
個人による動画配信が、より身近なものになった現在、ゲームのプレイ画面を音声とともに配信する「ゲーム配信」も活況だ。そうしたゲーム配信サービスが多く生まれるなかで、「Mirrativ(ミラティブ)」はスマホ1台で手軽にゲーム配信ができるサービスとしてユーザーから人気を集めている。
同アプリを開発・運営するミラティブにおいて、2018年の設立当初8名だった正社員は事業の成長とともに年々増加し、2021年12月現在では約80名を数える。
スタートアップ企業の人材採用には、経営陣をはじめとする全社的な協力、そして継続的な情報発信が不可欠だと考える同社の採用活動について、HR本部の野呂哲世氏と廣田良歌氏に聞いた。

廣田良歌氏(右)。HR。組織開発グループ所属。新卒でソーシャルゲーム運営会社に入社。広報、ゲーム運営などに幅広く携わった後、2017年に株式会社ミクシィへ入社。子会社で採用に関わり、以降本社での人材開発も担当。2018年8月にミラティブへ入社し、採用に携わる。
ミッションを中心に、認知拡大とエンゲージメント向上を目指す
――採用活動において、ミラティブでは現在どのような情報発信をされていますか。
野呂:オウンドメディアとしては、まず自社サイト内の採用特設サイトが挙げられます。これを閲覧していただければ、「わかりあう願いをつなごう」というミラティブのミッションや、社員に求める行動指針、会社としてのカルチャー、どんな社員がいるか、それに募集中の職種一覧を知っていただくことができます。
加えて、「ミラティブで働くということ」が詳細にまとめられた「採用候補者さまへの手紙」、エンジニアやデザイナー向けに特化した採用資料、テックブログ、noteの社員インタビューなど、多様なコンテンツを準備しています。また、CEOの赤川隼一やCTOの横手良太の個人noteもあり、こちらも求職者の方々によく読まれています。
廣田:他社様と共催で、エンジニア向けのイベントなども開催しています。当社は2018年に設立された企業なので、一部のゲーム好きな方やスタートアップに興味のある方々を除けば、まだまだ知名度が高いとは言えません。初めてミラティブの名前を聞く方と、すでに興味を抱いてくださっている方の両方を意識した情報発信を心がけています。


――採用特設サイトを拝見すると、オウンドメディアとして内容がかなり充実しています。こうした情報発信の姿勢は会社設立当初からのものだったのでしょうか。
廣田:2018年の設立当時は社員8名ほどで、事業の成長とともに4年間で約80名、他雇用形態のスタッフを含めると約130〜140名の体制になりました。
当社はもともとリファラル採用の割合が多く、現在も注力しています。その一方で、代表の赤川が組織づくりにおいて特に人材を重要視していたこともあり、採用に関する情報発信も積極的に進めていました。なかでも2019年にリリースした「採用候補者さまへの手紙」は反響が大きく、当時は応募が3倍くらいに増えました。現在でも採用におけるメインコンテンツとして、多くの方にご覧いただいています。
採用情報発信を一度ストップしたことで痛感した「続けること」の重要性
――2020年の春の段階で一時的に採用をストップされたとのことでしたが、その時の状況を教えてください。
廣田:当時は事業も軌道に乗りつつありましたが、新型コロナウイルスの状況がどう影響するか当初は読めなかったので採用を一時的にストップしました。結果的には、むしろ事業がさらに進捗したので採用を再開したのですが、当時はあらためて採用市場での当社の立ち位置を知れたと感じています。
というのも、採用活動のストップということで全社観点でも採用観点でも、情報発信をいったん止めていました。そのため、「採用候補者さまへの手紙」で一度起こした勢いも止まってしまったのです。一度情報発信を止めると、会社の認知度はここまで下がるものかと痛感しました。
――具体的にはどんなことがあったのでしょうか。
野呂:僕が入社する少し前の話ですが、2020年の秋にエンジニア採用を再開しました。3〜4カ月の間、スカウトを主力チャネルとし、CTOの横手を中心にエンジニア社員のリソースを多く借りながら運用したにもかかわらず、1〜2人を採用できただけでした。
返信率も各媒体の平均を下回っており、やはり会社の認知度が低いことが大きな原因であると考えました。ミラティブは何の会社で、どういうことをしているのかが採用市場に伝わっていなかったのです。そんな状態だとスカウトで返事がもらえないのも当然です。こういった歴史もあり、どんな状況でも情報発信は必須であり、なにより続けていくことが重要であると、全社員が理解していると思います。
廣田:そうした経験を踏まえ、2021年は「継続性」をテーマに、あらためて「ミラティブの情報発信とはこういうものだ」という型だったりペースだったりを作り出すことに取り組みました。夏頃からエンジニアイベントを月に1〜2本実施し、自社noteでの社員インタビューも月に4〜5本はアップしました。インタビューは、マネージャーや各職種で活躍しているメンバーにフォーカスを当てた内容です。

――社員インタビューにしてもイベントにしても、社員の協力やサポートが不可欠です。社内ではどのような体制でコンテンツ制作を行っているのでしょうか。
廣田:ありがたいことに、CEOの赤川をはじめ、採用に対して協力的な文化がミラティブには根付いています。実際の選考においても人事はほぼ携わっておらず、現場メンバーが担当してくれています。
以前は今ほど現場を採用へ巻き込めていなかった気がします。頼めば喜んで協力してくれるのですが、コミュニケーションが不足していたがゆえにドライブがかからないといった状況でした。
そこで、徐々に採用担当のメンバーを増やしていき、今年からは、協力して欲しい現場のメンバーとの対話を増やすことを意識しました。なぜやるのかなど、背景や採用状況の共有はもちろん、採用活動での率直なフィードバックをもらうことで、文化がより加速していった手応えを感じています。
野呂:たとえばエンジニアのスカウトなどは、採用担当ではなくエンジニアの社員がやってくれていますし、スカウト文の作成も現場のエンジニアです。
面接にも必ず現場のマネージャーが参加してくれています。場合によっては内定から入社まで数カ月空いてしまう応募者の方もいますので、距離が生まれないよう定期的にお会いする機会を設けるといったアクションも取ってもらっています。
――2020年はエンジニア採用で苦戦されたというお話がありました。その後、何か施策は打たれたのでしょうか。
野呂:業界を問わず、エンジニアの採用は本当に難しい状況にあります。椅子取りゲームでいえば、椅子が1つなのに周りを回る企業は数10社以上あるような感覚です。
そのなかで人材を確保するには、他社と差別化を図り、エンジニアの方々に刺さるコンテンツを発信することが必要です。非常に効いているコンテンツがテックブログです。おかげさまで、面接などでも求職者の方々から「読んでいます」と言っていただけています。
このブログも、人事の働きかけではなく、エンジニア組織が率先して発信してくれているものです。日々の多忙な業務のなか、月に3〜4本という高い頻度で更新がされていて、採用担当としては感謝の気持ちが大きいです。
4つの行動指針をベースに、共感度の高い人材からの応募をねらう
――ミラティブには「わかりあう願いをつなごう」というミッションがあります。ミラティブが求める人材像とはどういうものでしょう。
野呂:採用サイトにある4つの行動指針である「わかりあおうとし続ける」、「課題に向き合い続ける」、「期待を超え続ける」、「そして楽しみ続ける」を体現できる方です。

特徴的なのが、1つ目の「わかりあおうとし続ける」です。「わかりあい」というワードは他の会社ではあまり聞かないと思いますが、ミラティブでは当たり前のように使われています。立場関係なく人の話に耳を傾け、自己開示もできる、そんな人がミラティブらしい人材だと考えています。
「わかりあうこと」というのは、言葉では簡単に聞こえるかもしれませんが、ちゃんとできている人や、それを体現できているコミュニティは実は非常に少なく、人類の究極の課題だとミラティブは考えています。これを明確に言葉として打ち出し、採用の分野でも積極的に進めています。
廣田:そこにつながる話ですが、求める要素で言うと、チームで仕事をすることの意味を理解できる人ですね。それぞれメンバーはプロフェッショナルだけど、お互い苦手な分野もあるから、それをみんなで補い合う。そうすることで大きなことを成し遂げていこうというのが、私たちの考えです。
野呂:もう一つミラティブらしさと言えば、「ロジック」と「エモさ」の両立が自然にできるところです。CEOの赤川はこれを「情理併存」という造語で表しています。
メンバーは基本的にロジカルなタイプが多いのですが、一方は「エモさ」も正義とされていて、社内ではメンバー同士の雑談などカジュアルなコミュニケーションも活発です。「そして楽しみ続ける」という行動指針も影響していると思います。こうしたバランスの良さもミラティブらしさで、そういう環境に行きたい、そういう世の中を作りたいという人に向けた発信を意識しています。
求職者と企業、お互いがより「語りわかりあう」ことを目指した発信
――情報発信において、これからの課題や目標などがあったら教えてください。
野呂:採用の領域だけではないのですが、外に向けて事業内容の魅力がまだまだ伝わっていないことが課題です。
「ゲームを配信する何かを出している会社だよね」とよく言われます。他のゲーム配信は、プロのようなゲーマーがファンに対してゲームの実況をする、いわばピラミッド的な構造があると思っています。それに対してミラティブは、ユーザー同士が対等で「友だちの家でドラクエをやってる感じ」といったサービスコンセプトを掲げています。そういった環境がもたらす絶妙な居心地の良さ、コミュニティの楽しさを、オンラインで味わってもらおうというサービスです。いわゆる「スマホ版メタバース」の世界観を目指しており、次世代の新たなオンライン体験を創出できるよう事業を推進しています。
特に2022年は「ライブ配信」とゲームを融合した「ライブゲーム」という新たな領域にチャレンジしていきます。一口に「ゲーム配信」といっても、その先に見据えるビジョンは他にはまだないものだと自負しています。この魅力やビジョンが世の中にもっと広まれば、当社に興味を持ってくれる求職者も自ずと増えていくと思っています。
そのためにも、会社としてさらに「語る」ことが必要です。「わかりあう」ためには、自分たちから市場や世の中に対して「語る」べきです。それを社内では「語りわかりあう会社」という言葉で共有しています。
廣田:私たち採用担当も、採用市場に対してちゃんと語っていきたいです。オウンドメディアを中心に、経営陣のTwitterやペイド記事など発信チャネルを拡大し、発信内容もより刺さるワーディングにするなど工夫を凝らしていきたいです。求職者に私たちの思いを訴え、あなたの楽園がここにありますというメッセージを届けていきたいと考えています。