採用活動において、社風に合わせて独自の採用ルールを設ける企業は少なくありません。エゴサーチ採用、いちゲー採用など、ユニークな新卒の採用活動をおこなう制作会社「面白法人カヤック」は、2010年からオリジナルの採用方法を取り入れています。独特の選考方法や一般的な採用活動との違い、採用活動で大切にしているポイントなど、同社人事担当者の三好晃一さんにお聞きしました。


ユニークな採用は「寿司面接」からスタートした


――「面白法人カヤック」さんはWEBサービスや広告、ゲームをつくる制作会社としてクリエイティブ業界では知られていますが、採用活動においてもユニークな取り組みをされています。いつ頃からこうした採用方法を取り始めたのでしょうか。
 
2010年の「寿司面接」が最初でしょうか。お正月の三が日の間にエントリーを受け付け、書類選考を通過した人とお寿司を食べながら面接するという企画です。お寿司にした理由は、単に「おめでたいから」というアイデアだったのですが(笑)。

(https://www.kayac.com/recruit/campaign)

これはネットでも話題になり、就活生からの反応も良かったですね。さらに翌年は通常の採用方法に加えて、さまざまな採用を試してみました。そのうちのひとつ、現在も続けている「卒制採用」は、創作活動が忙しくて就職活動の準備が満足にできない芸術系学生向けの企画です。卒業制作がデザイナーやプランナー志望のエントリーシート代わりになります。
 
「ソーシャルグラフ診断」という採用キャンペーンでは、応募者のFacebookアカウントの情報から弊社社員との相性を診断する仕組みを作りました。相性の良い人は、一次面接が免除になります。

(http://career.kayac.com/)

――採用実績として、特に手応えを感じた採用方法はありますか?
 
2015年から展開している「エゴサーチ採用」は、履歴書の代わりにGoogleのサーチ機能を使った面接方法です。この採用では、自分の名前や運営しているメディア、作品名など、自分のことがよくわかる検索ワードを応募してもらいます。普段からWEBで情報発信をしている人たちにとって、
エゴサーチ(検索)の結果そのものが自分の魅力をアピールするものになるのではないか、という発想から生まれたアイデアです。
 
――どれくらいの応募があったのでしょう。
 
累計で1,700名の応募があり、7名が実際に採用されました。この頃から、求めていた人物を確実に一定数採用できるようになりましたね。
 
2016年から続けている「いちゲー採用」も、実績のある採用方法です。ゲームのスキルや、ゲームから得られた経験値を語ってもらう選考を行っています。ゲームって娯楽だと思われがちですが、突破口を見つける発想力や問題解決力など、ビジネスに役立つスキルが自然と磨かれると思っていまして。今までに600人以上の応募があり、9人を採用しました。

(http://ps4.kayac.com/)

――こうした取り組みで採用した人材は、通常の採用活動に応募してくる人材とはタイプが違いますか?
 
そうですね。ものすごいゲームフリークや、まだ知られていないけれど魅力的な創作活動を続けている学生など、独自の採用キャンペーンをやらなければ出会えなかった人材はたくさんいます。ゲームのプランニングやレベルデザインの仕事、企画や制作・プロデュースなど、得意なことが事前に把握できているため配属もしやすいですし、業務もスムーズにこなすことができます。

 
 

ユニークな採用方法は会社の広報も兼ねている


――毎年たくさんのユニークな採用方法を考え、実践されていますが、採用までのルートはこれら「ユニークな採用」がメインなのでしょうか?
 
いえ、ポートフォリオやエントリーシートでの選考通過者と面接をする、いわゆる一般的な採用活動も合わせて実施しています。弊社は全社員数が300人程度なので、毎年の新卒採用は10〜30人。ユニークな採用方法から内定を出すのは最近だと1〜2割ほどですが、一人も採用しない年もあります。
 
――採用しない年があるにも関わらず、ユニークな採用方法を毎年続けるのはなぜですか。
 
オーソドックスではない採用を通して、社員の多様性が保たれるからです。また、ユニークな採用活動を行うことで、会社の広報活動に大きなプラスの影響があります。
 
2010年の「寿司採用」から10年が経ち、個々に得意とする能力を持った人が社内で活躍していること、既存のやり方に囚われずにプロジェクトを実行できる企画力など、会社のブランドイメージがこれまでの採用活動によって広まってきたのではないかと思います。自社の強みを採用活動そのものに取り入れることで、より多くの人に会社のキャラクターを知ってもらうことができました。

 
 

会社規模を把握してこそ、独自の採用方法が活きる


――「自社でも独自の採用活動を始めたい」と思う会社が、カヤックのようにユニークな採用方法を考えるためのコツってあるのでしょうか?
 
ユニークであるか以前に、会社規模に合う採用方法を取っているかをまずは考えるべきです。いい人材の採用方法は、社員数により違うと思います。10〜20人程度の小規模な会社であれば、いいと思った人を社長自らが口説く方法もあります。自社の魅力を直接アピールする方が、時間も手間もかかりません。
 
また、50人程度まで会社規模が大きくなると、効率的に採用活動を進めるために履歴書や面接のプロセスが必須になると思います。それでも、その規模でわざわざ変化球を打つ必要があるかは要検討ですね。採用に関する業務は責任も問われ、担当者の負担もかかります。担当者がひとりで変化球の採用キャンペーンなんてやってられないと思うんです。もしやるとしたら、クリエイターや広報を巻き込んで実践するのがいいのではないでしょうか。
 
ただ、面接方法を工夫するのは、会社規模に関わらず取り組めると思います。「うちの会社は応募時に○○のスキルをアピールしてもらいます」とか「社長とランチをしながら面接します」とか、望ましい求人や面接スタイルを積極的に取り入れていくといいのではないでしょうか。
 
――カヤックさんでは、面白い採用方法をどなたが考えているのでしょうか?
 
当初は代表自らユニークな採用方法を考えていましたが、ここ数年は、人事のチーム全体で新しい採用スタイルを提案しています。どの会社にもアイデアの出どころとなるキーパーソンがいるはずなので、より採用効果が期待できそうな方法を柔軟に選択してみてはどうでしょうか。
 
いずれにしても、会社規模や業界・社内のメンバーの特性などを把握してこそ独自の採用方法が生きると思います。他社の真似をするだけではリソースが潤沢な方が勝ってしまいますので。周囲に惑わされず、自分たちの会社らしい採用活動をコツコツと続けることが会社のイメージアップに繋がり、引いてはいい人材に出会えるのだと思います。

 
 

<取材先>
面白法人カヤック
人事 みよしこういちさん
 
TEXT:ヒラヤマヤスコ(おかん)
EDITING:Indeed Japan + ノオト