障害者の法定雇用率が引き上げられる中、「障害者雇用に取り組みたいが、何から始めていいか分からない」「障害者を採用したけれどどうフォローしていいのか分からない」など、依然として障害者の採用や雇用継続に悩む経営者が少なくありません。
 
そこで、就職を目指す障害者と企業の橋渡し役を担う「就労移行支援」というサービスに注目が集まっています。首都圏・関西地区を中心に展開する就労移行支援事業所「Kaien」の代表取締役・鈴木慶太さんに話をお聞きしました。


働きたい障害者と企業をつなぐ事業

かつては障害者に対する就労支援は、福祉施設が職場を提供することがほとんどでした。しかし、それだけでは一般企業で働きたい障害者の要望に応えることはできません。一方で、障害者雇用や障害の有無に関わらず能力のある人の採用を進めたい企業のニーズも満たされない状況にありました。
 
就労移行支援は、「障害者総合支援法」に基づき、就職を希望する障害者と就職先となる企業などをつなぐ事業として2006年にスタートされました。障害のある人に対して就労に向けたトレーニングや職場実習、適した職場とのマッチングのといったサービスを、1人につき最大2年間提供するものです。「就労移行支援」は、福祉と民間企業の間を橋渡しするサービスと言えるでしょう。
 
また、就職した後も職場と本人の間に立ってさまざまな調整を行う「定着支援」も最大6カ月間行います。就労移行支援事業所は全国に3000カ所ほどあり、約4万人が利用しています。事業所は企業やNPO法人などによって運営されています。

障害に由来する困難を取り除くサポート

「障害者を採用しても、職場になじめず辞めてしまう」という企業の声をよく聞きます。こうしたトラブルが起こる背景には「障害者本人も企業も、障害の特性をよく分かっていない」という状況があることが多いのです。
 
自分のことなのだから、障害者本人は障害のことをよく知っているはず、と思われるかもしれません。確かに、先天的な身体障害や知的障害が幼い頃に分かり、養護学校や特別支援学校に通うなどして、長く周囲のサポートを受けながら時間をかけて自身の特性を知ることができた障害者の多くは、適した仕事を選ぶことができることが多いです。
 
しかし、近年増えているのは大人になってから発達障害が分かったり、働き始めてからうつ病などの精神疾患を発症したりした人です。発達障害や精神障害は企業側にも知識が少ないことが多く、人によって症状や特性が違うことから、職場でどのように関わるべきかと戸惑うことも多いでしょう。また、障害のある本人が「頑張ればなんとかなる」と考えていても、働き始めるとコミュニケーションがうまくいかないことに気づいたり、発症前に比べると思いのほか体力が落ちていたり、体調の管理が難しいと初めて分かる人が少なくありません。
 
こうしたトラブルを解消するため、就労移行支援事業所で行うトレーニングの一つに、自身の病気や障害について学ぶ「自己理解」のプログラムがあります。発症前の自分との心身の違いや、障害ゆえにどうしても困難なことがある場合にどう対処していくかを考えるものです。
 
このほかにも、障害者本人に対して働く上で必要なスキルアップを支援します。企業に対しては障害者が働く上での必要な配慮を伝え、適切な業務内容などを相談しながら決めていきます。また、就職してから半年間の定着支援を行うことにより、一年後の定着率が約20%上がったというデータもあります。(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター『障害者の就業状況等に関する調査研究』2017年4月より)

費用負担なしで利用できる

就労移行支援事業所を利用している人の約6割は精神障害・発達障害のある人です。(厚生労働省『第5回 ICTアクセシビリティ確保部会 説明資料(障害福祉サービスにおける就労支援)』より)
 
利用者には20代から30代も多く、適切な支援があれば長く企業の戦力となれる人が少なくありません。今では全国で1万人以上が「就労移行支援事業所」を利用して企業などに就職しています。(厚生労働省『就労移行支援・就労定着支援に係る報酬・基準について』より)
 
「就労移行支援事業」は、行政からの給付金と求職者の利用料によって運営されています。実習の受け入れや事業所と連携して行うマッチング、定着支援を利用しても、企業は費用を払う必要はありません。
障害者雇用を進めたい企業や人材の不足に悩む企業にとっても、就労移行支援事業所との連携は大きなメリットとなるでしょう。



<取材先>
鈴木慶太さん
株式会社Kaien 共同創業者・代表取締役。長男の診断を機に発達障害に特化した就労支援企業Kaienを2009年に起業。1,000人以上の発達障害の人の就労支援に現場で携わる。著書に『親子で理解する発達障害 進学・就労準備のススメ』(河出書房新社)、『発達障害の子のためのハローワーク』(合同出版)、『知ってラクになる! 発達障害の悩みにこたえる本』(大和書房)などがある。
 
TEXT:石黒好美
EDITING:Indeed Japan + 笹田理恵 + ノオト

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