企業の経営状態を把握するのに役立つツール「ローカルベンチマーク」。2016年から経済産業省が提供し始めたもので、3枚のシートに財務に関する内容や経営理念、自社を取り巻く環境などを書き込むことで、企業経営の現状や課題を把握し、経営改善を目指すものです。

クオーレ労務経営代表で社会保険労務士・行政書士の戸川一秋さんに、作成の手順やローカルベンチマークがもたらす効果などについてお話を聞きました。

ローカルベンチマークは、企業の健康診断書

――ローカルベンチマークとは、どのようなツールなのでしょうか?

ローカルベンチマーク、通称ロカベン(以下、ロカベン)は、自社の経営を現状分析するシートのことで、「企業の健康診断書」とも言われています。企業の経営診断ツールというと財務情報を分析するものが一般的ですが、ロカベンはそれに加えて非財務面からも網羅的に分析するのが特徴です。

3枚のシートは、財務に関連する情報をまとめる【1】財務分析のシート、非財務面にあたる【2】業務フロー・商流のシート、【3】4つの視点のシートの3枚に分かれます。【1】は決算書情報などを入力して財務状況を分析するもの。【2】は製品や商品サービスを提供する流れを記載するもので、【3】は経営全体を様々な視点から整理します。シートは経済産業省のホームページからダウンロードできます。

ロカベンは、経営者のビジョンや経営の理念を改めて確認して、経営理念やビジョンを従業員に落とし込むのに活用できます。また、金融機関や取引先に対して会社の強みを明確に伝えられたり、後継者に創業者の経営理念やビジョンをはじめ、会社の全容を伝えたりすることができ、円滑な事業承継にも役立ちます。また、政府の各種施策とも連携しているので、事業再構築補助金をはじめ、各種補助金の申請にも活用できるのも便利な点です。

――作成するときは、どのようなメンバーで取り組むのでしょうか?

いろいろなパターンがあり、社長一人で作成する場合や社員みんなで作成する場合、支援機関や金融機関を交えて作成する場合があります。まずは経営者が一人で取り組んでみて自身の考えを整理した上で、社内の従業員や社外の関係者と共有して深めていけるとよいでしょう。従業員と取り組むことで、自分が分かっているけれど従業員が知らない自社のことや、逆に従業員は分かっているけれど自分は知らない自社のことが見えてきますし、みんなで話し合うことで今後の方向性を一致させられます。さらに、社外の金融機関などと取り組むことで円滑に融資や支援を受けられるなどのメリットが生まれます。

財務、非財務の両面の情報をまとめる

――具体的な作成手順を教えてください。

3枚のシートそれぞれの記載内容を簡単に説明します。

【1】財務分析

まず、財務分析のシートには、①売上持続性(売上増加率)②収益性(営業利益率)③生産性(労働生産性)④健全性(EBITDA有利子負債)⑤効率性(営業運転資本回転期間)⑥安全性(自己資本比率)を記入する項目があります。確定申告書類の損益計算書や賃借対照表などから該当する数値を入力していきます。

【2】商流・業務フロー

業務フローについては、業務の流れを整理しながら、他社とは違う、差別化できるポイントを見つけることが目的となるので、まずは業務の流れを5つのプロセスに分けて、それぞれ自社のこだわりや強みといった差別化ポイントを考えていきます。
商流の箇所では、自社のビジネスがどのような取引関係から成立しているかを把握します。仕入れ先や協力先をどのような理由で選んでいるのかを考え、業務フローの差別化ポイントに仕入れ先、協力先がどう貢献しているかも考えましょう。また、なぜ顧客に選ばれているのかといった点についても考え、記入していきます。

【3】4つの視点

①経営者②事業③企業を取り巻く環境・関係者④内部管理体制の4つの観点から企業の現状を把握します。

①については、経営者がどのような経営理念やビジョンを持っているのかを改めて確認し、今後どのような事業展開をしていきたいかを考え、記入します。

②はどのような仕組みで、どのように利益を挙げているのかを記載していきます。自社の強みや弱み、技術力やノウハウをもう一度洗い出しましょう。

③については、取引先企業や取引金融機関、従業員などのステークホルダーや、市場環境などといった外部環境などについて考え、書き込んでいきます。

④は、組織の内部管理体制がどの程度整っているかを確認します。事業計画や経営計画が従業員に共有され、浸透しているか、人材育成の取り組み内容などを記載します。

経済産業省がこうした作成の手順などを詳しく紹介する「ローカルベンチマークガイドブック 企業編」(※1)を公開しているので、そちらも参照してください。

――ロカベンを作成するに当たり、注意すべきポイントはありますか?

数値化しにくい抽象的な箇所もあるので、どうまとめたらいいのか迷う人もいると思います。そういった場合は複数人でアイデアを出し合いましょう。また、それぞれの枠のスペースが限られているので、コンパクトにまとめなければならないのも難しい点です。4つの視点のシートのなかの、「人材育成の取り組み状況」や「強み」「弱み」の部分など、枠に収まりきらない内容は「別紙参照」などと注意書きを入れて、別紙にまとめて添付するのも一つの方法です。

課題を整理でき、採用にも活用できる

――ロカベンにはどのような効果がありますか?

企業によっては、毎年事業計画を作成する社も多いでしょう。ロカベンは、事業計画の簡易版のようなイメージです。これまで事業計画を作成したことがない小規模の会社であれば、事業計画の入門編としてロカベンをつくることで、次はステップアップして融資を獲得できるような事業計画につなげることもできます。

もう少し深掘りした観点からは、自社の強みや弱みを分析でき、課題が可視化できるので、従業員全員に、改めて会社の現状や方針を共有できるのは大きなメリットです。さらに、財務面のような定量的な弱点だけでなく、4つの視点を書き込むことで定性的な課題も見えてくるのも良いところです。企業によっては、定量的な課題と定性的な課題が入り交じり、解決の糸口がつかみにくいケースもあると思いますが、それをきちんと整理できることで対策を見いだすきっかけになるかもしれません。

また、ロカベンには、どのような人材を求めているかを記載する人材育成の項目もあるので、ここに書き込む内容を採用や人事に生かすこともできます。そこに照らし合わせて採用の基準や採用試験の質問の内容を考えると良いでしょう。そうすれば採用のミスマッチが起こりにくく離職率も下がります。企業の目的や理念に共感する、考えの近い人たちが集まるので、ハラスメントなどの問題を減らすことにもつながるのではないでしょうか。

――作成後はどのように活用していけばよいですか?

作成後は少なくとも1年に1回、見直しや確認をしましょう。それを面倒だと思わずに習慣化することが大切です。事業計画も同様ですが、一度作ってもその通りいかないことの方が多いので、修正を重ねたり計画と実情がかけ離れている部分について考えたりしていきましょう。そうした作業を積み重ねることにこそ大きな意味があり、企業の今後の発展に大いに役立つと私は考えています。




※記事内で取り上げた法令は2022年11月時点のものです。

(※1)経済産業省「ローカルベンチマーク作成ガイド」
https://www.meti.go.jp/policy/economy/keiei_innovation/sangyokinyu/locaben/guide.html

<取材先>
クオーレ労務経営 代表 戸川一秋さん
社会保険労務士、行政書士、採用定着士。ひかり物流株式会社 代表取締役も兼任。クオーレ労務経営の代表コンサルタントとして、企業法務、労務管理、採用相談、就業規則の作成やリスク対策など、幅広く企業の人事労務、企業法務関係のサポートに取り組む。

TEXT:岡崎彩子
EDITING:Indeed Japan +笹田理恵+ ノオト