住宅などのリフォーム事業などを手掛けるTAKEUCHI株式会社。応募者が“自分らしさ”を出せる場所で面接を実施する「いつものあなた選考」という採用方法を取り入れています。普通の面接会場を飛び出し、その人らしい場所で行われる面接とはどのようなものなのか? 同社の人事採用担当チーム、マネージャー・吉成正樹さんに、このユニークな選考方法の内容やその効果などについてお話を伺いました。

求めるのは人柄の良さやコミュニケーション能力

――選考方法についてお伺いする前に、TAKEUCHI株式会社の事業内容と求める人材について教えてください。

当社は、お客様の「快適な住まいと暮らしを支える事業」を柱に様々な事業を展開しており、代表的な事業が住宅のリフォームです。お客様の自宅に入って進める仕事なので、コミュニケーションを取りながら、お客様のニーズをくみ取っていける力が備わった人材が求められます。

他にも、東京ガスの委託業務としてガス機器などの販売や修理、定期保安点検を行うほか、学校やオフィス、病院、商業施設などの空調設備について、環境に配慮したソリューションの提案などを行っています。どの事業も一件ずつお客様に相対する仕事なので、社員には信頼関係を構築していけるような人柄やコミュニケーション能力が求められます。

一般的な面接では人柄が見えづらかった

――「いつものあなた選考」を始める前はどのような採用活動をされていましたか? そこからどのようなきっかけで「いつものあなた選考」が生まれましたか?

以前は、まず会社説明会を開催して応募者から履歴書などの提出書類を送ってもらい、筆記テストをした後、2、3回面接を行って採用が決定するという、ごく一般的な企業と同じようなスタイルの採用活動をしていました。

今から7~8年前、現在、社長を務める野村一磨が人事部長として採用面接を担当するようになったときに、「会社の会議室でみんな同じリクルートスーツを着て面接するスタイルでは自分らしさが発揮できない人もいるのではないか?」と疑問を持ったことがきっかけとなり、採用方法を検討することにしました。もともと人柄を重視する採用を行っていたこともあり、一般的な面接で緊張した学生が想定してきた回答をベースに話をする状況では人柄が見えにくいので、応募者が私服で、いつもの自分らしさが出せる場所で面接をする「いつものあなた選考」というのはどうか?と提案されました。

私自身、20年近く採用担当をしてきましたが、通常のやり方に疑問を感じずに採用業務に携わっていたので、その提案にはっとしました。でも、実際に導入しようとすると、本当にできるのだろうかという不安感や抵抗感もありました。同時に、提出してもらう書類も応募者の人柄が表現されるダイアログシートというものへ変えました。これは通常のエントリーシートのような、書かれた内容を評価するものではなく、面接での対話の土台となるものと位置づけました。内容は、自分の性格やこれまでの人生について、堅苦しくなく書けるようなちょっとユニークな質問形式になっています。試行錯誤を経てこのシートが完成し、「いつものあなた選考」をスタートすることになりました。

通常選考か、「いつものあなた選考」かを選べる

――どのように選考が進むのかを教えてください。

「いつものあなた選考」は、全員に適用されるのではなく希望した人が利用できる選考方法です。全体の流れとしては、会社説明会に参加し、Web適性試験を受けた後、ダイアログシートを提出してもらいます。このシートで通常選考か、「いつものあなた選考」かを選択してもらうという仕組みです。

通常選考の場合は、一次、二次、最終面接を経て採用となりますが、「いつものあなた選考」の場合は、二次面接のみ応募者が指定する場所へ面接官が出向いて面接を行います。さらに3つの面接すべてでスーツの着用禁止で、自分らしさが出る私服で面接することになっています。

――「いつものあなた選考」を実施したことで、応募者の数や属性に変化はありましたか?

メディアに取り上げられる機会は増えましたが、「いつものあなた選考」の実施によって応募者数の急増や属性の大きな変化はないように感じています。平均すると「いつものあなた選考」を選ぶ人の割合は、全体の15~20%くらいです。どちらを選んだとしても有利、不利はありません。「いつものあなた選考」の方が、自分で面接の場所をセッティングするなど応募者にとってハードルが高いと感じる人もいるかもしれませんが、「面接が上手くいかない」「本当の自分とは?」など迷っている人にはぜひ選んで受けてみていただきたいですね。

実は自己表現が苦手という人が多い!

――アピールできるような趣味を持っているなど、個性的な人が「いつものあなた選考」を選ぶのかと想像していますが、実際はいかがですか?

この選考を選ぶのは、人とは違う自己表現をしたいというより、通常の面接会場では緊張してしまい、なかなかいつもの自分を出せないと悩んでいる人が多いです。「いつものあなた選考」を見て、面接を自分の好きな場所でできるのなら緊張せずに自己表現ができるかもしれないと思ってやってみようと考えてくれているのではないかと思います。

たとえば、私が面接を担当したなかに動物園を面接場所に指定した人がいました。第一印象は大人しい印象で自分から積極的に話をするタイプではないので、当社に限らず、他社での一般的な面接では本人の良さが見えてこず、良い結果が得られなくて就職活動が苦戦していたのではないかと感じました。でも、「いつものあなた選考」を選び、なじみのある動物園で面接を行ったことで、恐らく、さほど緊張せずに話ができたのだと思います。どんどん会話のキャッチボールをするタイプではありませんでしたが、お客様のために何かしてあげたいという気持ちを持った、優しい人柄が伝わったので合格にしました。その後の最終面接も合格して、現在、入社3年目になりますが、コツコツ努力するタイプで、周囲やお客様からの信頼も厚く、しっかり仕事をしています。

――応募者の思い入れのある場所で、その人らしい話を聞くということは、情が移って合格させたくなってしまいそうな気がしますが、いかがですか?

そうですね。その人らしさが出せる場所で話を聞き、人柄を知るので、どうしても仲良くなったり、情が移りそうになったりするのですが、それは差し引いて合否判定を行うように気をつけています。逆にその人の素の考え方がよく見えるので、会社と合わない部分もよく分かります。いずれにしても数値化されない部分なので、難しいところがありますが、注意しながら判断していくようにしています。

一方で、決まった質問で一問一答するのではなく、自由に対話していく方式なので、前々から基準が人によって違ってしまうのではないかという課題も感じていました。そこで2024年度の採用面接から、採用要件を明確にした上で能力を測る質問をする「構造化面接」も一部で取り入れることにしています。とはいえ、一般的な一問一答形式ではなく、その質問からさらに追加質問をしてゆくので、一定の能力を測りつつ、人柄も深堀りしていく半構造化面接のような形式になる予定です。

大企業には、簡単に真似できない採用方法

――「いつものあなた選考」はこれからも続けていくお考えですか?

もちろん今後も続けていきたいと考えています。発案者である社長は、この採用方法を取り入れるのには3つの理由があると言っています。1つは、採用する人材の多様性を広げたいから。面接のセッティングをするという学生側に負荷がかかる方法なので、それを乗り越えてこようというバイタリティーある人材の獲得や、今まで当社を志望しなかった人材が入社するきっかけにもなりうるところが魅力です。2つめは、面接をする我々も楽しみたかったから。その人らしさを感じながら、対話を楽しみたいという思いがあったようです。3つめは、応募者が多い大手企業には真似しづらい手法だから。「いつものあなた選考」は応募者の都合に合わせて個別でスケジュール調整をしますので、とても手間がかかります。当社の規模だからこそ実現できる手法であることも、実施する意義があると考えています。

実は私自身、最初はスケジュール調整や遠方の面接場所に出向くのは大変だと感じていましたが、実際やってみたらとても楽しく、会社の会議室を飛び出して、大自然の中や様々な知らない場所で対話させてもらうのはとてもわくわくしました。採用担当者自身も楽しませてもらっている、「いつものあなた選考」。これからも様々な場所で、様々な人に出会えるのを楽しみにしています。




<取材先>
TAKEUCHI株式会社 人事採用担当チーム マネージャー 吉成正樹さん
住宅のリフォーム事業を主体に、学校や病院、商業施設などの空調、電気設備などのソリューションの提供、東京ガスの委託事業など幅広く展開。従業員数は2022年4月現在で386名(グループ企業を含めると535名)。

TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト