
従業員のメンタルヘルスとウェルビーイングを最優先に考えるリーダーは、医療業界を悩ます極度の疲労感や離職を避けることができるでしょう。この記事ではその方法を紹介します。
キーポイント
- セルフケア、バウンダリー(自分と他者の境界線)の設定、心理的安全性の模範を示し、サポートすることで、従業員のバーンアウトを低減してエンゲージメントを高めましょう。
- 従業員が自身の仕事の影響力を理解し、価値が認められていると感じ、モチベーションとレジリエンス(心の回復力)を高められるように、従業員の目的意識を育む手助けをしましょう。
- リソースは利用可能にすることで効果を発揮します。従業員がセラピーや休憩室、その他のサポートを利用できるよう推奨し、そのための時間と勤務の柔軟性を従業員に提供することが大切です。
「医療業界は極度のバーンアウトという困難に直面しています」と、Indeed でDirector of Healthcare Category Managementを務め、看護分野のソートリーダーでもあるDr. Travis Mooreは言います。「これはあらゆる業界に対する警鐘とみなすべきでしょう。従業員のメンタルヘルスに対処しなければ、その代価を支払う必要があります。」
豊富な医療知識と経験から「Indeed Nurse(Indeed の看護師)」とも呼ばれるDr. Mooreは、神経的な疲弊や感情的な消耗、そして支援体制の欠如が原因で、最も献身的な専門職の従業員でさえも仕事を辞めてしまうことを身をもって体験してきました。
ただ、ここで重要なのは、従業員のバーンアウトは医療分野だけに限らないということです。
必要不可欠な人材を失うリスクを避けるために、この危機的状況に対応せざるを得ない病院のベストプラクティスは、さまざまな業界のリーダーに貴重な教訓をもたらしています。医療業界が直面するバーンアウトの危機から学び、従業員が活躍できる職場づくりに役立つヒントを紹介します。
従業員のメンタルヘルスをサポートし、職場のウェルビーイングを高める
1. 従業員に活力をもたらす職場文化を構築する
職場文化は過度の労働に報酬を与える傾向があり、特に医療業界ではバーンアウトを促進していると言えます。
「休憩を取ったり、会社が提供するリソースを利用したりする時間の余裕があると、仕事をこなすことができない、または優秀な医療従事者ではないことを示すスティグマ(特定の属性や経歴を持つ人へのネガティブなレッテル)となります」と、医療業界での経験に基づく見解をDr. Mooreは説明します。
深く根差した文化的な規範を変えるには時間がかかりますが、長期的な定着率とパフォーマンスを向上するためには必要なことです。従業員に活力をもたらす戦略には、次のようなものがあります。
- 心理的安全性を育みましょう。「従業員は報復を恐れず、安心して懸念を共有できる必要があります」と、Indeed でSenior Director of Total Rewardsを務めるAmy Polunskyは話します。「声を上げたときにアドボカシー(擁護・支援)が得られると、従業員はさらに発言しやすくなります」
- 休息に対してインセンティブを与える。「企業は従業員が残業することは認めていますが、バウンダリーを引き、健康状態を優先する従業員に報酬を与えたらどうでしょうか」と、リーダーシップおよびバーンアウトからの回復を指導するコーチ、Chazz Scott氏は言います。また、パーフォーマンスレビュー(業績評価)にワークライフバランスの指標を導入し、持続可能な習慣を推奨することを提案しています。
- 自ら模範になる。リーダーは積極的にセルフアドボカシー(自己権利擁護)を支援したり実施することで、休息やウェルビーイングは成功を妨げる障壁ではなく、むしろパフォーマンス向上に欠かせない要素であることを明確にする必要があります。「休憩を取ることで仕事の安定性や評判に悪影響があるのではと不安に思えば、従業員は休もうとしません」とScott氏は言います。
これには管理職が重要な役割を果たす一方で、どの部署内にもインフォーマルリーダー(正式な役職に任命されていないもののリーダーシップを発揮する人)は存在しているとDr. Mooreは補足します。「そうした影響力の大きい人物を特定すると、変化を促すのに役立ちます」
2. 仕事をやりがいのあるものにする
医療業界の変化は、従業員が自分の仕事の目的を感じることがいかに重要かを浮き彫りにしています。Indeed の「Pulse of Healthcare Report(医療業界の動向レポート・英語)」によると、医療分野では、目的意識は医療従事者とケアする患者との関係に伴うことが分かっています。
「コロナ禍では、医療従事者が英雄として称えられました。しかし、そうした尊敬や称賛はあっという間に消え、多くの医療従事者は正しく評価されていないと感じるようになっています」とDr. Mooreは話します。「雇用主や社会から、自身の価値を認めてもらえないと従業員が感じるとき、それは失望感につながります」
従業員が自身の仕事が与える影響を目的として実感できることは、職場におけるウェルビーイングの重要な指標となります。ただし、Indeed による「Global Work Wellbeing Report(職場のウェルビーイングに関するグローバルレポート・英語)」では、回答者の48%が職場で明確な目的意識を感じないと答えています。
こうした状況に対処するには、直接的なフィードバックや、表彰制度、あるいは各個人の職務と企業全体のミッションを結びつけるブランドストーリーテリングなどを通じて、従業員の貢献がいかに重要であるかを継続的に伝えることが大切です。
3. 従業員が最も重視していることを理解する
従業員一人ひとりのニーズに合った、最も価値のあるリソースを把握するために、積極的に従業員の状況確認を行いましょう。率直な対話は、従業員がどのようなサポートを本当に求めているのかを明らかにする手段となります。たとえば、ライフスタイル支出口座(LSA)(英語)や柔軟な勤務スケジュール、職場内でのコミュニティなどです。
Dr. Mooreは、自身の医療助手が仕事を辞めたときのことを以下のように説明します。面談を行ったところ、育児にかかる費用があまりに高く、仕事を続けることが経済的に成り立たないことを知りました。「従業員の多くは仕事が嫌になって辞めるのではなく、職場の現実が持続を不可能にしているから辞めるのです」とDr. Mooreは話します。「企業は、従業員が効率よく仕事をこなせるようにするため、どのような追加のサポートを提供する仕組みが必要かを認識しなければなりません」
Polunskyは、Indeed が従業員のニーズを把握するために行っている、従業員参加型のいくつかの取り組みを紹介します。
- 全社を対象としたアンケート調査:Indeed のTotal Rewardsチームは、従業員向けアンケート調査の設計および分析を担当するPeople Scienceチームと密に連携し、設問の設計や回答結果の分析に取り組んでいます。
- Slackのチャンネルと従業員フォーラム:カジュアルな会話は、ニーズや懸念をリアルタイムで把握するのに役立ちます。
- 可視化と透明性:リーダーシップとは、従業員からのフィードバックを確実に受け止め、それに従って行動を起こしていることを従業員に知らせることです。実現不可能である場合、リーダーはその理由を説明し、信頼とエンゲージメントを維持します。
4. ウェルビーイングに関するリソースを実際に利用できるようにする
メンタルヘルスに関するリソースを提供するだけでは、十分とは言えません。従業員はリソースを活用する時間と、活用しても良いという励ましが必要です。Dr. Mooreが勤務していた小児集中治療室(PICU)での経験を見てみましょう。Dr. Mooreのチームは、気分転換の休憩を取るために用意された「ウェルネスルーム」を枕や点滴ポンプなど、その他の手に入りにくい物品を保管するための仮のスペースとして使用していました。チームメンバーは患者から離れる時間もサポートも得られなかったため、誰も本来の目的でこの部屋を使っていませんでした。
メンタルヘルスに関するリソースを利用しやすくするには、以下の方法が考えられます。
- 利用状況を測定する:「ウェルネスに関するリソースを提供しただけで、終わりではありません。従業員が提供したリソースをちゃんと活用しているかどうか、追跡することが大切です」とDr. Mooreは言います。活用されていない場合、フィードバックチャネルを通して何が障壁になっているのかを把握しましょう。
- ウェルネスアンバサダーを任命する:同僚間での教育は特に効果的です。病院の多くでは、利用可能な福利厚生や利用方法について、ウェルネスアンバサダーに任命された従業員が他の従業員に指導しています。
- 柔軟なケアの選択肢を提供する:「医療従事者は、職場で仕事を遂行できるように精神的または感情的に自身を切り離していますが、自宅ではそうした悩みを吐き出します。私たちがリソースを必要とするのは、そのときです」とDr. Mooreは説明します。オンラインや対面のセラピーを受ける選択肢など、さまざまなニーズやスケジュールに対応する柔軟なケアモデルは、従業員のエンゲージメントと効果を高めるために不可欠であるとPolunskyも述べています。
- サポートプロセスを用意する:病院で「コードブルー」とは、医療チームの救急救命対応が必要とされる医療的な緊急事態を知らせる言葉です。最近では新たに「コードラベンダー」というルールがあるとDr. Mooreは説明します。これは、チームが一切の質問をせずに、ストレスを感じている医療従事者をサポートするために対応することです。ほとんどの業界では緊急対応チームは必要ありませんが、リーダーは助けを求めることを普通のこととして促し、サポートプロセスを整えておくとよいでしょう。
5. イノベーションと共感とのバランスを取る
企業の多くは従業員の支援や福利厚生など、日々のプロセスにAIを取り入れ、効率を向上させています。しかし、AIが提供できる支援の能力を過大評価してはなりません。個々の人間的な関わりこそが、従業員のエンゲージメントと満足度を維持するものです。
Dr. Mooreは最近、自身のパートナーが虫垂炎になり、救急処置室に行ったときのことを思い出しました。スタッフはスムーズにプロセスを進めていきましたが、それが問題でもあると感じました。「まるでアルゴリズムで決められたように動いていたからです」とDr. Mooreは話します。臨床効率は優れていたものの、そのときの体験には患者のケアに欠かせない思いやりや共感がありませんでした。
Polunskyは、人間味を犠牲にすることなく人事業務をサポートするために、Indeed がAIとの連携を開始した方法をいくつか紹介しました。
- データ分析とフィードバック:AIを活用して福利厚生の利用傾向やフィードバックを効率的に分析することで、実際の従業員のニーズに基づいてプログラムを適応させることが可能です。
- コミュニケーションの強化:AIを活用してメッセージの送信を合理化し、スケジュールを管理することにより、従業員は関連性の高い福利厚生の情報をタイムリーに受け取ることができます。AIが生成したメッセージは、送信前に必ず人間が確認することが大切です。
- アクセシビリティの向上:AIツールを活用することで、従業員が迅速にリソースを見つけることができ、エンゲージメントの障壁を減らせるようになります。
ただし、Scott氏は以下のように注意を呼びかけます。「AIは私たちの生産性を高めるものですが、休養することへの罪悪感や、常に感じているプレッシャーなど、根底にあるものを解消してはくれません。仕事と休養のバランスに関する考え方に対処しない限り、AIが魔法のようにバーンアウトの問題を解決することはないでしょう」
職場でのウェルビーイングは任意ではなく、戦略的な取り組みである
医療業界が直面するバーンアウトの危機的状況は、あらゆる業界にとって反面教師になり得るでしょう。ここで得られる教訓は、従業員のメンタルヘルスをサポートすることが、パフォーマンスと定着率の向上には欠かせないということです。それを怠れば、バーンアウトや欠勤、離職率の増加につながります。
Polunskyによると、「職場でメンタルヘルスをサポ―トすることは、単なる思いやりではなく、戦略的なビジネス上の意思決定です」