ある部署は猛烈に忙しいのに、他の部署の社員は見て見ぬふり。納期が遅れて顧客からクレームが入れば「開発の仕事が遅いからだ」「営業が無理な条件で受注したせいだ」と責任のなすり合いになってしまう。組織全体の問題として考えなければならないのに、自部署の都合を優先して排他的になり、他部署に対して無関心になってしまう状態は「セクショナリズム」と呼ばれています。セクショナリズムをなくし、企業を目標に向かって協力し合えるチームにするための方法について株式会社コーチングファームジャパンの代表取締役 石見幸三さんに聞きました。

セクショナリズムは企業の変化を妨げる

――企業が「セクショナリズム」の状態に陥ると、どんな問題が起こるのでしょうか。

どの企業でも、営業部、制作部、経理など部署ごとに担当する業務は決まっているものです。しかし、問題となるのは部署と部署の間の「隙間」にあるような業務です。かかってきた電話を誰が取るのか、といった日常的なことから、時代の変化によって全く新しい状況に対処しなければならなくなったとき、それをどこの部署が担当するのか?といったことまで様々です。

特に最近はコロナ禍でリモートワークが普及したり、市場環境が大きく変わりつつあったりと、仕事の仕方を変える必要に迫られた企業が多いと思われます。そんな時、セクショナリズムにとらわれて「これはうちの部署の仕事じゃないから」と言っていては、会社は時代から取り残されてしまいますよね。

また、セクショナリズムは社員が自分を守るための「壁」を作ってしまう状態とも言えると思います。売上目標の達成を強く求められている社員は、自分の売上につながること以外の仕事はできるだけしたくないと思ってしまいます。ミスをしたときに厳しく叱責される組織では、社員は自分の専門外のことには関わらないでおこう、と考えます。個人単位では大きな失敗もなく、目標も達成できるでしょうが、そうしたマインドのままでは良いリーダーには育ちません。昇進しても、今度は担当する部署を守るためのセクショナリズムを持ってしまうためです。失敗を恐れて挑戦を避けたり、他部署との交流がないためにイノベーションも起こりづらい組織となっていくでしょう。

企業全体で、組織の「目的」の共有を大事に

――では、企業がセクショナリズムに陥らないためには、どうしたらいいでしょうか?

まずは「企業全体として、何を成し遂げたいか」という目標を社員全員に伝えることです。忙しいと目の前のタスクや目標の数字ばかり追いかけてしまいますが、本当は企業の目的の方が重要です。

たとえば、新製品を売り出す目的は「お客様の中にコアなファンを作る」ことだとします。そのために製造部には「不良率を何%以下に抑える」「納期は何日以内にする」という目標がある、という具合です。「コアなファン作り」は良い製品があるだけでも、営業部が頑張るだけでも達成できません。あっちが悪い、こっちは関係ないと言っていてはできないことだ、と管理職がきちんと伝えられれば、セクショナリズムはなくなって、風通しの良い組織になるものです。

また、社内外の状況が大きく変化した時にも、組織やチームの「目的」が共有されていればそれをよりどころにして、社員が自ら部署間の「隙間」になった部分の仕事の進め方を考えて軌道修正することができるようになります。

――現場の社員が組織やチームの目的を理解して業務に取り組めるようにすることが大事なのですね。

その通りです。ただし、目的の伝え方には工夫が必要です。壁に書いて貼りだしておけばいいだろう、メーリングリストで全員に送っておけば読むだろう、という一方的なコミュニケーションでは伝わりません。「わが社には、部署には、こんな目標があります、こうしていきましょう」と経営者や管理職が伝えても、言われた社員の側からすれば「なぜそんなことをしなければならないの?」「どうして今までのやり方を変えなければならないの?」など、納得できないこともあるでしょう。

その目的を定めた背景や理由も含めて説明することが必要です。「こういう事情で、こんな目的があって、この部署の目標はこうです。だから仕事のやり方も変わります」と。この説明であれば社員も納得できる上、「そんな事情があるなら、もっとこうしてはどうか」と自発的に前向きな意見を出すこともできます。上司から一方的に投げかけるのではなく、双方向のコミュニケーションができるといいですね。

目的が共有できていると、上司から部下に対しても助言がしやすくなります。行動を改めて欲しいと指摘しただけのつもりだったのに、部下は「自分を否定された」と感じて落ち込んでしまった、という経験はないでしょうか。しかし「あなたを責めているのではなく、目的を達成するためには別の方法がいいのでは」と伝えれば、個人が頑なに壁を作ってしまうことはなくなります。

社員の個性を活かすマネジメント

――セクショナリズムを防ぐ方法として、組織の中でジョブローテーションを行い、社員に複数の部署の仕事を経験させるという方法もあると聞きました。

それぞれの部署の業務がマニュアル化されていて、平準化ができている職場であればジョブローテーションも有効です。ただ、ジョブローテーションは社員の能力がある程度均等でないと成立しづらいという面もあります。中小企業の多くは社員の数は少ないですが、社員の年齢や職務経験、スキルの幅が大きいことも多いのではないでしょうか。だからこそ「他の人の仕事までカバーできない」と、部署や個人のセクショナリズムが育ちやすいこともあるのでしょう。

こうした企業では、平準化よりもむしろそれぞれの社員の個性を活かすマネジメントが適しています。上司が社員一人ひとりと信頼できる関係を築き、何がその人の強みなのかを見極めて仕事を任せていく。その上で会社全体の目的の達成のために、自分の得意なことを活かしてお互いを助け合おうと呼びかけてチームワークを高めていくのがいいと思います。




<取材先>
株式会社コーチングファームジャパン
代表取締役 石見幸三

TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト