賃金の非常時払いは、どんなときに必要?

従業員は非常時において、所定の期日(給料日)よりも前に賃金(給与)の支払いを請求することができます。定義されている「非常時」とはどのようなときで、どのように金額を定めるのかなど、社会保険労務士法人アウルスの社会保険労務士・濱澤智子さんにお聞きしました。

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賃金の非常時払いとは

労働基準法第25条(非常時払)では「賃金の非常時払い」を定めています。これは、従業員の勤続年数に関係なく認められます。

(非常時払)
第二十五条 使用者は、労働者が出産、疾病、災害その他厚生労働省令で定める非常の場合の費用に充てるために請求する場合においては、支払期日前であつても、既往の労働に対する賃金を支払わなければならない。
引用:労働基準法第25条

非常時払いは、労働者が非常の場合の費用に充てるための請求です。企業は非常時払いの請求に対して、給与の支払日前であってもすでに行われた労働分を臨時に計算し支払う法的な義務があります。

 
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非常時払いが認められるケース

非常時とは、労働基準法施行規則9条各号が掲げる事由によります。
具体的には下記のケースが該当します。

  • 出産したとき
  • 病気になったとき
  • 災害を受けたとき
  • 結婚したとき
  • 死亡したとき
  • やむを得ない理由があって1週間以上帰省するとき

ここでいう「疾病」「災害」には、業務上の疾病や負傷のみならず、業務外のいわゆる私傷病に加えて、洪水や地震などの自然災害の場合も含まれます。
 
対象となるのは、労働者自身または労働者の収入によって生計を維持する者です。労働者の収入によって生計を維持する者とは、親族以外の同居人であっても含まれるケースもあります。また、労働者本人の子であっても、独立して生計を別にしている場合や、継続的に仕送りをしているなど生計が同一であるという事実が証明できない場合は、含まれないと考えられます。

非常時払いと給料の前借りの違い

非常時払いで支払うお金は、企業が従業員に対して労務の対償として支払義務を負う、未払い分の「賃金」です。従業員の請求に対して企業は応じる法的な義務が発生します。
 
一方で、給料の前借りは従業員の労務の有無が問われません。従業員は企業から借金をするのと同じ意味合いです。従業員の前借りの請求に対し、企業は応じることは可能ですが、義務ではありません。

就業規則にはどのように明記すべき?

非常時払いの決まりについては、下記を就業規則に記します。

  • 所定の賃金の計算期間(例:前月21日~当月20日締め)
  • 所定の賃金支払日(給料日)(例:毎月25日)
  • 賃金の非常時いの支払期日(法律上の規定はないが、請求の趣旨に応じて遅滞なく支払うこととする)
  • 非常時払いが認められるケース(先述した内容を明記する)

 
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非常時払いの対象・対象外となる賃金

◆非常時払いの対象となる賃金

労働基準法で定められている「賃金」とは、労働の対償として、企業が労働者に支払うすべての賃金が含まれます。たとえば、既往の労働(既に働いた分)であれば、基本の給与、時間外手当(残業代)、休日手当、役職手当などの各種手当が該当します。

 

◆賞与は非常時払いの対象になる?

賞与は「既往の労働」に対する金額の算定が可能かどうかで、非常時払の賃金に該当するかを判断します。就業規則で「賞与の金額は基本給の2カ月分とする」と規定されている場合は「既往の労働」に対する金額を算定できるため、非常時払いの対象となることがあります。
 
「賞与の金額は、企業の業績や労働者本人の勤務成績等を考慮して決定する」などと規定されている場合は「既往の労働」に対する金額を算定することは難しく、非常時払いの対象に含めることはできないと考えられます。

 

◆退職金についての考え方

退職金は、退職して初めて請求権が発生します。そのため、 非常時払いの対象とはされていません。
 
労働者の死亡、または退職の場合には、請求があれば7日以内に賃金を支払わなければならないとされています(労基法23条)。しかし退職金については、法律は関与しておらず、会社が自由に定められるものであるため、本条の対象にはなりません。退職後に請求があってから7日を経過しても、通常の賃金とは異なり、退職金については、あらかじめ定められた支払時期に支払えばよいとされています。

どのように算定するのか

非常時払いにより支払われる賃金は「既往の労働」に対するもの、つまり既に労務を提供し発生しているものの、未だ支払日を迎えていない未払いのものに限られます。したがって、従業員の労働が発生した日から、従業員より請求があった日までの労働日数に対して、労働基準法施行規則19条各号が規定する方法による日割計算で行います。

非常時払いの拒否に対する罰則

非常時払いは労働基準法に定められているように、使用者(企業)に課された法定の義務です。この義務に違反して非常時払いを拒否した場合、使用者(企業)は30万円以下の罰金に処されます(労働基準法120条1号より)。
 
非常時払の支払いを正しく行うためには、従業員の請求に対して非常時払いと認められるケースに該当するか否かの見極めと、請求日までの労働に対してきちんと給与を計算することが重要です。

 

※記事内で取り上げた法令は2021年9月時点のものです。
 
<取材先>
社会保険労務士法人アウルス 社会保険労務士 濱澤智子さん
 
TEXT:宮永加奈子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト

 
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