古くから穀物や油などの計量器として、また酒器として使われてきた「枡」。岐阜県大垣市の有限会社大橋量器は、枡職人の知恵と匠の技を活かしつつ、斬新なアイデアで新しい感覚の枡を次々に開発し話題を集めています。また、同社は若い世代からも注目され、社員数30名に満たない中小企業ながら毎年大卒の新入社員の採用に成功していることでも知られています。メディアに頻繁に取り上げられる新商品を開発しているのも、多くはこうした若い社員たちです。代表取締役の大橋博行さんに、若い世代の採用と活躍できる職場づくりについて聞きました。

企業の「挑戦する姿勢」が共感を呼ぶ

――「枡」は若い世代にとってなじみのあるものではないと思います。毎年多くの大学生が大橋量器に関心を持ち、採用に応募するのはなぜでしょうか。

多くの人にとって、日常生活の中で枡に注目する機会は少ないと思います。若い人なら、なおその傾向は強いでしょう。当社は枡のメーカーですが、入社する社員のうち最初から「枡を作りたい!」と思って就職活動をしていた人は一人もいません。(笑)
では、なぜ大橋量器に興味を持つかというと、当社がいろいろなことにチャレンジして、世の中に楽しい提案を仕掛けているからだと思います。

二ューヨーク近代美術館(MoMA)のミュージアムショップでも扱われた、ポップなカラーリングの「カラー枡」や、枡を内装材やライトに活用する提案などがメディアでも大きく取り上げられました。その頃から「伝統産業なのに面白いことをやっている会社」と思っていただけるようになったのです。

伝統産業に関わりたいとか、地域に貢献したいと考える大学生は少なくありません。「得意な英語を活かして、枡を世界に広めたい」とか「地元の大垣市で面白いことをやってみたい」と考える学生が当社に興味を持ってくれるようになりました。伝統産業なのに、地方の小さな企業なのに、ここなら何か新しいことができそうだという期待を持ってくれているようです。

――地方の中小企業は大学生や若い世代の求職者との接点を持つことに苦労されています。大橋量器では大学生とどのようにして出会っているのでしょうか。

地元のNPO法人G-netが主催する長期インターンシップのプログラムに賛同し、学生を受け入れ始めたことが最初のきっかけです。その後、2013年に初めて採用した大卒の新入社員は、この長期インターンシップに友人が参加していたことから当社を知ったそうです。

インターンシップ以外にも、学生が自分をアピールするブースを構えて企業の担当者がそこを訪問する「逆指名型求人フェア」に参加したこともあります。新しいことにチャレンジしたいという意欲的な方に響くよう、会社のビジョンや仕事の魅力の伝え方を工夫してきました。

新入社員にプロジェクトリーダーを任せる

大卒の新入社員は、主にどんな業務を担当していますか。

ほとんどは営業です。採用活動の担当者や製作部にも数名いますが、主に営業で活躍してもらっています。

大卒の採用を始める前は、社長の私が一人で営業を行っていました。中小企業では珍しいことではありませんよね。営業や経営に追われて、販路の拡大や新商品開発といった、本当にやりたいこと、やるべきことになかなか手が付けられない、という状態に陥っていました。

しかし新卒で入った社員と2人で営業を始めたら、新商品づくりも新しいお客様へのアプローチもすぐにスムーズに進められるようになったのです。

――大学を卒業したばかりの新人が、すぐに活躍できるのはなぜでしょうか。

一つは、採用時から当社は新しいことができる企業だ、挑戦することを評価する企業だと伝えているため、自ら考えて事を起こしていきたいという意欲のある学生が入ってくるからだと思います。長期インターンシップを経験した学生もバイタリティがある方が多く、自分から積極的に動ける仕事をしたいと考える人が多いですね。

もう一つは「新入社員プロジェクト」という新人育成の仕組みによるところが大きいと考えています。新卒社員は入社して2カ月ほど枡づくりの基礎を学んだ後、全員が「新入社員プロジェクト」に取り組みます。これは新入社員が自ら大橋量器で取り組みたいことを企画し、半年ほどかけて実現していくものです。「枡を店舗の内装材として活用する」というアイデアも新入社員プロジェクトから生まれました。他には枡を使ったイベントや、商品カタログの制作、新商品開発といったものまで様々です。

――すぐに収益性が見込めないような企画でも進められるのでしょうか?

会社の方針と大きくかけ離れたプロジェクトでなければ、基本的には何をしても構わないと伝えています。誰かに指示されたことではなく、自分が「やりたい」と思って取り組むからこそ、上手くいかなくてもあきらめずに工夫し、他の人の協力を仰いで仕事を進めていきます。このプロセスが大きな成長につながるのです。

ある社員は、岐阜を舞台にしたドラマが放映されることに注目しました。4月に入社して、プロジェクトが始まった6月にはドラマをモチーフにした枡をテレビ局に提案し、すぐに商品化が実現しました。若い人はこちらが驚くようなすごい力を持っています。会社としてはその力が発揮できるよう応援していくべきだと考えています。

――新しいことに挑戦する若手が増える一方、枡づくりの現場にはベテラン社員も多いかと思います。昔からの伝統をよく知る社員と、新人との間にギャップが生じてトラブルになることはありませんか?

私が営業をしていた頃は「大変な時期に営業が納期の厳しい仕事を持ってくる」とか「技術的に難しい」と言われることはありました。会社の雰囲気が変わったのは、工場の隣に直売店を構えた頃からです。それまでは工場の中だけでコミュニケーションが閉じていたのが、いろいろな方が訪れるようになりました。お客様に直接褒めていただけることで、もっと良いもの、新しいものを作ろうという気持ちが社員全体に高まったと思います。

若手のアイデアに応えていくうちにいろいろな製品を作る技術が自然と得られ、それが注目されるとまた新しいものに取り組む意欲が芽生える、という良いサイクルが生まれたと思います。

――コロナ禍でも、若手社員が大活躍されたと聞きました。

枡は主にお祭りやお祝いごと、そして酒席といった「人が集まる場所」で使っていただくものですから、コロナ禍では大変厳しい状況に追い込まれました。昨年比で75%の売上減となった月もあり、社長の私はどうしたものかと頭を抱えました。

しかし営業の社員たちは何とか売上を作ろうと果敢に挑戦を続け、「伝統産業の職人を守ろう」と呼びかけてクラウドファンディングで300万円を集めてくれました。新入社員プロジェクトで開発したマスクフックや、内部にかんなくずを入れたマスクはニュース番組に取り上げられ、会社を元気づけてくれました。若い人の採用を続けてきて本当によかったと感じました。

完成した枡を手に取り見ている若い社員たち

中小企業ならではの魅力の発信を

――大橋量器のように、若い世代の力を活かしたいと考える中小企業に向けてアドバイスがあれば教えてください。

その企業ならではの魅力や仕事の面白さを伝えることが大切だと思います。たとえば企画から営業、製造から販売までプロジェクトの全体に関わって仕事ができるというのは、大企業にはない中小企業ならではの強みではないでしょうか。

当社であれば「枡のメーカー」と伝えるだけでは振り向いてもらえません。枡を使ってこの企業は何をしたいのか、何ができるのかを分かっていただくようにしています。大垣市は日本の枡の8割を生産していますが、市内で枡を作っている企業は残すところ3社だけです。私は学生や新入社員に「皆さんが大橋量器でする仕事は、きっと世界初の挑戦になる」と必ず伝えています。まだ誰もやったことのない仕事をしてみたいと考える学生には強く印象に残りますし、私たちもこうした考えに共感してくれる人と働きたいと考えています。



<取材先>
有限会社大橋量器
代表取締役 大橋博行さん
外資系IT企業に勤務した後、1993年に大橋量器に入社。2005年に法人化を行い代表取締役に。同年、直営アンテナショップ「枡工房ますや」をオープンする。全国シェア80%の枡生産地である大垣の産業を守るべく、国内外に向けて独自の「枡」をつくり続けている。

TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト