
2022年9月29日に開催された「Owned Media Recruiting SUMMIT 2022 Vol.2」は、「マーケターとともに考える 人の心を動かす人事」と題して、マーケティングに着目。採用とマーケティングの重なりについて深掘りし、マーケティングの視点から人事を紐解き、より有効な採用アプローチやSNSによる採用情報の発信など、バラエティに富んだ4部のセッションが展開された。
SESSION4のタイトルは「ソーシャルメディアを活用した採用情報発信の実践」。近年、優秀な人材を獲得する方法として注目を集める「ソーシャルメディアリクルーティング(ソーシャルリクルーティング)」は、Twitter、Instagram、YouTubeといったソーシャルメディア(SNS)のプラットフォームを活用した採用活動のことを指す。
企業アカウントのほか、社員が個人アカウントで発信を行うケースも増えているが、気軽にSNSを使うことで炎上を招くリスクもある。SNSの利用に長けた先駆的な企業は、そのメリットやデメリットをどのように捉え、実践に取り組んでいるのだろうか。
企業の「ありのまま」を伝えられるのがSNSのメリット

モデレーターを務めた飯髙氏の提案により、3つのテーマが取り上げられた本セッション。まずは「SNSを活用した情報発信の役割・メリット」について、3人の見解をフリップに書いていただいた。
フリップに「カルチャーが伝わる」と見解を書いたのは、noteの高越氏。自身も転職活動の際にnote社員の記事を読んで共通点を感じ、入社への不安が払拭されたと語る。
高越:公式のプレスリリースでは企業の「キラキラした」おもて面が伝わりやすいです。一方noteでは、「現場の社員が実はこんなに泥臭い仕事をしている、そこに仕事の楽しさがある」といったリアルな側面を伝えられる。そうした部分に、求職者は親近感を感じます。
No Companyの秋山氏の解答は「スタイルマッチ(価値基準のマッチング)」。自社にしかないスタイルや個性をSNSで表現していくことが、求職者とのマッチングにつながる。価値基準が多様化する今、入社後のギャップを回避するためには求職者の期待値調整が必要だが、価値基準のマッチングを促進することで、それが可能だと説いた。
秋山:採用活動でSNSを活用すると、なぜシナジーが生まれるのか。そこには2つの要素があります。1つ目は、SNSに接触する時間が長い世代にとって日常的なタッチポイントになること。2つ目はフォーマットで、キャリア感や働き方が多様化する今、採用情報を伝えるメディアのフォーマットも多様化していかないと、情報の供給が追いつきません。

ベイジの枌谷氏がフリップに書いたのは「素」の一文字だ。「ありのままを発信したい」と願う企業の意志とは裏腹に、採用サイトのメッセージは広告のような“きれいごと”になりやすいと、多くの企業の採用サイトを手がけてきた経験から指摘する。
枌谷:採用サイトは検閲を入れがちですが、検閲をせずに「素」を見せられる数少ないチャンネルがSNS。「こんなメッセージを出すと採用につながる」といった下心を持つと「素」でなくなってしまう。仕事の一環としてコントロールしなければいけない部分もあるため、バランスの見極めが大事ですね。
枌谷氏の話を受け、秋山氏は「『素』という言葉が腑に落ちた。今のメディアは構造上ウソをつけないから、素を出していかないと採用にいいかたちでつながらない」と共感。高越氏もnoteで法人の相談を受ける際には、「きれいにしすぎない方が伝わる」とアドバイスしていると話す。
求職者の「共感ポイント」を発見し、等身大のカルチャーを届ける
セッションの2つ目のテーマは「SNSを活用した採用情報発信における戦略設計」。フリップに「任」と書いた枌谷氏は、「素でいるということは、任せるということ」と語った。
枌谷:最低限のルールの共有は必要ですが、炎上を恐れてマネジメントしようとするほど、社員は主体的に発信できなくなります。

秋山氏は「イシューを捉えた共感コンテンツ×タッチポイント」と解答。イシュ―とはターゲット層が共感しやすいポイントや、ネガティブに感じやすいポイントであり、そうしたニュアンスを把握してコンテンツに落としていくことが重要だと話す。
秋山:イシューを捉えてコンテンツを作り、かつ「どこで何を発信すべきか」を見極めること。この情報ならここ、というタッチポイントの動線設計をしておかないと、せっかくのコンテンツが届かなくなる。私もできる限り求職者とリアルで会話したり、SNSデータを分析したりすることで、各プラットフォームのニュアンスをつかむよう心がけています。
高越氏の解答は「等身大の姿を届ける」。プレスリリースや採用サイトでは正しい情報、いわば“A面”の発信が重視される分、SNSでは担当者の苦労や大切にしていることなど、“B面”の発信が貴重だとした。
高越:note proではオウンドメディアの設計から伴走するのですが、採用の場合は入社エントリーやプロジェクト担当者の想いをつづった記事など、人に焦点を当てたコンテンツをお勧めすることが多いですね。
高越氏の話を聞き、「そのスタンスが『カルチャーが伝わる』へとつながるわけですね」と納得した様子の飯髙氏。コンテンツの発信ではある程度の自由度が必要であり、縛りすぎては魅力がなくなると総括した。
“発信して良かった”という体験の広がりが、協力体制を生む

セッションの最後のテーマとして飯髙氏が挙げたのは、「採用情報発信を行うための、社内の体制や仕組み作りのポイント」だ。
枌谷氏が率いるベイジのSNS発信は、参加する社員が多いため組織的活動と見られることが多いものの、「実際は野放しに近い」という。
枌谷:個人的に数万のフォロワーができた時点でノウハウを共有しましたが、SNSをやるかどうかは個人の自主性に任せています。どうすれば社員が自発的に協力してくれるかというと、やはり社内で力のある人、うちの場合は私がガンガンやることだと思います。それを見て入社してきた社員も多いので、SNSに対してポジティブなカルチャーが自然とできているのでしょう。
もう一つ重要なポイントは、「今まで会ったことがない人と話せる」「個人のキャリア構築の面でも有利」など、実態ベースでメリットを伝えることだと枌谷氏。
枌谷:「Twitter道場」の経験でわかったのは、Twitterに向いている人は全体の1~2割で、苦手な人は続かないということ。リーダーがSNS活用の文脈をしっかり作り、そこに“コンテンツ作りが苦にならない人”が応えていくのが効率的です。
秋山:一つ提案できるとすれば、エンゲージメントや読者からのリアクションがより多い媒体に情報を載せること。我々のデータ分析ではnoteのエンゲージメント数は本当にすごい。こうした“伝わりやすいメディア”にコンテンツを出すとともに、Twitterで拡散するような運用をすると良いのではないでしょうか。
高越:ありがとうございます。社内の発信体制を作るには、「発信してよかった」という体験の提供が大事だと思います。書いてくれた記事を社員みんなで読んでフィードバックを送るとか、「あのnoteを読んで興味を持ちました」という求職者の声を伝えるとか。面白いネタを持っていることに本人が気付いていない場合も多いので、例えば社内チャットツールの投稿に対して「この話、noteに書いて!」とリアクションをすると、書くきっかけが生まれるのではないでしょうか。
「SNSを楽しむ」カルチャーが、採用へとつながっていく

セッションの締めくくりでは、SNSを活用したい採用担当者に向けて登壇者からエールが送られた。3人のメッセージに共通していたのは、枌谷氏の「楽」というフリップが象徴するように、「楽しむ」という要素ではないかとモデレーターの飯髙氏が締めくくった。
飯髙:SNSは“楽しむ場所”であり、楽しむことが前提にある。そこを仲間と共感しながら発信し合うことで、その楽しさが会社のカルチャーとして求職者に伝わり、採用につながっていくことを再認識できました。
SNSは“その人らしさ”が伝わる場所だからこそ、着飾ってはいけない。誰もができる役割ではなく(発信に向いているのは社員全体の1割ほど)、データとリアルの声を融合させながら運用のアプローチを考える必要があるなど、多くのポイントを提示できたと手応えを語る飯髙氏。
「楽しさ」を共有しあう「人」がいること。その存在をありのまま、生き生きと伝えられるSNSを活用した採用情報発信の可能性は、今後ますます大きくなっていきそうだ。
この連載の記事一覧
- マーケター出身のナイル渡邉氏が語る、企業の採用に効くマーケティング思考活用術
- 相手を理解して価値を創造する。マーケティングから読み解く人の心を動かす人事
- 「SNSを楽しむ」から始まる、ソーシャルリクルーティング実践テクニック
- 管理から寄り添いの転換。マーケティング思考で実現する社員一人ひとりを見つめた人事施策