近年、採用の現場で耳にすることが多い「コンピテンシー面接」という言葉。これはどのような面接方式で、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。大手企業の採用・人事責任者を経験してきた株式会社人材研究所・代表の曽和利光さんに解説をお願いしました。

コンピテンシー面接とは

コンピテンシーとは「行動特性」のことを指します。つまり、とりわけ行動特性に重点を置いた評価を行う面接のことを、コンピテンシー面接と呼びます。

ただし、あえてこの言葉を使っていない採用の現場においても、そもそも行動特性は面接において重要な判断材料のひとつです。その意味では、コンピテンシー面接とは採用の常套的な手法であり、多くの企業が意識せずとも取り入れているものと言えます。

採用担当者は、知的基礎能力や性格の傾向など行動には表れにくい内面のポテンシャルと合わせて、コンピテンシーを評価ポイントとすることで、より優れた人材、自社にマッチした人材の採用につなげるべきでしょう。

コンピテンシー面接の具体的なやり方は?

では、面接にやってきた人材のコンピテンシーは、どのように評価すればいいのでしょうか。

最近では、インターネット上でコンピテンシー面接用のチェックシートや質問項目が多数公開されていますから、それらを参考にするのもいいでしょう。ただし、面接官が強く意識しておかなければならないのは、ファクトベースで質問を重ねていくことです。

ファクトとは、実際にあった出来事を意味します。つまり、これまでのキャリアや学生生活の一場面において、候補者が目の前の課題やミッションに対して何を考え、どのような行動をとり、そしてどんな成果が得られたのかを徹底的にヒアリングするのです。

この際、つい候補者も自分の意見を交えて回答しがちですが、そこにファクトはありません。曖昧な記憶や感情は度外視し、事実だけを見極めながらとことん掘り下げていくことが重要で、面接官にはある種のしつこさと根気が求められることになるでしょう。

逆に、「うちの会社に入社したら何がやりたいですか?」、「10年後の目標は?」といった将来に向けた質問は、ビジョンや意欲の度合いを知ることはできても、ファクトは得られません。人材を知るためにはこうした質問も大切ですが、質問の分野が異なることを意識しておく必要があるでしょう。

コンピテンシー面接を取り入れる際の注意点

実際に起きた出来事をベースに判断するコンピテンシー面接は、「こんな時、あなたならどうしますか?」といったシチュエーショナル・ジャッジメント・テスト(ケーススタディ)とは似て非なるものなので注意が必要です。

なぜならこの場合は、未然のシチュエーションに対して候補者が自分の行動を予測しているのに過ぎず、必ずしもファクトに通じているとは限らないからです。

相手が発する言葉の中から、事実だけを抜き出して深掘りすることは、意外と難しいコミュニケーションです。たとえば、候補者がこれまでのキャリアについて、「前職はレストランに勤務していましたが、コロナ禍の影響で失業してしまいました」と語った場合、ファクトを掘り下げていくには、それがどのような規模のどんなジャンルのレストランだったのか、従業員が何人いたのか、売上げや業績がどのように推移していたのか、細部まで深く聞き出さなければ、そもそも失業が本当にコロナ禍の影響であったのかは判断できません。

そのため面接官は自ずと、同じ質問をさまざまな角度からあの手この手で何度も聞くことになり、相手を不快にさせてしまうリスクも付き物です。この手法を無自覚に行うことによって優れた人材を逃してしまうようでは本末転倒でしょう。

コンピテンシー面接を行う際は、なるべく丁寧な口調で、あくまで「候補者に強い関心を持っているのだ」というスタンスを強調しながら、粘り強く質問を重ねていくことが大切なのです。


<取材先>
人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光さん
京都大学卒業後、リクルートに入社。人事部のゼネラルマネージャーとして培ったスキル・ノウハウと、2万人の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用する独自手法を確立。その後、大手生命保険会社などで一貫して人事領域で活躍し、2011年に株式会社人材研究所設立。著書に『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新聞社)などがある。

TEXT:友清 哲
EDITING:Indeed Japan + 波多野友子 + ノオト

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