私は Indeed Japan株式会社でHead of Salesを務めています。人が自分のキャリアを磨き、強みを活かして活躍することに強い関心があるので、最近転職したと友人から知らせが来たときも大変うれしく思いました。この友人は、いくつかの試験や面接に合格して、昇進のチャンスがない女性特有の事務職から、これまでより高給与で責任も大きい、トップマネジメント層の役職に昇進する可能性もある仕事を得ることができました。彼女が能力や熱意を会社に示し、人生が大きく変わるような機会を得たことは、喜ばしい出来事でした。しかし、なぜ日本では今日でも、ジェンダーによってキャリアパスが異なるのでしょうか。

日本では、「ウーマノミクス」などの政策を通じて、男女平等や 働く女性の社会進出を奨励するための取り組みが実際に行われてきました。銀行や保険会社といった大手企業の多くで、昇進の機会が限られる女性特有の職務廃止が進んでいるのは、素晴らしいことです。 
しかし、大きな影響力や持続性がある変化を起こせずにいる企業も、まだ数多くあります。 世界経済フォーラムが昨年報告したジェンダーギャップ指数に関する日本の順位は146か国中116位であり、ビジネスや政治への女性の参加がかなり遅れていることが示されました。

HOS, Nao Shitara

Indeed Japan株式会社 Head of Sales、設楽奈央

日本の労働力に占める女性の割合は、2022年に53%となり、2013年から5%増加しました。しかし、女性従業員は、低賃金で地位の低いポジションを与えられることが多く、リーダー職に昇進する機会もまだまだ少ないと言われています。

日本は、あらゆる形態のダイバーシティを尊重するために大きな一歩を踏み出す必要があり、ジェンダーの不平等には、その点が如実に表れています。この問題には早急な対応がますます求められています。日本では労働力が減少し続ける一方で、男女格差や社会的格差は継続しているからです。高齢化が急速に進んでいる上、多くの従業員が均質化され、企業が無意識的に、男性中心の文化を形成することも少なくありません。そのため、インクルージョンの推進が大きな課題となっています。日本は変化に消極的であり、他の国と比較するとその傾向はなおさら顕著です。Indeed のサービスを利用する非常に多くの若い求職者がその点に不満を抱いています。そう感じているのは女性だけではありません。

政策や企業文化をそのように変えることは確かに容易ではないでしょう。しかし、私があらゆる規模の企業にも伝えたいのは、こうした変革は大きな価値をもたらす、ということです。ダイバーシティ、変化などに素早く対応するアジリティ、イノベーション、発想力、収益性の間には、直接の相関関係があります。公平の実現に真剣に取り組むことが利益につながるのです。

古い文化や制度からの脱却

日本政府は2016年に女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)を施行し、従業員数が301人以上の企業に、女性の採用と昇進について数値目標を設定するよう義務付けました。しかし、 取り組みはなかなか進んでいません。調査によると、この法律の施行以降の数年間でこれらの目標を達成した企業は少数にとどまりました。

ジェンダーダイバーシティ以外の側面では、海外の企業と比較した場合、日本企業には古い文化や制度が残っている傾向があります。たとえば、従業員の多くが新卒として採用され、終身雇用で定年まで働く人が多数います。ある調査によると、日本の人材流動性の割合は、他の先進国の半分以下です。人材の職務経験が限られることによって新しい視点を持てなくなり、イノベーションを生み出せなくなる恐れがあります。

日本の企業が、従業員のスキルや能力、発想力を高め、ダイナミックで独創的な勤務環境をつくりたいと考えているならば、求められているのは、インクルージョンの価値を理解するだけでなく、 習慣、バイアス、行動が、数値でどのように変化したかわかるように 具体的なステップを取り入れ、より多様な従業員層を作るべきです。そうしたステップのひとつとして重要なのが、柔軟性を高めることです。

今後求められる、柔軟性が高い働き方

日本の勤務環境は柔軟性に欠け、これが職場でのジェンダーダイバーシティ達成を妨げています。多くの企業で、残業を必要とする柔軟性のない勤務時間が惰性で続けられ、従業員の10人に1人が、 毎月100時間の残業をしています。仕事関連のイベントへの参加を就業時間外に求められることも少なくありません。女性労働者は、多くの場合、 自分のキャリアよりも家庭での義務を優先することが当然とされ、子育てや介護に専念するために退職することさえあります。そうした環境ではなかなか能力を発揮できないため、これが健全なワークライフバランスの維持を難しくしています。

勤務時間が柔軟ではない。ハイブリッドワークの体制が整っていない。Indeed Japanでは、求職者からのそうした不満の声を繰り返し耳にします。特に、伝統的な価値観を持つ企業では、その日の仕事が終わっているにもかかわらず、上司より先に退社できない場合も、いまだにあるそうです。コロナ禍では、日本の労働者の多くが、 在宅勤務と柔軟な勤務時間の利点や、ワークライフバランスの重要性を実感し、長時間労働と厳格な労働文化が及ぼすマイナスの影響を認識するようになりました。これは、若い求職者の考え方が大きく変化していることを示しています。

 日本の企業にとって前向きな一歩となるのは、 以前よりも柔軟な勤務環境を整え、女性だけでなく、子育てや介護を担うすべての従業員のニーズに対応することです。この場合、パートタイム勤務またはリモート勤務や、柔軟なスケジュール設定を行えるようにしたり、家庭の事情で休職する必要がある従業員のサポートを強化すると良いでしょう。 

文化的な固定観念への対処

柔軟性の向上は、組織のダイバーシティを高めるための効果的な第一歩となります。しかし、リーダーに求められるのは、ジェンダーだけでなく、年齢や障害についての文化的な固定観念や考え方に疑問を投げかけ、対処することです。さらに、私たち自身も、子育てや介護など家庭での役割とキャリアの成功は両立できる、という考え方を広める必要があります。 

企業が職場でのジェンダーバイアスと差別に対処するには、先を見据えた取り組みを行うと良いでしょう。たとえば、ダイバーシティとインクルージョン向上の取り組みや、マネジャーと従業員を対象としたインクルージョン関連のトレーニングを行うことができるでしょう。また、女性従業員にメンターシップを提供して、リーダー職に必要なスキルを開発できるようにすることも可能です。Indeed の親会社であるリクルートの例を挙げると、「Career Cafe 28」というプログラムを設け、若手女性社員がワークライフバランスや昇進のためのキャリアパスについて先輩女性社員からアドバイスを受けられるようにしています。また、化粧品大手の資生堂は、女性が活躍している企業の良い例となっており、女性管理職の比率を高めるために、階層別の育成プログラムを実施しています。

ダイバーシティの点では、日本は、深刻で根深い課題に直面しています。変化を受け入れることは簡単ではありません。しかし、そこには大きなチャンスがあります。ダイバーシティを推進すると、企業の評判やブランドイメージが向上します。社会的責任を果たしているとみなされれば、同じ価値観を持つ顧客や投資家を惹きつける可能性も高まります。日本の企業は、明確で責任ある対応を取ることで、従業員にも組織にも利益をもたらす協力的な職場環境をつくることができるでしょう。 

男女が公平に働けるための推進や、ダイバーシティ全般への社会の支持は、かつてないほど高まっています。こうした問題への対応を怠ると、潜在的な求職者、既存の従業員、株主、顧客から、時代遅れで望ましくない企業であるとみなされるリスクが生じるでしょう。