近年、ビジネスの現場で重要視されつつある「傾聴」。そもそも傾聴とはどのような行為で、どういった背景から重要視されるようになったのか。また、それによってどのような効果が生まれるのかについて、多くの企業でコーチング研修などに携わる合同会社ナンバーツーの林健太郎さんにお話を伺いました。

傾聴とは「聞く」ではなく「聴く」こと

――昨今、耳にするようになった「傾聴」という言葉。どのようなものと捉えたらよいでしょうか?

傾聴とは、ごく簡単に言うと「人の話をきく」という行為で、決して難しいことではありません。受け身の姿勢で相手の話が勝手に耳に入ってくる状態の「聞く」(hear)ではなく、聞き漏らしがないように集中して積極的に耳を貸す行為の「聴く」(listen)が、傾聴で目指すべき姿勢だと思います。

とはいえ、会話を全て「聴く」ことはできないので、普段の会話は聞き流すことも多いでしょう。ただ「これはしっかり聞かないといけない話だ」と思ったときに「傾聴」のスイッチを入れられるかどうかが大切です。

――現代の職場で「傾聴力」が求められるようになった背景について教えてください。

以前の職場では、上司が部下に指示を出し、部下は黙って従うような仕事のやり方が主流でした。キャリア形成のパターンが多様ではなく、文句を言わずに仕事をすることで給料や役職も上がるという流れを望む人も多く、それによって従業員の生活も保障されていたはずです。そういった状況下では部下一人一人の価値観はさほど重要視されず、話を聞く必要性が薄かったのでしょう。しかし今は、働き方や働く人の価値観、キャリアの選択も多様化しています。

多様性を認める風潮になったことによって、上司は部下の価値観を知るために「君はどんな仕事がしたいの?」「何に興味がある?」などと聞く必要が出てきました。中長期で一緒に働く従業員の好みや価値観、どのようなキャリアパスを求めているのか、さらに家族構成や趣味といった情報を把握できていれば、仕事を進めるときに「〇〇さんにぴったりな仕事があるよ」「このプロジェクトに挑戦してほしい」など部下の志向に合った提案ができるようになります。会社やチーム、部下本人にとっても良い方向が導き出せる上司になれるというわけです。

また、部下の立場からすると、上司にちゃんと話を聞いてもらえた体験というのは、人に伝えたくなるくらいうれしい出来事です。従って傾聴は、上司の好感度や信頼度を上げる効果もあります。リーダーの仕事を進めるためには、メンバーからの協力を得ることが必要不可欠なので、その基盤をつくるという意味でも傾聴は上司が身に着けておきたい大切なスキルなのです。

知識や経験が豊富な上司ばかりが、話してしまいがち

――トップダウンのコミュニケーションが根付いてきた日本の企業のなかで、部下の話を聞けない上司も多いように想像しますが、それはなぜでしょうか?

ありがちなのは、上司が話を聞いている最中に、部下の欠点に気がついたり、解決手段を先読みしたりして、自分が話し出してしまうケースです。気付けば上司ばかりが話してしまい、部下は黙ってしまうというパターンに陥りがちです。

また、職場において上位者である上司がアドバイスをしないと、周りから「頼りない」などと思われてしまう傾向もあり、上司側も「自分が話さなければ」というプレッシャーを背負ってしまうことがあります。社会に根付いたそうした固定観念が「傾聴」をしづらくしている部分もあるでしょう。

加えて、上司が部下の話を聞こうとしてもプライドや忙しさが邪魔をして、つい腕組みやつまらなそうな顔をしたり、スマートフォンを触りながら話を聞いたりしてしまう人もいます。そうした態度から部下は威圧感を感じて、本音を話しにくくなってしまうケースも多いように感じています。

――逆に、部下が自ら話したくなる上司の姿勢や話し方とはどのようなものでしょうか?

私が会社員時代によく話を聞いてもらっていた人は、私の話をうなずきながら聞いてくれる人でした。聞き上手な人は、相づちなどで部下が自由に話せるよう促すのが上手で、笑顔で向き合ってくれます。

言葉以外の表情や態度など、非言語の部分が相手に与える印象はとても大切です。最近はオンライン上で話す機会も増えているので、より一層相手が話しやすい表情を作ることが重要になってきていると感じています。

傾聴を実践してチームで達成感を

――上司が部下の話を傾聴することによって、職場にはどのような効果が生まれますか?

傾聴は、多様な人材が対話を重ねながら新しい価値観を生み出していく「共創型の組織づくり」に有用な手法です。リーダー主導型のチームではなく、みんなで協力して仕事に取り組める雰囲気をつくっていくために、上司が部下の話をしっかり聞きながら組織と人を育てていくことが重要です。チームでの達成感や目標に向かう喜びを味わうためにも必要不可欠なのが傾聴のコミュニケーションだと考えています。

傾聴が行われることは、部下にとっても有益です。なぜなら上司が話を聞いてくれることによって心理的安全性が確保され、安心して職場で働くことにつながるためです。また、上司に傾聴してもらう際、自分が主体となって話す経験を重ねることで、自分の論調がどんどん整っていき、目指す方向や自身の課題や目標が明確になるため、キャリア形成の上でも大きな効果が生まれます。

他にも、心理的安全性が高まることによる仕事の生産性向上や離職率の低下など、さまざまな効果が期待できます。「忙しいのに部下の話を聞いている暇なんてない」と思わずに、短い時間でもいいので部下の話に耳を傾け、傾聴に取り組んでみてください。



<取材先>
合同会社ナンバーツー エグゼクティブ・コーチ 林健太郎さん

リーダー育成家。海外でコーチングを学び、2010年にコーチとして独立。以降、ビジネスリーダー250人に対して2000時間を超えるコーチングを実施、企業向けの研修講師としても年間100回近く登壇するなど、リーダーの育成に取り組んでいる。著書に『優れたリーダーは、なぜ「傾聴力」を磨くのか?』(三笠書房)など。

TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト