
2022年9月29日に開催された「Owned Media Recruiting SUMMIT 2022 Vol.2」は、「マーケターとともに考える 人の心を動かす人事」と題して、マーケティングに着目。採用とマーケティングの重なりについて深掘りし、マーケティングの視点から人事を紐解き、より有効な採用アプローチやSNSによる採用情報の発信など、バラエティに富んだ4部のセッションが展開された。
レポート1本目で取り上げるSESSION 3では、マーケターが組織やカルチャーを作るとどうなるのかを大きく捉えたSESSION 1やSESSION 2に対して、実際に採用や採用広報を行う担当者が、どのようにマーケティング思考を活かしていくべきか、マーケティングのフレームワークを応用した実践的なテクニックがテーマとなっている。
【SESSION 3】元マーケター人事が語る、採用広報・カルチャーづくりに活きるマーケティング思考
SESSION 3では、実際に採用や採用広報を行う担当者がどのようにマーケティング思考を活かしていくべきかをテーマに、ナイルのカルチャーデザイン室 マネージャーの渡邉慎平氏に登壇いただいた。
渡邉氏はナイルに新卒入社したのち、300社以上のデジタルマーケティング支援に携わり、2018年5月に人事部の採用責任者に就任。2021年9月にカルチャーデザイン室を立ち上げ、以降はオウンドメディア「ナイルのかだん」を運営するなど、採用広報と採用マーケティングを同社でリードしている。
求職者視点の採用活動を実現するための3つのポイント

「採用活動とは、企業が一方的に求職者を見定める場ではなく、求職者と企業とのマッチングである」と語る渡邉氏。ナイルの採用においては、一貫して求職者視点で選考体験をデザインすることに取り組んできたと振り返る。
渡邉:本日のセッションのゴールは、本当の意味で求職者視点の採用活動を実現させること。すぐに使えるマーケティングのフレームワークを学び、自社の採用課題をある程度整理していただいて、明日から改善できるアクションを決める──というところを目指したいと思っています。
このセッションでは、参加者へ事前にシェアしたワークのスライドと、ナイルの事例をもとに、まずマーケティングのフレームワークを用いた改善策が3つのポイントで提示された。
- 求職者視点を持つ
- 自社の魅力を棚卸しする
- 適切に情報を届ける
より強い企業カルチャー、より強い企業ブランドを作るための挑戦として採用を捉える渡邉氏は、これらのポイントに基づいて話をさらに深めていった。

コンセプトダイアグラムで求職者視点を手に入れる
最初のポイントである求職者視点を持つためには、企業視点から求職者視点への転換が必要だという。マーケティングのフレームワークとしては「カスタマージャーニーマップ」がよく知られている。近年は、これを採用領域に応用した「キャンディデイト・ジャーニーマップ」を使う会社が増えている。

ただ、キャンディデイト・ジャーニーマップは、一つ抜け落ちている視点があると渡邉氏は指摘する。
渡邉:キャンディデイト・ジャーニーマップは求職者視点ではないのです。企業を認知した求職者が興味を持って応募する流れになっていますが、最終的に入社することを前提として設計されており、企業視点になっている弱点がある。
そこで渡邉氏が提案するのが「コンセプトダイアグラム」というフレームワークだ。コンセプトダイアグラムは求職者視点が前提にあり、縦軸は求職者の企業に対するモチベーションや興味関心度を表している。一方、横軸に表されるのは求職者の転職やキャリアに対するイメージだ。求職者自身が転職を視野に入れてから、転職を決意するまでの過程が段階的な指標となっている。この両軸を使って採用施策を整理することが求職者視点につながるという。

渡邉:コンセプトダイアグラムで重要なのは、求職者に期待する態度変容と、そのきっかけです。求職者が入社を決意するまでの気持ちの変化を、各ステップで考えていく必要がある。それを促すための情報をコンテンツにしていく、コミュニケーションの施策に落とし込んでいくというのが基本的な考え方です。
いきなり会社紹介の資料を作るといった具体策に走るのではなく、変化を促す施策のパターンや、コンテンツの提供方法を棚卸しする観点を持つといい、と渡邉氏。コンセプトダイアグラムを用いて求職者視点に立つことで、採用活動におけるボトルネックを発見し、優先度が高いものから取り組めるようになると提言した。
ナイル渡邉氏が語る「マーケティング・広報の思考法で採用戦略をアップデート」する方法に興味のある方はこちらへ
4C分析で自社の魅力を棚卸し
2つ目のポイントとして渡邉氏が挙げたのは、自社の魅力を棚卸しして、求職者視点での選考体験を作ること。「面接の場面で人事が語る自社の魅力が、求職者のしらけや誤解を生んでいませんか?」と問いかけた。
渡邉:例えば「ユニークなカルチャーです」と言えば、「入ったらいろいろ強要されそう」。「挑戦的で優秀な社員が多いです」と言えば、「自分にはハードルが高そう」。「福利厚生が充実しています」と言えば、「福利厚生があるから入りたい」という求職者が集まってしまう。このようにアトラクトするはずのネタが、逆効果となる場合さえあります。
大事なのは、アトラクトするネタが求職者にとっての入社便益(入社するメリット)になっているかどうか。ここで役立つのが「4C分析」。マーケティングの「4P分析」というフレームワークと似ていますが、4P分析が売り手・企業視点であるのに対して、4C分析は買い手・顧客視点で思考を整理します。
4C分析による棚卸しでは、採用活動におけるCandidate Value(求職者の入社便益)、Candidate Cost(選考にかかるコスト)、Convenience(企業情報へのアクセスのしやすさ)、Communication(SNSなど、どんなツールで接点を持つか)がポイントとなる。

渡邉:なかでも重要なのがCandidate Value、求職者にとっての入社便益です。企業はどんな機会やスキル経験・環境を求職者に提供できるのかを、オウンドメディアのコンテンツなどを通して示す必要があります。また、入社直後だけでなく、中長期にわたって活躍できるという見通しや、キャリアアップの選択肢があることを情報として提供していく必要があります。
また、入社便益とセットで、求職者にとっての魅力や、そのエビデンスを明確にすることが大切です。根拠となる社員の存在、実績、数値を、事業ポジションごとに言えるか。ここを棚卸しするだけでもアトラクトする精度は上がりますし、承諾率も大きく改善されるはずです。

適切に情報を届ける
ここ数年、採用広報ではオウンドメディアの重要性に対する認識が高まっており、実践するのが当たり前になっているベンチャーも多いと渡邉氏。しかし、コンテンツ制作においては誤解されている部分もあるという懸念から、3つ目のポイントとして適切に情報を届けることを取り上げた。
渡邉:「採用広報=ブログ記事を書くこと」でもなければ、「コンテンツ制作=採用広報」でもない。コンテンツの形式がオウンドメディアやnote、YouTube、Twitterなど幅広い選択肢があるなかで、まずはコンセプトダイアグラムなどを使って分析し、自社に合ったコンテンツの作り方をすると良いでしょう。そのうえで、コンテンツ制作とセットでコンテンツデリバリーを考えることが非常に重要です。
コンテンツを作るだけではなく、それをどうやって届けるのか。考えるべきは流通チャネルとタッチポイントだと渡邉氏は指摘する。
渡邉:コンテンツによって、適切な流通チャネルは異なります。ちゃんとコンテンツを作ったうえで、認知フェーズ(会社のことを知ってもらうタイミング)で届けるのがいいのか、選考中あるいはオファーのタイミングがいいのかを、見極めていかなければなりません。
そして、タッチポイントを考える際はWebやSNSに閉じて考えないこと。来社のタイミングや、ふだん求職者とやり取りしているメールも重要なタッチポイントです。「実はこんなコンテンツがあるんですよ、見てください」とメールで共有することを丁寧にするだけでも、伝わり方は変わってくると思います。
最後に今日のおさらいとして、3つのポイントを総括してくれた渡邉氏。
- 求職者視点を持つ → コンセプトダイアグラム
- 自社の魅力を棚卸しする → 4C分析と入社便益
- 適切に情報を届ける → 流通チャネルとタッチポイント設計
マーケティングのフレームワークを手がかりに、これらの要素を振り返ってみることが、本当の意味において「求職者視点の採用活動」に近づく道となるはずだ。
※ 所属部門・役職などは2022年11月当時のもので、現在と異なる場合がございます。
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- 相手を理解して価値を創造する。マーケティングから読み解く人の心を動かす人事
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- 管理から寄り添いの転換。マーケティング思考で実現する社員一人ひとりを見つめた人事施策