Owned Media Recruiting 実践企業事例 株式会社メドレー/左から株式会社メドレー執行役員 加藤恭輔氏、株式会社メドレー人事部採用グループマネージャー 阿部貴嗣氏

2009年の創業以来、医療ヘルスケア分野専門の人材採用プラットフォーム「ジョブメドレー」やクラウド診療システム「CLINICS」などで日本の医療ヘルスケア業界を支えてきたメドレー。社会のニーズに応えていくなかで2年前には株式市場へ上場。企業として成長する過程で、中途採用を中心に毎年100名を超える社員を採用してきた。2021年度は200名以上を採用し、エンジニアやデザイナーといったクリエイターを中心に、募集する職種はグループ会社も含めると50種以上。

メドレーが求める人材はどのような人で、幅広い職種の人材をどう集めているのか。企業フェーズの変化に応じてオウンドメディアによる情報発信を刷新していく独自の採用戦略について、同社執行役員の加藤恭輔氏と人事部採用グループマネージャーの阿部貴嗣氏に聞いた。

株式会社メドレー 加藤恭輔氏、阿部貴嗣氏
加藤恭輔氏(左)。株式会社メドレー執行役員。2006年一橋大学商学部を卒業後、監査法人に入所し、公認会計士として監査業務に従事。2010年、クックパッド株式会社に経営企画担当として入社後、事業部長としてマーケティング、サービス開発、新規事業などの責任者を歴任。2014年に執行役員に就任。2016年より株式会社メドレーに執行役員としてジョインし、コーポレートブランディングや採用を担当。書籍『グロースハッカー』(日経BP)解説者。
阿部貴嗣氏(右)。株式会社メドレー人事部採用グループマネージャー。上智大学理工学部卒業。これまでに、株式会社リクルートや株式会社ディー・エヌ・エーにおいて、新卒中途問わず、国内外のあらゆる職種のメンバークラスから経営幹部候補までをターゲットに様々な採用業務を10年以上担当。2020年1月に株式会社メドレーに参加し、2021年1月より採用責任者に就任。

企業フェーズの変化に応じてオウンドメディアによる情報発信も刷新

加藤恭輔氏のインタビューカット

――コロナ禍もあり、医療ヘルスケア領域のデジタル化は社会的にも大きな課題です。上場して2年が経った現在、メドレーが一緒に働きたいと考えている人材像とはどんなものなのでしょう。

阿部:今年の上期に、あらゆる人事活動の基準となる行動原則として「Our Essentials」というものを設定しました。

  • 凡事徹底
  • 長期のカスタマー価値を追求
  • 日々の倹約と大胆な投資の両立
  • 革新と改善を主導
  • 全てを明確に
  • 誰よりも詳しく
  • 信頼を獲得する
  • 建設的に進める
  • 組織水準を高める
  • ドキュメントドリブン
  • 自分をアップデート
  • 成果を出す

これらの12項目は、いわば「メドレーで働く必需品」といったもので、この12項目を体現できる方を基本的には採用したいと考えています。

ほかに、そのポジションにおける業務の難易度や価値発揮の期待値、業務ボリュームなどをもとに定義されたジョブサイズというものも設定しています。すべての人が何かしらのポジションを担うので、「このジョブサイズを担っているこの人は、Essentialsをこれだけ、こういうふうに体現できるだろう」といった評価をしています。

――そうした人材を獲得するためにもブランディングが大切になると思います。

阿部:現在はあらためてコーポレートブランディングに取り組んでいるところです。問われているのは、いかに採用に強い会社になるか。採用に強い会社というのは、結局のところ採用以外の事業運営や社内環境がうまくいっている会社です。ですから、情報発信においては求職者に対するアウターブランディングだけではなく、社員に対してもインナーブランディングを図っています。

医療ヘルスケアというマーケットに対峙していることの意義や、メドレーがどういう世界を実現していくのかといったものを明確に打ち出し、従業員が誇りを持って働けるような情報を発信し続けていく。これが好循環を生むエンジンの一つになるのではないかと考えています。

――メドレーは上場以前も企業としての社会的な意義やストーリーを発信してきました。過去と現在では手法などに違いがありますか。

加藤:私がメドレーに入ったのは2016年です。当時の弊社はまだスタートアップ企業という枠にあって、ホームページも社名のロゴの赤をベースに、ベンチャーらしく情熱的で、若々しいサイトにしていました。当然、応募してくる方も、そうしたデザインのトーンや発信されている情報に共感して応募してきたと思います。

それを刷新したのが上場した2019年で、より社会の公器としてふさわしい「大人性」のあるサイトを意識しました。情報発信をする際にデザインのトーンというのは大切で、そのときの会社のフェーズに合ったものにしないと採用にミスマッチが起きるし、組織としてもスケールしていかなくなる。そういう意味ではフェーズの変化に合わせて必要な変更をしたという感じです。

コンテンツにしても、初期の頃はメドレーの目指す世界観を前面に押し出して、みんなが興味を持ちそうなところから攻め込んだコンテンツ作りをしていました。現在のフェーズは、いろいろなステークホルダーがいるなかでバランスを考えながら、しかるべき情報をしかるべき場所で発信していくといった形になっています。

阿部:現在の採用状況でいうと、今期は1月から11月までで約190名が入社し、ほかに来期を含めて入社が決まっている方が数十名いますので、現時点で200名以上の採用を実現することができました。現在700人弱の社員数が、来期末にはおそらく1000人近くになる予定です。

会社の魅力やカルチャーを伝えるため、目的に合ったツールを駆使する

――初期段階では「私がメドレーに入社した理由」といった社員のブログが好評でした。

加藤:メドレーに入社したときに気が付いたのは、社員のなかには「外に向けてその人の魅力を紹介したら、面白そうな人がたくさんいるな」ということでした。意外なバックグラウンドを持っていたり、誰もが一目置くような会社で以前に活躍していたりとか。これはブログにしてシリーズ化するといいんじゃないかと思って始めたのが「私がメドレーに入社した理由」でした。シリーズ化するにつれて、いろいろな方に見ていただけるようになったので、これ以外にもメドレーの魅力を多方面から伝えられるような発信や企画を次々仕掛けていきました。うまくいったものも、箸にも棒にも掛からなかったものもありましたが、そうやって発信を繰り返していった結果、応募数が5倍かそれ以上に伸びました。

2016年から2017年くらいにかけては、会社やサービスに対する認知がなかったので、まずは認知を獲得し、興味を持ってもらえそうな情報発信を行っていました。しかし、2018年くらいになるとほかのスタートアップ企業の勃興とともに、そういったコンテンツが世の中に飽和化してきました。そこで、企業のフェーズに合わせるようにコンテンツ発信に関する方針を変更し、テレビなどマスメディアでの露出を意識したり、本を出したりと、それまでにないことに挑戦しました。2019年は、上場に合わせたリブランディングをしようということで、一時的にあえて情報発信は控えました。それから、現在のコンテンツに移行したという感じです。

メドレーの採用サイト内「動画で観るメドレー」のキャプチャ
「動画で観るメドレー」では、職種ごとの社会的な意義や魅力が、そこで働いている社員の声を通して紹介されている

――現在は、「メンバーのストーリー」や「動画で観るメドレー」などが、求職者が会社を知るうえで役立っていますね。こうしたコンテンツに注力された理由は何でしょうか。

加藤:弊社ではエンジニアやデザイナーといったクリエイター職、セールスメンバーやCS(キャリアサポート)メンバーなどを中心に、様々な職種のメンバーを募集しています。上場後のメドレーは、採用マーケットや外の人から、会社の雰囲気が少し見えにくくなってきたと言われてしまいました。そこで、メドレーの雰囲気をなるべくリアルに感じ取ってもらうのにどういう内容のコンテンツが必要なのか検討し、特にエンジニアやデザイナー、ディレクターといったクリエイターを意識して作ったのが「メンバーのストーリー」でした。メドレーには様々な職種の人たちがいますが、エンジニアリングやデザインの知識・経験をそれぞれの職種の業務に活かしている人が多くいるため、そのことを正しく伝えたいなという思いを込めています。

もう一つの「動画で観るメドレー」は、クリエイター職はもちろん、CSやコンサルタント、セールスなど、チームごとの業務内容や個性、雰囲気を伝えることを強く意識しました。こうしたコンテンツを通して、応募者の方には事前に会社の雰囲気だけでなく、応募しようと思っていただいているチームの雰囲気にもふれていただく。そうすることで、よりマッチした採用へとつなげられるのではないかと考えたわけです。

――メドレーの採用広報の特徴はオウンドメディアにしても、その他のメディアにしても、ツールの使い方がすごく上手なところです。複数のメディアを駆使するメリットをお聞かせください。

加藤:メディアやツールに関しては、目的ありきで最適な手段を選ぶといった順序です。複数のメディアを使うのは、一つのメディアだけでは伝えられることに限界があるからです。法人も人と一緒で、理解してもらうには一方向や一種類だけの情報発信では難しい。だからこそ、メドレーの情報発信はオウンドメディアでもやるし、テレビやラジオや動画でもやります。個人レベルではメンバーのSNSもある。それらのなかには、ストック型とフロー型の両方のコンテンツがあります。ベースとなる価値観の共有はしつつも、多様性のある発信をすることを心がけています。

阿部:来期以降に自社採用サイトをもう少し動的なものにして、会社の過去、現在、未来を、コンテンツを通して深く理解できるようにしていくことも考えています。一時期流行ったイシュー採用のように、今こういうプロジェクトを走らせていますといった情報があったり、「メドレーに居続ける理由」といったブログがあったりと、これまでのものをベースとしつつ、よりダイナミックなオウンドメディアにしていきたいと考えています。

改善の積み重ねで、採用マーケットのなかでのプレゼンスをより引き上げていく

阿部貴嗣氏のインタビューカット

――最近の一つの流れとして、リファラル採用が注目されています。

阿部:リファラル採用は、採用手法のなかで最も有効な打ち手の一つだと思っています。いかにしてリファラル採用から採用人数を積み上げていくかは大きな課題です。メドレーで従業員が生き生きと働きがいを持って働いていることが外に広まれば、リファラルの機会も増えていくのではないでしょうか。インナーとアウターのブランディングはセットなので、これまで以上に従業員満足度を上げるなどの施策を打っていきたいですね。

――社員が生き生きと働いているのは、会社のカルチャーやパーパスにフィットしているからでしょうね。リファラルだとカルチャーやパーパスが社員を通して伝わるので、マッチングの精度も高くなるのでしょうか。

加藤:あとは、自分がそこで本当に必要とされるのか、ほかにはないやりがいはなんなのか、そのあたりが基準になると思います。私が入社したときのメドレーは、なんというか「五分五分感」があって、強い部分と弱い部分がありました。優秀な人がすごく多いのだけど、世の中と自分たちをリンクさせる部分が弱かった。簡単に言うと、採用したい人数の規模に比べて魅力を伝える情報発信が足りなかったのです。逆に言うと、そこにやりがいを感じて私は入社しました。

阿部:私も中途入社ですが、転職する際に思ったのは、アーリーステージのスタートアップではあまり自分の経験が活きないだろうし、かといって大手企業のようにできあがっているところでは、そこまで自分が必要とされないのではないかということでした。メドレーの場合は、ちょうど自分の経験が活きるフェーズだと感じ入社を決めました。カルチャーやパーパスのフィット感も大事ですし、あとはタイミングも大事だと思います。

――メドレーのように職種ごとの募集が多い企業だとジョブディスクリプションが果たす役割も大きいかと思われます。

阿部:ジョブディスクリプションは非常に大切です。こちらが採用したいと考える求職者の方がジョブディスクリプションを見て、その内容に魅力を感じて応募したくなるようなものに仕上がっていれば、採用実務で極めて重要な母集団形成の面においてやるべきことはほぼ完了していると言えます。ただ、そういう魅力的なジョブディスクリプションを作るのは難しい。例えばキャリアアップのイメージなど、採用候補者ご自身の活躍如何によっては、将来的に確実に約束できない場合の話も書かないといけない面もあり、常に各部門と侃々諤々の議論をしています。

加藤:弊社では社内に募集要項マスターというものがあって、「なぜほかの会社ではなくメドレーに入ることが候補者の方にとってベストなのか」「この会社とこのチームには、ほかにはないどんな魅力が詰まっているのか」といった宣言を、募集している部門長に必ず書いてもらっています。ジョブディスクリプションは、それを部門長がちゃんと書けるくらい魅力的なものでないといけないですし、それを言語化できないのであれば魅力ある人は採用できないですよ、とも伝えています。ほかにも、例えばエージェントさんに説明するときなどにもより突っ込んだ情報が提供できるように、ジョブディスクリプション上には書けないような生々しい内容を別途ドキュメント化して、必要なレイヤーで必要な情報を出せるような状態にしたりしています。

阿部:こうした取り組みのおかげもあって、内定承諾率は極めて高いものになっています。その要因として、候補者側と採用側がお互いに求める内容がクリアになっていて、早い段階からマッチングの精度が高い状態で選考を進められるからだと思います。また、お互いが厳選して選んだ結果の採用マッチングのため、退職率も低い状況にあります。

加藤:会社の成長率が急角度なのに対して退職率が低いのは、それだけ社員がついてきてくれていることなのかなと理解しています。一方で、退職率が低いことだけをもって良い状態であるとは思っていません。組織の成長に合わせて個人が成長できる組織にしていく必要がありますし、誤解を恐れずに言えば、組織の成長に食らいつくことができない人に合わせにいくような組織にしていきたくはないなと思っています。あくまでも、組織の成長に個人が引っ張られるように成長していく、ないしは、それを超えた成長を実現できるようなメンバーを一人でも多く増やしていく。理想的なのは会社と個人が一緒に成長していくことです。そのためには社員も常に現状に甘んじないで自分をアップデートしていく必要があるわけです。厳しさもありながら、優しい組織でありたいと考えています。

――今後の課題や展望についてお聞かせください。

阿部:個人的に課題を感じているのは採用マーケットにおけるメドレーのプレゼンスをどうやってより引き上げていくかです。事業に密接に関わるものなので、採用戦略の軸だけで語るのは難しいのですが、これまで以上に外部への発信が必要だと考えています。

加藤:メドレーではオウンドメディアを中心にいろいろな情報発信をしてきました。一方で、例えば役員が外に出て話したり、各プラットフォームの責任者が個人のSNSで発信したりするといったことにはあまり力を注がずにきました。ここを強化すればマーケットでのプレゼンスはより上がるかもしれません。

阿部:こういうフェーズにありますから、採用広報に興味のある方にぜひ応募していただきたいと願っています。

加藤:採用チームにおいても、マネージャーやリーダーができそうな方にぜひ来ていただきたいですね。現在のメドレーのようなフェーズにある会社では、オウンドメディアを駆使した採用広報は難易度が高くチャレンジングかもしれませんが、やりがいはあるはずです。魅力あるコンテンツを作る仲間に出会えることを期待しています。