採用KPIは、採用活動を成功させるために設定します。そもそもKPIとは何なのでしょうか。採用におけるKPIにはどういったものがあるのか、その具体例や採用KPIの立て方、採用KPIをの運用ポイントなどについて、株式会社ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆さんに伺いました。

「KPI」とは

「KPI」とは「Key Performance Indicator」の略で、「重要な目標に向けて達成すべき指標」のことです。目標達成に向けたプロセスにおいて、達成度を評価するために設定するいくつかの中間的な指標です。

そして、目指すべき重要な目標を「KGI」 (Key Goal Indicator)といいます。KGIと KPIはあわせて設定するのが一般的です。

KGI……目指すべき重要な目標
KPI……目指すべき重要な目標に向けて達成すべき中間指標

採用におけるKPIとは

採用計画を立てる際にもKPIは非常に役に立ちます。これによって、目標の達成状況を可視化でき、採用活動の問題点や課題をいち早く見つけることができたり、採用の効率化をはかったりすることが可能になります。

採用におけるKPIは企業によって様々ですが、一般的な例として以下の項目が挙げられます。

◆採用におけるKGIとKPIの例

KGI:採用人数、人材の質 など
KPI:応募者数、選考通過人数、面接合格率、内定辞退率 など

採用活動でKPIが活用されている背景とメリット

昨今、採用活動においてKPIを活用する企業が増えているのには、以下の要因が考えられます。

1.長期におよぶ採用活動の管理が楽になる
採用活動は時間がかかる上にするべきことが多々あり、管理は非常に大変です。しかし、KPIで達成状況を可視化することで、採用プロセスの管理が楽になります。

2.採用に関するテクノロジーが進展している
KPIを記録・可視化するためのテクノロジーが普及してきたことも大きな要因といえるでしょう。求人広告の掲載から応募者の個人情報の保管、選考プロセスなどが記録できるシステムや、アセスメントツールなど、KPIを管理しやすい環境が整ってきました。

3.マーケティング領域からの影響を受けている
人材獲得競争が激しくなる中、採用にマーケティングの考え方を取り入れる動きが注目されています。
例えば、マーケティングにおける「ファネル分析(※1)」は採用KPIと相性がよく、これも採用KPIのニーズが高まっている要因といえます。

※1……消費者の購買フェーズを検討する分析手法

採用KPIの立て方(ステップ)

採用KPIの設定の仕方を具体例に沿って、説明していきます。

1.KGIを定める
最初にKGIを設定します。慣例として「採用人数」をKGIに設定するケースをよく見かけますが、本当にそれでいいのかを考えましょう。採用成功の秘訣は、自社に合ったKGIを設定することです。

【KGIの例】
採用人数、企業選びの納得度、内定者の能力の高さ、入社後の離職率、入社後の活躍 など

2.KGIに影響する要因を考える
KGIを達成するためには何が必要なのかを検討し、要因を列挙します。これ以降は、KGIを「入社後の離職率」として説明します。

【要因の例】
KGI:入社後の離職率
要因:1)実態の理解、2)企業理念への共感、3)認知能力の保有、4)同期との関係構築

3.要因を促す施策を検討する
どの要因を、どのような施策で高めていくかを検討します。

【施策の例】
1)実態の理解……OB・OG訪問の際に、応募者に職場や働き方のリアルを伝える
2)理念への共感……説明会で経営者が直接語る
3)認知能力の保有……人材アセスメント(客観的な基準で評価するツール)で測定する
4)同期との関係構築……内定後に懇親会を開催し、親睦を深める

4.要因を定量的に把握する方法を考える
要因を数値で表すために、どうすればいいかを検討します。

【数値化の例】
1)実態の理解……採用担当が最終面接前に理解度を5段階で確認する
2)理念への共感……最終面接で経営者が5段階で評価する
3)認知能力の保有……人材アセスメントの結果を用いる
4)同期との関係構築……懇親会後に連絡先を得た同期の人数を聞く

5.KPIを立てる
それぞれの要因について達成すべき数値を明らかにします。その数値が採用におけるKPIになります。また、数値を超えない場合にはどうするべきか、同時に対応策を検討しておきましょう。

【KPIの例】
1)実態の理解……5段階で最低でも3は必要。3を下回る場合、OB・OG訪問をさらにすすめる
2)理念への共感……5段階で4は必要。3以下は不合格とする
3)認知能力の保有……認知能力の偏差値が60を超えなければ不合格とする
4)同期との関係構築……同期とのつながりが5人を下回る場合、採用担当がフォローする

採用KPIの運用ポイント

採用KPIを設定しても、実践できなければ意味がありません。継続して運用し、採用活動を成功に導くためのポイントとして、次の3点が挙げられます。

1.どのタイミングで、どのKPIを確認するかを決める
一次面接終了後に人事アセスメントの結果を確認するなど、採用プロセスの中にKPIのチェックとそれに基づく対応の時間をあらかじめ組み込みます。

2.採用プロセスの「ついで」に測定できる内容にする
1で説明したように、採用プロセスとKPIのチェックはセットで行うようにしましょう。KPI測定のためだけの時間を設けようとしても、忙しさで後回しにして、そのまま忘れてしまいかねません。

3.KPIをクリアできない場合の対応策をあらかじめ決めておく
採用活動は多忙をきわめるため、KPIがクリアできない場合の対応策をその都度検討する時間を確保できないことがあります。クリアできない場合の対応策は、KPIの設定と同時に決めておきましょう。

採用KPIの失敗例と失敗しないための方策

採用KPIの設定や運用がうまくいかない理由には、次の2点が考えられます。

1.KGIを改めて考えていない
KGIの設定には十分な時間を使うようにしましょう。KGIはKPI設定の根幹となり、採用方針に影響を与えます。自社にとって採用の成功とは何かを吟味する必要があります。そのためにも、担当者は社内の様々な人(経営者、現場、人事)と対話しながら、KGIの設定を見直しましょう。

2.人数でKPIを考えている
KGIを「採用人数」で固定している企業は多いといえます。そのため、KPIも人数や割合で考えてしまいがちです。結果的に、良い人材に恵まれないなど採用の失敗を招いてしまいます。「採用KPIの立て方」の項目で説明したように、「KGI→要因→KPI」の流れで考えれば、KPIが人数に限定されずに、採用活動を成功に導くことができます。

KPIはKGIに紐づけ、促進させる内容でなければなりません。しかし現状、KPIとKGIの関連検証を行っていない企業が多々あります。関連性が見出せない場合は、別の要因やKPIをあげる必要があるでしょう。



※記事内で取り上げた法令は2022年8月時点のものです。

<取材先>
株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役 伊達洋駆さん
神戸大学大学院卒業。2011年、株式会社ビジネスリサーチラボを設立し、組織・人事領域を中心に民間企業を対象とした調査・コンサルティング業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。

TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

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