自分の意見や考えを率直かつ気軽に発言できる職場環境は、従業員と企業のどちらにもメリットがあります。エグゼクティブコーチであるRajkumari Neogy氏が、職場の心理的安全性を高める方法をご紹介します。
キーポイント
- 心理的安全性の高い職場とは、従業員が安心して自分自身を表現し、自分の意見や考えを率直に発言できる環境を指します。
- エグゼクティブコンサルタントのRajkumari Neogy氏は、従業員は自分の意見に耳を傾けてもらい、認められ、意見が尊重されることを望んでいるため、こうした職場環境を築くことが重要だと話します。
- 職場の心理的安全性を高めるために、「どのようにフィードバックを伝えたり、受け取っているか?」、「どのように説明責任を果たし、チームメンバーの当事者意識を促しているか?」、「どのように自分自身を振り返っているか?」という点を自問してみましょう。
リーダーにとってチームワークやインクルージョン(誰も取り残さないような施策や環境を作ること)が最重要課題となっている今、心理的安全性は、健全な職場づくりにおいてますます重要になっています。心理的安全性という用語は、ハーバードビジネススクールで教授を務めるAmy Edmondson氏によって提唱されたもので、ばかにされたり、拒絶されることを恐れずに、自分自身を安心して表現できる状態を指します。チームメンバーが、弱さを見せることを恐れずに、自分の意見や考えを率直に発言できると、イノベーションを促進する環境を築くことができます。
Rajkumari Neogy氏はエグゼクティブコンサルタント兼心理的安全性の専門家として、ビジネスにおいて神経生物学や文化、エンパシー(他者の感情や経験を理解する能力)がどのように交差するかに焦点を当てています。また、Neogy氏は、ibelongの創設者兼CEOとして、Indeed をはじめ、175社以上のインクルーシブな職場づくりを支援してきました。
リーダーが心理的安全性についてどう考えるべきか、そして職場の心理的安全性の状態を把握する方法について、Neogy氏に話を聞きました。
心理的安全性は、リーダーの最重要課題である他の概念と重なる部分があります。たとえば、心理的安全性とビロンギング(自分の居場所があると感じられること)はどのように違うのでしょうか?
多くの人にとって、職場でビロンギングを感じるということは、自身のニーズが満たされているということでしょう。心理的安全性は、自分のニーズが満たされていない状況になったとしても、そのニーズについて、周囲に安心して伝えられるという安心感から生まれます。つまり、安心して共有できる相手や、受け入れられる環境が整っている状態です。
個人としての心理的安全性の重要性について説明いただきましたが、心理的安全性がビジネス面に与える影響についても教えていただけますか?
米国企業では、排他的な行動が原因で1兆米ドルが無駄になっているという調査結果があります。McKinseyの調査によると、退職を考える最大の要因として、有害な職場の慣行が挙げられていることが分かりました。これは残念な結果です。では、従業員は何を求めているのでしょうか。従業員は、自分の意見に耳を傾けてもらい、理解してもらい、認められ、評価されたいと感じているのです。
職場の心理的安全性が低いことを示す兆候は何だと思いますか?
共謀と過度な同調です。共謀とは、不当な利益を得るために複数人が結束することであり、周囲からの拒絶を恐れている場合に起こります。同調とは、社会通念に従うことです。同調することで周囲から疎外されないようにすることができますが、代償として本来の自分らしさが失われることもあります。
リーダー自身が無愛想であったり、きつい言い方をするかどうかも注意すべきポイントです。つまり、フィードバックを受け止め、対応できるリーダーではない場合は、問題のある状態と言えるでしょう。この機会を活かして、リーダーが自分自身を振り返り、当事者意識を高めることが大切です。
職場の心理的安全性を高めるために、リーダーはどのように対応すればよいですか?
対立が起きていないか、緊張感がないか、関係がこじれている箇所がないかに気を配りましょう。こうすることで、リーダーとして、「現在、どのような状況ですか?」、「困っていることや悩んでいることはありますか?」、「うまくいかない原因は何だと思いますか?」、「どうすれば解決できそうですか?」といった有意義な質問をすることができます。言葉は最も強力なツールです。
人は生まれつき自分の欲求を満たすことを考えて行動する傾向があり、満たされないと少しずつ壊れていきます。『ターミネーター』シリーズの映画の中で、銀色のロボットが粉々になった後に再生するシーンをご存知でしょうか。奇妙に聞こえるかもしれませんが、あのシーンのように、誰もが自分の再生を手助けしてくれる人を求めているのです。
話し合いの中で緊張感が高まったときなどに、効果的に軌道修正をして心理的安全性を維持する方法を教えてください。
空気が張り詰めていると感じたら、「少し話を戻して、XやY、Zについて話しましょう」と声をかけてみましょう。また、「ちょっと休憩しましょう」と伝えるのもよいでしょう。他にも「気がついたら、話が脱線していました」や「この方はたくさんのフィードバックを受け取っています」のように伝える方法もあります。
一旦中断して軌道修正する方法は多数あります。
米国は選挙の年ですが、職場にいる従業員同士の政治的信念が異なる場合、リーダーはどのように対処すべきですか?
Facebookで働いていたとき、右派の福音派キリスト教徒の女性と親しくなりました。私はトランスジェンダーであり、LGBTQ+コミュニティに属しています。私たちは、楽しく会話のやり取りをし、互いに好奇心を持ち続けました。私は彼女に興味を持ち、彼女もまたありのままの私に興味を持ちました。互いに一人の人間として交流を深めたのです。
レイオフやAIなど、自分が影響を与えることができないものの、職場の心理的安全性に影響を及ぼす可能性のある要因について、リーダーはどのように対処すればよいですか?
恐れずに、深い悲しみを表現しましょう。私たちは、深い悲しみを表現することの重要性を理解していません。私たちは行動自体を重視しているため、嘆き悲しむことは時間の無駄だと考えています。私たちはさまざまな状況で深い悲しみを表現する必要があります。たとえば、アイスクリームを食べていた2歳の子どもがコーンを床に落とした場合、その子どもは悲しみを表現する必要があるでしょう。昇進できなかった人も同じです。気持ちを確認し、悲しみを共有しなければ、行き詰まりを感じ、孤独を感じるかもしれません。
リーダーは何から始めればよいでしょうか?職場の心理的安全性を高めるために、自分自身の行動をどのように変えればよいと思いますか?
健全な職場環境の構築には、フィードバック、説明責任、内省という3本の柱があります。リーダーとして、どのようにフィードバックを伝え、受け取っているか、どのように説明責任を果たし、チームメンバーの当事者意識を促しているかを自問してみましょう。同様に、どのように自分自身を振り返っているかも重要です。この3つの柱すべてを理解していなければ、心理的安全性の高いリーダーとして行動するのは難しいでしょう。
また、私たちは経験そのものではなく、経験を振り返ることで学びを得るため、休息時間が必要です。ドーパミンによって脳が過負荷状態になり、神経系の調節がうまくいかないと、頭が働きません。空を見上げたり、歌詞のない音楽を聴いてみましょう。脳を休息させる時間を取らないと、脳の働きが鈍くなるという研究結果があります。
Indeed Leadership Connectは、さまざまな業種のHRやTAのシニアリーダーが集まって意見交換を行うイベントです。最近開催されたバーチャルイベントで、Neogy氏はFortune 500企業やテクノロジー関連のスタートアップ企業、アイビーリーグ大学、国連のリーダーたちと話し、心理的安全性に関する質問に回答しました。職場での配慮のない振る舞いへの、Neogy氏おすすめの対処法をご覧ください。
- 居心地の悪さを受け入れる。「最も重要なリーダーシップスキルは、傾聴力ではなく、居心地の悪い状況を受け止めることです」とNeogy氏は述べています。誰かが会議中に激高した場合は、「何かありましたか?」と声を掛け、状況を説明してもらい、グループのメンバーが受け止められるようにします。
- 好奇心を持つ。「困っていることや悩んでいることはありますか?」、「うまくいっていないことは何ですか?」、「問題点を明確にしましょう」といった問いかけをします。Neogy氏は、こうした質問によりリーダーの当事者意識が示されると説明します。
- 境界線を決めておく。説明する機会を設けても相手がまだ配慮のない態度をとる場合は、境界線を引きましょう。「私は、誰かが嫌な態度を取っていたら、会話の途中でその場を立ち去るようにアドバイスをしてきました。この状況は、相手の話し方が変わるまで、繰り返し起こることもあります」とNeogy氏は話します。
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