米国の男女間賃金格差は縮まりつつあるものの、不平等な部分は残っています。女性の賃金が、米国の平均的な男性が前年に稼いだ賃金に追いつく日であることを示す「イコールペイデイ(平等賃金の日)」を今年も迎えます。今年はこれまでで最も早い3月14日となっているものの、ジェンダー、人種、民族、年齢、障害、母親のほか、阻害されてきた集団など、さまざまな社会的な属性が相互に関連し合い交差した時に、依然として大きな賃金格差を生み出していることを認識する必要があります。
この賃金格差は年間数万ドルにも相当するもので、生涯のキャリアで考えると、働く女性は全体で数十万ドルもの所得と経済的安定を失っていることになります。
インターセクショナリティの視点から男女間の賃金格差について考え、この視点から組織での給与の公平性を推進する方法をご紹介します。
インターセクショナリティから見る男女間賃金格差
イコールペイデイは、米国の男性が前年に得た賃金と同じ額を平均的な女性が稼ぐのにかかる期間を表現しています。このため、イコールペイデイは毎年違う日になります。到達は徐々に早まっており、1996年には、通年フルタイムで働く女性が得られる額は、同じ仕事をする男性の賃金1ドルに対して約75セントでイコールペイデイが4月であったところ、2023年には、通年フルタイムで働く女性が得られる額は、男性の賃金1ドルに対して84セント(最新の米国国勢調査局のデータより)で、イコールペイデイは3月になりました。さらにピュー研究所が最近発表した2022年男女間賃金格差の分析によると、フルタイムとパートタイムの労働者両方を比較すると、男性の賃金1ドルに対して女性は82セントしか得られていないことがわかりました。
しかしながら、これが実態の全容を表しているわけではありません。
「男女間格差を認識することは重要ですが、多くの有色人種の女性と働く母親のイコールペイデイはさらに遅くなることを認識しておく必要があります。つまり、同じ仕事に対して有色人種の女性や働く母親が公平で平等な賃金を得るには、より長い期間働かなければならないことを意味します」と、Indeed のDiversity, Equity, Inclusion and Belonging(DEIB+)担当Senior Vice PresidentであるMisty Gaitherは語ります。
DEIB+担当Vice President、Misty Gaither
体系的な不公正と社会経済要因に、職場のアンコンシャスバイアス や意識的なバイアス、また採用プロセスが組み合わさることにより、過小評価された労働者が教育や就業、昇進の機会を得る上での障壁が生じます。以下に、特定の要因が交差する場合に米国の男女間賃金格差がどのように拡大するかを解説します。
母親
母親のイコールペイデイは9月8日です。米国の母親である労働者は、父親である労働者の賃金1ドルに対して58セントしか得ることができず、この格差は年間17,000ドルに上ると推計されます。この格差はBIPOC(黒人、先住民、有色人種)でさらに拡大し、黒人の母親は年間約34,000ドル、アメリカ先住民の母親は36,000ドル、ラテン系の母親は38,000ドルを失っています。
人種と民族
賃金格差が拡大したことにより、2021年から2022年にかけて、有色人種女性のイコールペイデイはさらに後退しました。
- 黒人女性のイコールペイデイは8月3日から9月21日に後退しました。通年フルタイムで働く黒人女性の賃金は、非ヒスパニック系白人男性の賃金1ドルに対して67セントとなっています。パートタイム労働者または季節労働者を含めた労働者全体では、1ドルあたり64セントと格差が拡大しています。
- ラテン系女性のイコールペイデイは10月21日から大幅に後退し、12月8日となりました。通年フルタイムで働くラテン系女性の賃金は、非ヒスパニック系白人男性の賃金1ドルに対して57セントです。労働者全体では、ほぼ半分の54セントになります。
- アメリカ先住民女性のイコールペイデイは9月8日から11月30日に後退しました。通年フルタイムで働くアメリカ先住民女性が得られる金額は、非ヒスパニック系男性の賃金1ドルに対して57セントです。労働者全体と比較すると、賃金1ドルに対してわずか51セントとなっています。アメリカ先住民女性の得た額が同額に達するには、ほぼ丸1年かかることになりますが、ネイティブアメリカン文化遺産月間に合わせてイコールペイデイは11月に設定されました。
ジェンダーアイデンティティと性的指向
残念ながら、白人男性労働者と比較したLGBTQ+女性の賃金格差を示すデータは今のところ存在しません。しかし、米国のLGBTQ+人権擁護団体である「Human Rights Campaign」によると、すべての人種と民族において、シスジェンダーとトランスジェンダーのLGBTQ+女性労働者がフルタイムで働いて得られる賃金は、平均的な米国男性の賃金1ドルに対して79セントです。さらに掘り下げると、黒人のLGBTQ+女性は、平均的な米国男性の賃金1ドルに対して77セント、ラテン系のLGBTQ+女性は65セントと、さらに大きな格差があります。
また、米国の労働者全体(すべてのジェンダー)とLGBTQ+労働者を比較した調査から、米国の平均的労働者の賃金1ドルに対する賃金が、黒人のLGBTQ+女性は85セント、ラテン系のLGBTQ+女性は72セント、ノンバイナリー、ジェンダークィア、ジェンダーフルイド、トゥースピリットなどジェンダーバイナリーに属さない労働者は70セント、トランスジェンダー女性は最も低い60セントであることがわかりました。
障害
最近の報告によると、2020年の時点で、米国の障害のある労働者の賃金は、障害のない労働者より26%少ないことがわかりました。つまり、障害のない労働者の賃金1ドルに対し74セントとなります。このグループ内でも、障害のある女性が通年フルタイムで働いた場合の賃金は、障害のある男性の賃金1ドルに対して84セントでした。パートタイム労働者と季節労働者を対象に含めた場合、この比率は1ドルに対して67ドルに低下します。
年齢
女性のキャリア全体を通じて、賃金格差は拡大の一途をたどります。通年フルタイムで働く45歳から64歳の女性の賃金は、通年フルタイムで働く同じ年齢層の男性の賃金1ドルに対して79セントです。一方で、65歳以上の女性は男性の賃金1ドルに対して77セントになります。パートタイム労働者と季節労働者を考慮すると、45歳から64歳で同じ条件の男性の賃金1ドルに対して77セント、65歳以上で62セントに下落します。
組織内の男女間賃金格差を解消する3つの方法
男女間の賃金格差を引き起こしているインターセクショナリティの要素を把握することにより、賃金格差の拡大につながっている体系的な不公正に対処するためのアクションを取ることができます。
「公平性を根付かせるポリシーや慣習の導入が遅れるほど、本当の意味での格差の解消が先送りされてしまいます」とGaitherは言います。Indeed のTotal Rewards担当Vice PresidentであるCourtney McMillianとGaitherが、男女間の賃金格差解消を加速するために会社のリーダーができる3つの方法を紹介します。
- すべての労働者が仕事にアクセスできるようにする
「誰でも才能を持っていますが、アクセスは平等ではありません。人種やジェンダー、障害などが相互に関連し合い交差した時、仕事に備えるための経験を積む能力に影響を及ぼすことがあります」とMcMillianは述べています。
具体的には、大学など高等教育機関の学費を負担することが難しい女性や、低賃金のインターンシップからキャリアをスタートする余裕がない女性は不利な立場に置かれ、その遅れを取り戻すことが困難になる可能性をMcMillianは指摘しています。さらに障害のある人々の場合、仕事へのアクセスや合理的な配慮がない限り、キャリアの一歩を踏み出すことすらできません。
組織内の全員にアクセスを提供するには、次の方法があります。
- 採用マネジャーに、特定の学位や資格よりもスキルを重視するための研修を実施する。
- 女性や阻害されてきた集団に属する従業員を対象とした、インクルーシブなプログラムとパートナーシップを用意する。
- 施設とアクセシビリティのガイドラインを改訂して、障害のある労働者に配慮する。
「新型コロナウイルスが感染拡大する中で、優秀なマネジャーは仕事のやり方を再定義してきた」とMcMillianは話します。その取り組みの中には、柔軟なスケジュールやハイブリッドな職場などがあり、どちらも働く母親の仕事へのアクセスが大幅に向上します。
「インターセクショナリティと男女間賃金格差の問題は、同じ方向性で対処する必要があります。同じ意図を持って行動し、本来であれば対処が難しいコミュニティにもアクセスできる機会をつくるという目的を達成するために、本当に必要なものは何かを考えましょう」McMillianは言います。
Total Rewards担当Vice President、Courtney McMillian
- 女性リーダーに投資する
「多くの男性にとって、職場での男性の構成割合が大きいことから、メンターシップとスポンサーシップは自然に機会が与えられることがあります。しかし、女性はそうはいきません」とGaitherは指摘します。
組織内で門戸を広げるには、女性向けに設計した専用のメンターシッププログラムとインクルージョン・リソース・グループ(IRG)を作ることです。Gaitherは、女性の能力開発に取り組む外部組織と提携し、キャリアアップや昇進についての課題や障壁について、女性が安心して話し合えるような環境づくりを推奨しています。また、社内の優れた人材や後継者育成計画に女性とマイノリティジェンダーを含めるよう、リーダーが責任を持って取り組むことの重要性も強調しています。
- 賃金の透明性を確保する
企業は給与の透明性を受け入れ、賃金の公平性や、基本生計費に相当する賃金額を会社が支払ういわゆる「生活賃金」などの分析を行うといった取り組みを実施し、あらゆる賃金格差に対処していく必要があります。そしてGaitherは、エクイティ(成果を発揮するために、必要なリソースがすべての方に与えられること)の向上という視点を取り組みに取り入れるべきだと主張します。米国では、給与の透明性に関連する法令を制定する州が増え、若い世代が透明性を強く求める中、給与の透明性は社会的な課題というだけでなく、ビジネスにおいて賢明な取り組みと言えるでしょう。
その一方でMcMillianは、報酬決定のプロセスを従業員と求職者に明確に伝えることで、透明性をさらに一段階高いレベルに引き上げることをビジネスリーダーに推奨し、次のように述べています。
「従業員が成功の定義を理解し、個人のキャリア成長を進めていけるように、給与レンジ内での給与を決定する具体的な要素について会社は明確に説明できる必要があります。これが賃金の透明性において、今後目指すべき水準です」。
アクセス、アライシップ、アクションによる男女間の賃金格差の解消
給与の公平性を含むすべてのDEIB+イニシアチブを進展させるには、組織のあらゆるレベルで全員が参加することが求められます。
「男女の賃金格差は全員にとっての問題です。女性だけの問題ではありません。厳しい現実ですが、全員の参加があって初めて男女間格差を解消することができるのです。男性は依然として組織内の上級管理職の大部分を占めており、その権限と影響力を使って、変革を起こすことが求められます」とGaitherは指摘します。
アクセス、アライシップ、そして企業のリーダーシップによる現実的なアクションを活かすことで、体系的な不平等に対抗し、同時に男女間の賃金格差にきっぱりと決別できるようになります。