Owned Media Recruiting AWARD2022 by Indeed 受賞企業取材 株式会社エヌ・ティ・ティ・データ 株式会社NTTデータ 人事本部 人事統括部 採用担当 課長 安永章太郎氏と株式会社ユーザベース HR広報チーム Uzabase Journal編集長 筒井智子氏(聞き手)

「Owned Media Recruiting AWARD2022」(以下、アワード)総合部門に入賞した株式会社エヌ・ティ・ティ・データの採用オウンドメディア「UpToData」。記事のタグ付け、カテゴリー分け、外部メディアとのつなぎこみがスムーズになるよう設計されており、「候補者に対してオープンで、フラットなコミュニケーション」「NTTデータで働くことに関する等身大の情報”の提供」「現場が経験者採用に主体的に取り組める体制作り」などのポイントが高く評価された。

どのような点に留意してオウンドメディアリクルーティングを行っているのか。アワード審査員で株式会社ユーザベース HR広報チーム Uzabase Journal編集長の筒井智子氏が聞き手となり、エヌ・ティ・ティ・データ 人事本部 人事統括部 採用担当 課長の安永章太郎氏に「UpToData」の運営について伺った。

笑顔の安永章太郎氏

株式会社NTTデータ 人事本部 人事統括部 採用担当 課長
安永章太郎氏
2011年より新卒でNTTデータに入社。入社以降、官公庁向け社会基盤のシステム開発においてシステムエンジニア、プロジェクトマネージャーなどを経験。2021年より人事本部へ異動し採用業務を担当。経験者採用の責任者として選考、選考管理、広報業務を担っている。

笑顔の筒井智子氏

株式会社ユーザベース HR広報チーム Uzabase Journal編集長
筒井智子氏(聞き手)
新卒で金融業界向けITコンサルタントとして働く。2006年にリクルートエージェント(現リクルートキャリア)に転職し、キャリアアドバイザーとして様々な職種・業界を担当。2014年、WEB系企業へ転職し、BtoBマーケティングに従事。その後フリーランスのライターを経て、2019年に株式会社ユーザベースへ入社。カルチャーエディターとしてUzabase Journalの執筆編集やインナーコミュニケーションの活性化を担う。2020年1月より同メディア編集長に就任。

スピード感を持ち、リアルな情報を伝えていくオウンドメディア

こちらを向く安永章太郎氏と筒井智子氏

筒井:アワード総合部門入賞おめでとうございます。この応募にあたってエントリーシートをかなり書き込まれていましたが、エントリーしようと思ったきっかけを教えてください。

安永ありがとうございます。我々の採用広報活動の現状の立ち位置を客観的に知りたいと思って応募しました。今できていることと、できていないことを棚卸しして、アピールできるところを整理して打ち出し、急ピッチでエントリーシートを作りました。

筒井NTTデータは70以上の部門があり、情報共有などの面で大変さがあると思いますが、2017年度は約20名だった経験者採用人数が、2021年度は300名以上と10倍以上の成果を出されています。「UpToData」を中心としてオウンドメディアリクルーティングを行う今の形式になった理由と経緯を教えてください。

安永ここ数年、業界と業界をつなげていく我々のビジネスの強みを伸ばし、会社を成長させるためには、当社の強みとリンクするIT関連のご経験がある人はもちろんのこと、IT以外にも様々な経験を持つ人材が必要だと考え、経験者採用数を伸ばしていこうと努めてきました。ただ、おっしゃるとおり会社の規模が大きいので、ガバナンスを効かせすぎるとスピード感がなくなる課題がありました。経験者採用に必要なスピード感を持ちつつ、リアルな情報を伝えていくために自ら情報発信するプラットフォームを作ろうと、2019年に「UpToData」をスタートしました。

筒井「UpToData」では、実際に働く人を取り上げて、“等身大の情報”に重きを置いて情報発信されている印象です。それぞれのコンテンツについて目的達成のために意識していることはありますか。

UpToDataトップページのキャプチャ
「実際に現場で働く人」を中心に取り上げ、求職者が将来の自分の仕事をイメージしやすくなるコンテンツが並ぶ

安永当社のビジネスはBtoCではないので、日常で会社名にふれていただく機会が少ない。そんななかで当社のビジネスをどう伝えていくかが記事の大きな目的です。仕事内容を積極的に発信していかないと、求職者は当社で働くことのイメージがわかないと思いますので、「NTTデータで働く人」にフォーカスした情報の発信を意識し採用促進につなげています。

筒井そもそも御社の応募者はどのような志望動機が多いのでしょうか。

安永「社会基盤を支えたい」という動機はよくいただきます。また、当社は「関わってない業界がない」と言っても過言ではないほど様々な業界に携わっており、海外も含めてクロスインダストリービジネスをする土壌が整っています。そのため「業界と業界をつなげたい」「課題を同時に解決したい」といったモチベーションを持つ方が多いです。

筒井記事でもそういったクロスインダストリーの仕事に携わっている人を取り上げようと意識されていますか。

安永当社の魅力の一つなので、そこに言及する記事は多いです。その一方で、今あるものを確実に、堅実に守っていく仕事も当社の重要な役割となります。特定の業界や仕事内容を問わず、社内の各所で人材を求めているので、現場がアピールしたいという記事を出しているのが基本スタイルです。

発信したいところがどんどん発信できるようなプラットフォームに

インタビューをうける安永章太郎氏

筒井各部門から記事リクエストを受けるなど、オウンドメディアの管理・運営における設計が非常に秀逸ですが、もともとそのような方針で作成をされていたのでしょうか。

安永そうですね。人事本部がガバナンスをきかせるというやり方ではなく、発信したいところがどんどん発信できるようなプラットフォームにしています。

筒井社内に「オウンドメディアリクルーティングによって経験者採用を増やしていかなければならない」という共通認識があり、社内からの協力が得やすかったということですか。

安永いえ、今でこそ組織長や幹部層から「あの人、出てたね。私が出るにはどうすればいいの?」と声をかけられることも多く、盛り上がっていますが、まず立ち上げにあたっても「とりあえずやってみよう」と簡単には踏み出しにくい。当初は、「うまくいった事例はあるのか」「何の得があるのか」といったことを求められ、理解を得るまでに時間がかかりました。

筒井そうだったんですね。そこからどのように現場から協力を得られるようになったのですか。

安永弊社には、私が所属する人事本部だけでなく、各組織階層に採用担当者がいるので、まずその人たちのベクトルを揃えるように意識しました。具体的には、情報発信によってどんな成果が生まれるのか、採用がうまくいってるところの事例を共有したり、記事を見て入社し活躍している社員の声を届けたりといった地道な活動を行い、少しずつ理解、納得感を得ていきました。それでも、「現場が忙しいので協力は難しいです」という声はもちろんあります。地道ではありますが少しずつ啓蒙することで、いいプラットフォームとして認知を拡大していき、また、人事に“やらされている”のではなく「自分たちのことを発信したい」という高いモチベーションを持って主体的に発信できる場となっています。

筒井 現場が主体的に情報発信に参加するために必要なことと、そのメリットはどのようなところにあるとお考えでしょうか。

安永主語を「自分たち」にすると、自分たちの魅力を積極的に考えてくれるところです。そして、その熱量が記事にも表れるところがメリットです。主体的に情報発信に参加してもらうために、記事の内容について我々のリクエストはほぼしておらず、出来上がったものに対してネガティブチェックのみを行っています。「人事のコントロールが入る」という認識をなくし、「記事を出したい」と思ったときの精神的なハードルを低くすることを意識しています。最近では自分から「出たい」と言ってくれる人が増えてきました。

筒井面接においても面接官自身の記事が掲載されていると、求職者にとっても嬉しいですよね。

安永そうですね。「記事で見た人だ」「その人と一緒に働けるんだ」とご意向を上げていただけますね。やはり「誰と一緒に働きたいか」は重要なことだと思っています。今、カジュアル面談にも力を入れていまして、スカウトメールを送る人が「私がご対応します」と、自分の記事のURLを貼ることもあります。その時に、記事があると入口から加速できるんです。オウンドメディアは採用のライフサイクルの最初に効くものと思われがちですが、どのタイミングでも大きな効果があると思います。

自社の技術力が思っていたほど求職者に浸透しておらず、魅力因子を整理して発信

インタビューをする筒井智子氏

筒井「UpToData」は様々な切り口で魅力を伝えるコンテンツを用意し、記事の量・質ともに「求職者にとって見たい情報が網羅されているサイト」となっています。オウンドメディアを運用・改善するなかで、「自社の魅力因子」を整理されたとのことでしたが、注意されたポイントはありますか。

安永就活メディアや新聞など、外部のサーベイの結果を参考にしています。我々自身は「当社の技術力については充分発信できており、浸透しているだろう」と思い、その前提で施策を作っていたのですが、実際には意外と技術力についての認知が浸透していないことがわかり、衝撃を受けました。また、「堅い企業である」というイメージが強いこともわかりました。そうした外部とのギャップを強く感じていて、自社の魅力を因数分解して打ち出すものを整理する必要があると感じました

例えば、技術力に関する発信は、社内にたくさんいる各業界をリードする特定分野のスペシャリストを打ち出し「#技術×ビジネス」というタグを付けた記事を発信したり、その他の記事でも訴求ポイントに「技術力」を置いた記事を作成したりしています。記事を制作している過程で、我々自身も「社内にこんなすごい人がいたんだ」「こんなプロジェクトもあるんだ」と驚くことが多いです。

オウンドメディア「「UpToData」内の「#技術×ビジネス」記事一覧のキャプチャ
社内にいる様々な業界のスペシャリストたちが登場する「#技術×ビジネス」コンテンツ

筒井:そうですよね。私もオウンドメディアを運営していて会社に対する新たな気付きが多くありますし、それを発信することで結果としてエンゲージメントやリテンションにつながっていると最近強く思います。

安永:それはとても思いますね。

筒井:求職者に対してはどのようなことを心がけてコンテンツを作っていますか。

安永:入社後のギャップを解消することと、入社後にスムーズに活躍していただくことを考え、等身大の情報を発信することを意識しています。経験者採用については年齢の幅が広く、様々なバックグラウンドをお持ちの方がいらっしゃるので、当社でどのようにキャリアを形成していけるのかをイメージできるよう、第二新卒相当の方が読むとどう感じるか、キャリアを重ねてこられた方が読むとどうかなど、様々な見方をしながら記事作りをしています

筒井:そうした場合、安永さんご自身の年代の近い層の視点は想像しやすいと思いますが、若手の目線は自分たちが若い頃とはちょっと違う価値観の場合もありますよね。その点はどのようにキャッチアップされていますか。

安永:ご入社いただいた方々に「転職活動でどんなコンテンツを見ましたか」といったアンケートを取ったり、面接で直接聞いたりしてチーム内で共有しています。狙いどおりいった記事もあれば、「この記事にこんな見方をするんだ」と、意外なことに気付かされることも多いですね。若い子がリーダー層の記事を見て、将来のキャリアイメージを持ってくれることもあります。

様々なメディアを通してリアルな声を伝え、“既存イメージ”からの脱却を図る

筒井:今後の採用施策で注力していきたい領域はありますか。

安永:課題は、会社自体のイメージからの脱却です。当社はコンサル領域にもかなり力を入れていますが、一般にそういうイメージはないと思うんです。そうしたイメージを変える一方で、変えてはいけない信念もあるので、そこを採用マーケットに落とし込んでどう打ち出していくかが、今の宿題だと思っています。

筒井:イメージが変わったかどうかの効果は定量で測りにくいですよね。

安永:その点は外部に採用ブランドとしての調査を依頼するなどで情報を収集しています。あとは内定を辞退されてしまった人も含め、当社に何かしらタッチポイントを持った方からもできるだけ情報を吸い上げようとしています。耳を傾けたくないこともたくさんありますが、我々の立ち位置を明確にするためにはそれも必要なことですから。

筒井:2022年11月には経験者採用者向けの自社イベントを開催されたそうですね。

安永:はい。経験者採用の認知拡大を目的とし、初めて第二新卒向けにライブ配信にてセミナーを行いご好評いただきました。直近で異業種から入社した若手社員が登壇し、なぜ当社を選んだのかなどを語り、Q&Aの時間も取ってリアルタイムで質問を受け付けて回答しました。私も登壇し、人事として経験者採用にかける思いを語りました。生の声を伝えることで会社のイメージがリアルに伝わればと思い、今後も各種メディアを通して当社をアピールしていければと思っています。また、当社のオウンドメディアにはリアルな声が集まっているので、そこにつなげる導線を作ることも常に意識して活用の幅を広げていきたいと思っています。