムにつながる
――経営者がマッチョイズムを持っている場合、その背景にはどのような要因があるのでしょうか?
企業の経営者は、社員を養わねばならないという強い気持ちを持っています。「常に会社を成長させなければならない」「従業員を増やし続けなければ」「従業員を昇進させ続けなければ」という意志に加えて、自分自身に対しても「経営者たるもの尊敬を集めなければ」などの意識を持つ人は多いです。「~しなければ」「~するべき」という言葉を使って話す方が多く、その姿勢こそがマッチョイズムを持っている傾向にあると言えるでしょう。
しかし最近は、そういった志向に「ちょっと疲れてきた」と話す経営者もいます。本来の自分はマッチョイズムの考え方ではないのに、そうしなければと無理に振る舞っていたケースです。
会社のためにマッチョイズムを持たなければと考えていた経営者が「もうマッチョイズムを振りかざす時代ではない」と理解して別のアプローチを探すことで、少しずつ「その人らしさ」が引き出されると思います。たとえば、「目標達成」は「こうなったらいい」「お客様に喜んでもらうために〇〇したい」といった言葉に置き換えて発信するだけで気持ちが楽になります。
――振る舞っているわけではなく、本当にマッチョイズムを持っている経営者の方は、どうすればよいでしょうか?
自身の言動により、組織でどのようなことが起きているかを自覚する必要があります。
昔は仕事を最優先にすべきという考え方が主流で、専業主婦世帯も多く、「深夜まで働けるタフな男性社員」であるべきという時代もありましたが、今は従業員それぞれに様々な考え方や事情があり、一人一人が働ける時間に限りがあります。であれば、目標設定や伝え方に工夫が必要です。工夫をせず、マッチョイムズな考え方をベースに業務を押し付けていては大切な従業員の心身を壊してしまいます。
マッチョイズム的な考えを持つ人に、人それぞれに考え方が違うことを理解していただきやすい方法を一つご紹介しますね。自己主張と感情表出を軸に、コミュニケーションスタイルを4タイプに分類する方法があります。
マッチョイズムを持つ人は自己主張が強く、感情を表に出す「コントローラータイプ」が多いですが、その真逆の「サポータータイプ」の人は、自己主張が弱く、協調性があります。人は相手も自分と同じように物事を受け取っていると考えがちですが、このように人によって受け取り方や考え方が違うものなのです。
野心やたくましさを全否定せず、多様性を認め合う
――人によって受け取り方も考え方も違うと理解することが重要なのですね。
そうですね。だからこそ、職場において野心や自己主張の強さをも全否定する必要はないと思っています。やるべき仕事をしっかりとやりきる姿勢は、パワフルで頼りになる面もあります。適切なタイミングでたくましさを発揮して活躍していただくことも大事です。
そもそも、一人の人間は様々な側面を持っていると理解することが大事です。チームビルディングとしておすすめなのが、社員同士で毎回テーマを変えて自己紹介をする機会を設けること。趣味の話、幼少期のエピソード、なんでもOKです。多面的な角度からお互いを知ることで、それぞれの特性がどのような場面で発揮されたら心地良いか、理解を深める一助になるはずです。
――企業全体の組織づくりとしては、どのような点に気をつけるべきでしょうか。
企業として、さらに日本の社会全体で挑戦するべきなのは、「画一的であることの安心感からどのようにして抜け出すか」ということです。日本の企業は、世間がマッチョイズムを良しとするならみんなで実践し、悪いという風潮になればみんなで脱却しようとしています。しかし、実態は画一的であるはずがありません。根本的な問題が何であるかを見つめ、組織づくりをしていくことが大切です。
本来、中小企業は大企業が気付いていないニッチな分野で事業展開をしていくのが上手で、ビジネススタイルそのものがダイバーシティの観点に立ったものです。ダイバーシティの体現者である中小企業の皆さんこそ、マッチョイズムに縛られない個々を尊重した働き方が実現できるのではないでしょうか。
<取材先>
ワーク・ライフバランス 取締役 大塚万紀子さん
同社の創業メンバーとして、現場の働き方にそった細やかかつダイナミックなコンサルティングを提供し続けている。二児の母として、管理職ながら自らも短時間勤務を実践。パートナーコンサルタント、財団法人生涯学習開発財団認定コーチ、金沢工業大学大学院イノベーションマネジメント専攻客員教授。著書に『30歳からますます輝く女性になる方法』がある。
TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト