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ESGへの批判とは?逆風に立ち向かうためにできること

社会的インパクトとサステナビリティに関連する取り組みは困難ですが、今後はさらに難しくなる可能性があります。断固とした姿勢こそが、こうした状況をうまく乗り切る唯一の方法だと言えるでしょう。この記事では、戦略を強化して現代のESG(地球環境、社会、ガバナンス)をめぐる文化的な対立を乗り越える方法を提案します。

投稿者:LaFawn Davis

キーポイント

  • 2024年には、ESG(地球環境、社会、ガバナンス)への取り組みをめぐる文化的な対立が起きる可能性があります。この取り組みの継続を真摯に考えている場合、今は断固とした姿勢を取るべき時だと言えます。
  • ESGの取り組みは人間と地球に対してだけでなく、企業の最終利益にも目に見えるプラスの影響をもたらします。
  • 批判にひるむことなく、取り組みの優先順位を下げないようにするには、自社のESGの取り組みを測定可能なものとし、適切なリソースを用意し、ビジネスに直接結びつける必要があります。 

先日、米経済紙The Wall Street Journalが明らかにしたとおり、ESGは「米企業にとっての新たな禁句」となっています。

ESG(地球環境、社会、ガバナンス)に向けられていた批判的な意見や反感が、2024年は急速に激化しています。ESGの原則は業績には何の関係もないと声高に非難する人々は、ESGを「Woke capitalism(意識高い系資本主義)」と名付け、リベラルな政治的目的を密かに推進する「ESGカルテル(企業連合)」であると警告します。 

特にダイバーシティ、エクイティ(成果を発揮するために、必要なリソースがすべての人に与えられること)、インクルージョン(誰も取り残さないような施策や環境を作ること)(DEI)への取り組みは、米国での一部有名ブランドをボイコットするキャンペーンや、DEIの取り組みを禁止する動きなど、賛否両論を呼び、文化的な対立を引き起こしています。その結果、多くの企業がESGに言及しなくなり、DEIから遠ざかり、サステナビリティ(持続可能性)と社会的インパクトに関連するプログラムから手を引き、さらには取り組み全体をやめる場合もあります。

この分野のリーダーにとって、すでに困難であった取り組みが、今後はもっと難しくなるでしょう。私たちは、社会や地球のためだけでなく、自社のビジネスや従業員、投資家のためにも正しい行いをする責任を担っています。政治的な逆風がどれほど厳しくなろうとも、取り組みをやめることはできません。他の人が圧力に屈しても、私たちは揺るがない信念を持つ必要があります。 

Indeed のESG担当Senior Vice Presidentとして、私自身も日々このテーマに注力しています。しかし、誰もがESGの意味を理解しているわけではなく、こうした問題の実状を把握している人がはるかに少ないことは認識しています。ただ、今年はアメリカ大統領選挙の年でもあり、反ESGの動きが一層高まるにつれ、近いうちに選択の余地はなくなるでしょう。

ESGの意味や、現在の批判の背後にある理由、またESGの仕事に真摯に取り組んでいる場合には、取り組みへの信念を貫くための方法など、2024年にESGについて知っておくべきことを解説します。

ESG:人や地球、ビジネスに良い影響を与える

ESGとは、企業のサステナビリティと社会的インパクトへの取り組みと、そうした取り組みの実践での運用方法が、企業の業績にどう影響しているかを投資家が評価するための一連の基準です。ESGの要素である「社会的インパクト」とは、幅広い範囲を指す用語であり、これにはダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン、およびビロンギング(DEI、D&I、DI&B、DEIBなど、さまざまな呼び方がありますが、Indeed ではDEIB+と呼ばれています)の分野での企業の取り組みも含まれます。また、責任あるAI(Responsible AI)、いわゆる人工知能の倫理的な使用が含まれる場合もあります。 

ESGは、企業の社会的責任(CSR)など、他のモデルとは異なります。なぜなら、善い行いをしていると実感できる取り組みを行いつつ、測定可能なビジネス上の成果を生み出すという、感情と知性の両方が重視される側面があるからです。ダイバーシティを意識した採用活動は、企業が幅広い人材プールを活用できるようになるため、言うまでもなくビジネスに良い影響を与えます。さらに、今日の消費者はサステナビリティの高い倫理的な製品を支持し、自身が支持する企業にも同じ価値観を体現することを期待しています。

ESGは企業の財務実績にプラスの影響を及ぼし、社会や環境、投資家、組織にも同様のメリットがあることを示す調査結果があります。また、ESGへの取り組みは、従業員と消費者の双方にとって魅力的です。米大手会計事務所Ernst & Youngが実施した最近の調査では、Z世代の従業員の73%、ミレニアル世代の従業員の68%が、DEIを優先する企業を好むことが分かりました。さらに別の調査では、従業員の約60%が、企業は地域社会の多様性を反映する従業員を採用すべきだと考えていることが明らかになっています。 

ビジネスの観点は別として、ESGの取り組みを導入することは、道徳的に正しい行動だと言えるでしょう。こうした取り組みは人々の生活に影響を与え、世界でも職場でも現在と未来の世代が活躍できる環境を作り出すのに役立ちます。あらゆる人にとって、この地球をより良い場所にするため、組織が自らの責任を果たすことが大切なのです。 

反ESGの動きと議論の高まり

ESGに反対する人々の主な主張は、環境や人にとってそれほど良い影響があるなら、ビジネスに良い影響を及ぼすはずがないというものです。ESGに反対する動きも起きています。

2023年に反ESG法を提案した州は3分の2以上に及びましたが、そのうちの半数で可決しました。また、議決権行使時期には、大多数は投票で否決されたものの、記録的な数の反ESG提案が株主により提出され、反ESGの訴訟リスクは増しています。 

DEIについては、特に全国的なアファーマティブアクション(積極的格差是正措置)の廃止や、テキサス州とフロリダ州の公立大学でのDEIプログラムの禁止を受け、際立って反対意見が多くなってきました。それに加え、トランスジェンダーのインフルエンサー、Dylan Mulvaney氏を起用したマーケティングプロモーションの後に起きた、米ビール「Bud Light」の不買運動はまだ記憶に新しいでしょう。 さらに、米小売大手チェーン「Target」のプライド月間向け商品も論争の的となり、売上への悪影響や従業員の安全への懸念につながるとともに、右派・左派の両方から批判される結果となりました。

こうした不安定な情勢では、自社がニュース報道や政治的議論の標的になるような行動を起こし、従業員やクライアント、消費者を疎外することを恐れるのは当然かもしれません。「ESG」という用語自体を使用せず、サステナビリティ関連の取り組みを廃止し、DEIの取り組みの呼称を変更し、多様性のある従業員の採用を縮小する企業がますます増えています。社内データによると、Indeed 上でのDEI関連職の求人掲載数は、2022年12月から2023年1月の間に18%減少しました。また、CDO(最高ダイバーシティ責任者)の多くは、バーンアウト(燃え尽き症候群)や、企業から冷遇される立場が原因で自発的に辞職しています。 

厳しい時代が来ると、何が本物で何が本物でないかが見えてきます。ESGと利益のつながりを理解しないビジネスリーダーは、世界に良い影響を与えることをやめてしまう場合があります。

私たちがESGへの真摯な取り組みを継続することは、必要不可欠です。そのことを念頭に置いて、自社のプログラムが反ESGの動きやDEIへの反対意見に耐え、注力できるようにするシンプルな方法を3つ、ご紹介します。

批判に立ち向かい、自社のESGプログラムを強化するには

1. 自社のESGの取り組みをビジネスに結びつける。

単に善意の取り組みとしてESGの目標を設定し、取り組んでいる場合、不確実性の高い時代や逆境においては、ESGの優先順位は下がる傾向があります。ESGの取り組みは、自社のミッションとビジネスに直接一致する場合にのみ現実的かつ永続的となり、厳しい監視の目に耐えることが可能になります。 

Indeed では「We help people get jobs.」をミッションに掲げており、ESGの4つの基本理念も、より良い生活につながる良い仕事とあらゆる人をつなぐことを重視しています。この4つの基本理念に基づき、サステナビリティの高い環境と、より公平かつインクルーシブな仕事の未来をサポートする、2030年までのESGの目標を設定しています。

Indeed のESGの基本理念Indeed の2030年までのESGの取り組み
仕事探しをもっと速く、もっと簡単に就業までにかかる時間を半分に短縮する
採用活動におけるバイアスと障壁を取り除く障壁に直面する累計3000万人の就業をサポートする
環境負荷を削減する温室効果ガス排出量の実質ゼロを達成する
持続可能な公平性を構築するIndeed における従業員のリプレゼンテーション(社会に存在している多様性の適切な反映)を引き上げる

私たちの取り組みは社会に良い影響を与えるだけでなく、本質的に事業運営の方針に結びついており、それこそがESGが優先事項であり続ける理由です。企業の利益と目的が交差する点だと言えるでしょう。

2. プログラムだけでなく、測定可能な目標を立てる。

大事なことだけではなく、測定可能なものに焦点を当てましょう。温室効果ガス(GHG)排出量の削減に関してはSBT(Science Based Targets:科学的根拠に基づいた排出削減目標)がありますが、社会的インパクトに関連する取り組みの効果を測定する、一般的な標準化された手法はありません。これは、取り組みを測定することが必ずしも不可能という意味ではありませんが、業界全体で基準となる慣行は存在しません。それでも、自社の取り組みの影響を測るため、説明責任を問う措置を策定することはできます。

Indeed の2030年ESG目標を見ると、たとえば障壁に直面している3000万人の就業を支援することは、具体的なミッションとテクノロジーに直接結びつく、定量的なビジネス上の成果です。実践できるかできないかが問われ、曖昧な部分はありません。 

感情に基づいて、サステナビリティや社会的インパクトについてのストーリーを語ることは十分ではなく、データに基づく必要があります。特に意思決定者や投資家に対し、自社の達成状況を、データで具体的に伝えることができれば、ESGの取り組みが優先事項であり続ける可能性は高まるでしょう。

3. 大事なことのために予算を立てる。

この業界には、「心がけよりも予算」という言葉があります。

言い換えると、誠実な姿勢でESGに取り組む企業は、そのための予算を立てるということです。善意だけでは足りません。言葉だけでなく、行動で示す必要があります。 

つまり、成功を収めるプログラムやプロセスを構築し、取り組みを実行するチームを結成するためには、影響を与えたい分野に十分なリソースを提供するという意味です。たとえば、多くの企業は、DEIの取り組みを実施している証拠として従業員向けリソースグループ(ERG:人種やジェンダー、年齢、宗教、性的指向など、共通のアイデンティティを持つ従業員が活動するグループ)を挙げ、それで終わりだと考えています。 

ERGは自社のDEI戦略を増強するものであり、唯一の戦略であってはなりません。ERGの予算しか立てていない場合は、誠実な取り組み方とは言えないでしょう。自社が有意義な変化をもたらす体制を整えることが大切です。 

今、断固とした姿勢を取るべき理由

より良い仕事の環境づくりとは、揺るぎない決意が必要なものであり、そして価値がある取り組みです。 

これが目指したい事業運営の方法であるなら、今こそ自社のESGの取り組みについて熱心に伝えるタイミングだと言えます。声を上げる必要がないことが理想的です。しかし、実際には黙っていても、おそらく他のリーダーや組織にも同様に振る舞うよう促すに過ぎないでしょう。ただ最悪の場合、そもそもESGの取り組みを推進する意欲を削ぐ恐れもあります。 
社内外から批判されるかもしれませんが、態度を明確にしなくても反対される可能性はあります。ビジネスリーダーとして、歴史的評価の正しい側か間違った側か、どちらを望むかを決断することが今、求められています。