育児・介護休業法が改正され、国が男性の育児休業取得率向上を目指すなか、男性の育児を支援する施策として、グループ全11社を対象に「チャイルドケア休暇」を導入したデジタルホールディングス。同社のダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)推進室室長・菅原智華さんに、この制度の概要や導入時の工夫、導入効果についてお聞きしました。

育児に伴う男性の休暇取得を必須とする制度

――チャイルドケア休暇の概要と、導入までの経緯を教えてください。

「チャイルドケア休暇」は、配偶者の出産予定日の6週間前から産後8週間をスタートの時期として、10営業日の休業を必須とし、最大で20営業日の休暇が取得できる制度です。これまで、国の制度を利用した場合の男性育休取得の一つの壁となっていた経済的不安を解消するため、給与を全額支給します。
当社では、2021年3月にDE&I推進室が立ち上がりました。まずは重点事項である「女性活躍推進」に取り組もうとしたときに、家事・育児などの負担が女性にのしかかっている現実をを変える必要があり、男性育休の実施が女性活躍実現の一助になるという考えに至りました。

家庭における男女の役割は分断されるべきではなく、育児と仕事のバランスは男女ともにとっていく必要があります。この課題には社会全体で取り組む必要があることから、会社の制度として男性育休を強力に推進していくことになりました。

――「男性の育休取得率100%」にむけて、どのように制度を構築されたのですか?

国の2021年度の男性の育休取得率は10%前半と低い水準に留まっていたため、まずは男性の育休取得に対して何が障壁になっているのかを分析するところから始めました。その結果、三つの壁があることが分かりました。

一つ目は、収入の問題です。国の育児休業制度では給付金が支給されますが、給与と比べると大幅に金額がダウンしてしまうため、休みを取りたくても収入面での不安が大きくなってしまいます。そこで、チャイルドケア休暇期間は給与を100%支給することとしました。

二つ目は、通常の育休期間は社内の情報から遮断され、引き継ぎにも物理的な手間が生じる点です。私たちは変化の激しい情報産業に携わっているので、休暇中に情報が遮断されることで、「社内の状況が一切わからなくなることに不安を感じる」という声が一定数ありました。また、社内で使用しているビジネス用チャットツールやパソコンのリセット作業に会社としてもコストがかかることについて課題として捉えていました。これらの状況をもとに、チャイルドケア休暇の取得期間内は情報機器をリセットせず、会社の情報が最低限閲覧できるようにしました。

三つ目は、当事者が周囲に遠慮してしまうことです。当初は「職場の理解が浅いことが育休取得の壁になっているのでは」との仮説を持っていましたが、調査を進めると「周りに迷惑がかかってしまう」という本人の思い込みがネックになっていると分かりました。そこで、本人に休暇取得の選択権を委ねるのではなく、会社の意思として休暇制度を整えました。

会社としてZ世代の価値観の変化を理解する

――いざ実施するとなると、苦労されたことはありませんでしたか?

制度を作ることに、苦労はそれほどありませんでした。というのも、有給休暇を付与することで一時的に労働力は不足してしまうのです、新たな予算を必要とする施策ではないので期中でも経営層の決裁を得やすいからです。もともとの計画予算上で進めることができるのもスムーズに実現できた理由の一つだと感じています。

導入の背景には、当社の風土も関係しているように感じます。2021年に、全社員を対象にした会社に対する意識調査を実施した際、「人間関係が良い」「働き方に柔軟性がある」などの項目で高い数値を得ました。グループ全体の社員の平均年齢が約33歳であり、社内の新人〜中堅層にあたるZ世代の価値観も社風に反映されやすくなっています。

当社には、「男性育休を積極的に取りたい」「互いに協力して、パートナーのどちらもがキャリアを構築していく」といった価値観を持つ社員が多くいます。そのため、社内から男性育休の取得を反対する声はなく、スムーズに理解が得られました。経営層もこうした価値観を十分理解しています。

――制度を構築するなかで、工夫した点や難しかった点はありますか?

最初は、育児休暇の期間を5営業日(週末を加えて1週間)にしてはどうかと考え、社員に意見を聞いたところ、5営業日という短期休暇に対して業務を引き継ぐのは手間だと感じるという意見が各所から出ました。10営業日(週末を含めて2週間)以上の休みであれば、自分の仕事をしっかり引き継ごうと思えるという意見も挙がったので、最低2週間の休暇を取ってもらうことを決めました。

一方、難しかったのはIT環境の整備です。復職をスムーズにするために休暇を取る社員のパソコンなどの貸与物とアクセス環境をそのままの状態にしておくと、社員側は育休中も仕事ができる環境になります。休みを提供しているのに、労働環境も同時に提供しているというギャップが生じるのです。

これについては、DE&I推進室の担当者と休暇を取得する社員、そしてその上司の三者で面談を行い、何のために休暇を取ってもらうのか、アクセス環境などをそのままにしている理由について丁寧に説明を行うと共に、安心して家庭に向き合うことができるようにすることは、組織の課題と捉えて環境整備を進めております。

「育児の大変さを実感」「生産性を重視するようになった」との声

――実際に「チャイルドケア休暇」を取得した男性社員の感想を教えてください。

具体的にはこのような声が挙がっています。

私は約1カ月のチャイルドケア休暇を取得しました。取得前は「育児休暇」に対して、キャリアアップのための勉強など、余裕がある時間を過ごせる期間と考えていました。しかし、実際には育児が大変で、スキルアップに費やす時間は取れず、自分の見込み違いを痛感しました。育児の大変さを考えると、休暇が1カ月程度では足りません。まだ制度が始まったばかりで慣れない部分もありますが、これから男性育休の取得者がどんどん増えていくことで、制度がより有意義なものになればと考えています。
(デジタルシフト 清水啓介さん)

この他にも、休暇を取得した社員からは「労働生産性への意識が高まった」という声、マネジメントの観点からは「育児をしている社員への理解が深まった」という声を聞いています。「育児の最初の一番大変な時期から関わることで、育児に対して自信を持てるようになった」、「会社に対する家族の印象が良くなった」という声もありました。

世の中の時流が株主資本主義から、ステークホルダー資本主義に変わるなかで、社員の家族のウエルビーイングも果たせることは長期的には大きな資産になっていくと実感しています。

――今後の抱負についても教えてください。

男性育休の取得をはじめ、DE&Iの取り組みは社会全体で推進しなければならない課題なので、一社が取り組むだけでは課題解決に至りません。実施できる企業がどんどん取り組みを進め、社会全体へ働きかけることが大事だと実感しています。

当社のパーパスは「新しい価値創造を通じて産業変革を起こし、社会課題を解決する。」です。男性育休の取得推進は新しい価値を創造し、社会課題の解決を図るという当社の目標にも合致します。今後も改善を繰り返しつつ、ダイバーシティの取り組みを強力に進めていきたいと考えています。



※記事内で取り上げた法令は2022年9月時点のものです。

<取材先>
株式会社デジタルホールディングス 
ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン推進室室長 菅原智華さん
デジタルホールディングスグループは、株式会社デジタルシフトや株式会社オプトなど10社のグループ企業を有し、デジタルシフト事業、広告事業、金融投資事業でIX(Industrial Transformation®=産業変革)実現に向けて取り組んでいる。「新しい価値創造を通じて産業変革を起こし、社会課題を解決する。」をパーパスに掲げ、ヒト・モノ・カネ・情報というすべての経営資源の至るところで、デジタルシフトを推進する存在として挑戦を続けている。

TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト