出張旅費規程
「出張旅費規程」は、出張にかかる交通費や宿泊費などの諸経費に関する取り扱いについて定めたものです。内容や金額について法律でルール化されていないため、企業ごとに決める必要があります。
◆出張旅費規程を定めることで節税効果はある?
日当のうち、通常必要であると認められる部分の金額は、海外出張の場合を除いて課税仕入れとして扱われるため、消費税を節税できます。なお、出張旅費規程の直接的な効果は後述する税務トラブルの防止であり、節税は副次的な効果といえます。
出張旅費規程作成のメリット、デメリット
◆出張旅費規程を作成するメリット
出張旅費規程作成のメリットは、次の2つです。
- 従業員に対し、出張にかかる経費負担を明確化できる
- 税務上の課税・非課税に関するトラブルを防止できる
◆出張旅費規程を作成するデメリット
デメリットはほぼありません。あえて挙げるとすれば、規程に従い出張経費を支給する義務が生じることです。
◆旅費の課税・非課税について
所得税法第9条第1項第4号で、下記のいずれかに該当する旅行において、必要な支出に充てるために支給される金品で「通常必要であると認められるもの」が非課税と規定されています。
- 給与所得を有する者が勤務する場所を離れてその職務を遂行する場合
- 転任に伴う転居のための旅行の場合
- 就職または退職をした者、または死亡による退職をした者の遺族がこれらに伴う転居のための旅行をした場合
また、非課税とされる旅費の範囲は、所得税基本通達9-3で次のように定められています。
法第9条第1項第四号の規定により非課税とされる金品は、同号に規定する旅行をした者に対して使用者等からその旅行に必要な運賃、宿泊料、移転料等の支出に充てるものとして支給される金品のうち、その旅行の目的、目的地、行路若しくは期間の長短、宿泊の要否、旅行者の職務内容及び地位等からみて、その旅行に通常必要とされる費用の支出に充てられると認められる範囲内の金品をいうのであるが、当該範囲内の金品に該当するかどうかの判定に当たっては、次に掲げる事項を勘案するものとする。
(1)その支給額が、その支給をする使用者等の役員及び使用人の全てを通じて適正なバランスが保たれている基準によって計算されたものであるかどうか。
(2)その支給額が、その支給をする使用者等と同業種、同規模の他の使用者等が一般的に支給している金額に照らして相当と認められるものであるかどうか。
引用:所得税基本通達9-3
つまり、所得税法第9条第1項第4号で定められた旅行に必要な旅費のうち、上記の(1)(2)を満たし、「通常必要である」と判断された旅費が非課税と認められます。
出張旅費規程を作成することで、税務調査で指摘されたときに「適正なバランスが保たれている基準によって計算されたもの」であることを立証できます。
◆課税対象となるケース
一方、出張旅費規程があれば、すべての経費が非課税と認められるとは限りません。
たとえば、新幹線代や航空運賃、ホテルの実費支給については一般的に問題になることはありませんが、定額のホテル代や日当などが同業種や同規模のほかの企業と比べて高額である場合などは、税務調査で課税対象とみなされる可能性があります。定額のホテル代や日当などの金額を決める際は、労政関係の統計資料などを参考にするといいでしょう。
出張旅費規程は必ず作らないといけないのか
出張旅費規程の作成は義務ではありませんが、前述したようなメリットから、一定規模の企業は作成したほうがいいでしょう。なお、従業員数が少なく出張がない企業であれば、必要ありません。
◆出張旅費規程に盛り込むべき内容
出張旅費規程を作成する際、次の内容を入れる必要があります。
・出張旅費規程の目的
どのような目的で出張旅費規程を定めるのかを明示します。
・対象範囲
パートやアルバイトの従業員について、企業の状況に応じて対象者に含めるかどうかを判断します。
・出張の定義
移動距離や宿泊の有無など様々なケースがあるため、細かく定めておきます。
・費用項目・支給金額
交通費や宿泊費、食費など費目ごとの金額を定めます。役職ごとに支給額を区切る場合は、それぞれ記載します。
・精算手続き
出張の申請や旅費の精算などの手続きを定めておきます。
◆役職ごとの支給額を細かく区切る必要性
役職ごとの支給額を細かく区切るケースもあります。「適正なバランスが保たれている基準によって計算されたもの」であることを明確化でき、課税・非課税に対するトラブルの防止につながります。
◆例外を設ける必要性
海外出張など、出張旅費規程で定められた範囲外のことが発生する可能性があるなど、企業の出張状況に応じて例外を設けます。
出張旅費規程の作成手順
出張旅費規程には、以下の2つの方法があります。
- 就業規則の中に含める
- 別規程にする
就業規則には「出張旅費については別に定める」と記載し、別規程で詳細を定めます。
いずれの場合も、就業規則として位置付けられるため、労働基準法において下記の手順を踏むことが義務付けられています。
- 労働者の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見を聞き、意見書を作成する
- 就業規則に前述の意見書を添付し、事業所を管轄する労働基準監督署長に届出をする
- 変更内容を社内に周知する
内容を変更する際はどうする?
出張旅費規程の内容変更は就業規則の変更にあたるため、作成時と同様に前述した1〜3の手順を踏む必要があります。
◆出張旅費規程の注意点
出張旅費規程で定めた内容には支給義務が発生するので注意が必要です。また、旅費の減額などは不利益変更にあたるため、合理的理由がある場合にのみ例外的に認められます。
出張旅費規程を作成すると旅費を減額することが難しくなるため、自社の状況を踏まえた上で支給金額などを規定するとよいでしょう。
※記事内で取り上げた法令は2022年4月時点のものです。
<取材先>
あすか会計事務所 代表 税理士 社会保険労務士 安田大さん
慶応義塾大学経済学部卒業後、1993年に税理士、社会保険労務士登録をして独立開業。あすか会計事務所代表。有限会社シアトリカル代表取締役。事務所経営の傍ら、書籍や雑誌への執筆、各種の実務セミナーの講師として活躍。著書に『Q&A 人事・労務専門家のための税務知識』(中央経済社)などがある。
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
