育児休業給付金とは
育児休業給付金とは、労働保険の被保険者で1歳未満の子を養育するために育児休業を取得した労働者に支払われるものです。
原則として、労働者の子どもが1歳を迎える誕生日の前々日まで支給されます。なお、両親がともに育休を取得すると期間を延長できる「パパ・ママ育休プラス」の取得者は1歳2カ月まで、保育所などで保育の実施が行われない場合は1歳6カ月または2歳まで支給されます。
育児休業給付金の背景と目的
女性の労働力率(※1)は、結婚・出産にあたる年代で低下し、育児が落ち着いたタイミングで再び上昇する「M字カーブ」を描くといわれています。女性が妊娠・出産後も働き続けられるようにすることを目的として育児休業給付金が設けられました。取得するタイミングは異なるものの、条件を満たせば男女問わず受給できます。
育児休業給付金は非課税扱いとなるほか、育児休業期間中は取得者本人と事業主の社会保険料が免除されるメリットもあります。
※1…15歳以上の人口に占める労働力人口の割合
育児休業給付金の申請条件
育児休業給付金は、下記条件に当てはまる労働者が対象です。
- 育児休業開始日前の原則2年以内に12カ月以上雇用保険に加入していること
- 育児休業期間中に休業開始前の1カ月あたりの賃金の80%以上を受け取っていないこと
- 育児期間中の就業日数が1カ月に10日以下であること(10日を超える場合は80時間)
対象外となるケース
- 雇用から1年未満の契約社員
- 育児休業を開始する時点で、育児休業終了後に離職する予定がある労働者
◆対象期間
育児休業給付金の対象となる育児休業開始日は、申請者の性別により異なります。
・女性の場合
出産日の翌日から8週間は産後休業期間となります。産後休業から引き続き育児休業を取得した場合、開始日は出産から58日目となります。
・男性の場合
配偶者の出産日当日または出産予定日より育児休業を取得できます。このため、出産日当日から育児休業を開始した場合は、当日から育児休業給付金の支給対象となります。
育児休業給付金の手続き方法
育児休業給付金は、基本的に会社が管轄のハローワークに申請します。一般的に、育児休業給付金の受給確認手続と初回支給申請は同時に行います。必要書類や手続きについて確認しましょう。
1.必要書類をそろえる
以下は、初回申請時に必要な書類です。
会社が用意するもの
- 雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書
- 育児休業給付受給資格確認表
- (初回)育児休業給付金支給申請書
- 賃金台帳や出勤簿、従業員が育児を行っている事実や書類の記載内容を確認できる書類
労働者が用意するもの
- 母子手帳のコピー
- 預金通帳、キャッシュカードのコピー
- 育児休業申出書(男性の場合)
2.書類を提出する
管轄のハローワークの窓口または電子申請を利用できます。提出期限は、育児休業開始日から4カ月を過ぎた日の属する月の月末までです。
例)育児休業開始日が7月10日の場合
4カ月を過ぎた日は11月9日となるため、提出期限は11月30日です。
3.受給資格の有無が判断される
受給資格があると判断された場合は下記の書類が交付されます。給付金は、支給決定後1週間程度で労働者の口座に振り込まれます。
- 育児休業給付金支給決定通知書
- (次回)育児休業給付金支給申請書
受給資格がないと判断された場合は、「育児休業給付受給資格否認通知書」が交付されます。
上記手続きは、原則として2カ月に1回行います。育児休業給付金は基本的に2カ月ごとに労働者の口座に振り込まれますが、労働者が希望すれば1カ月ごとの振り込みに変更できます。その場合は、毎月手続きをする必要があります。
育児休業給付金の計算方法
1カ月の支給単位期間ごとの支給額は、下記の方法で算出できます。
休業開始時賃金月額{休業開始時賃金日額×支給日数(通常30日)}×67%(ただし、育児休業の開始から6カ月以降は50%)
例)支給単位期間中に、育児休業期間を対象とした賃金が支払われていない場合
休業開始時賃金月額:30万円
30万円×67%(育児休業の開始から6カ月以降は50%)=20万1,000円(15万円)
※育児休業給付金の支給単位期間ごとの支給額の上限は、30万5,721円(22万8,150円)です。この金額は、毎月の勤労統計に基づき毎年8月に改定されます。
・支給単位期間中に賃金支払日がある場合
支払われた金額が「休業開始時賃金日額×支給日数の13%(30%)」を超えるときは、支給額が減額され、80%以上のときは給付金は支給されません。減額の対象となるのは育児休業期間中に発生した賃金のため、育児休業前の賞与が振り込まれても減額はされません。
こんなときはどうする? 育児休業給付金の給付事例
ケース別の支給期間や支給額について確認します。
◆育児休業給付金の延長
以下のケースに当てはまると、労働者の子どもが1歳6カ月または2歳まで育児休業給付金の支給を延長することができます。
・保育所などでの保育の実施が行われない場合
該当するのは、労働者の子どもが1歳に達する日までに認可保育園の入所申し込みを行い、不承諾となったときです。市区町村への申し込みを忘れた場合や入園を辞退した場合は対象外になります。申請には、市町村が発行した「保育所の入所不承諾通知書」などの書類が必要です。
・子どもを育てる予定だった配偶者が、死亡や病気、離婚などにより育てられなくなった場合
「配偶者の状態について書かれた医師の診断書」や「世帯全員が記載された住民票の写し」など、延長理由を証明できる書類が必要です。
◆2人目以降の出産の場合
・育児休業を取得中に2人目を出産した場合
第一子の育児休業取得前の賃金が適用されるため、第二子の育児休業給付金は第一子のときと同額が支給されます。
・復職後に時短勤務を選択した後に出産した場合
フルタイム勤務と比べて勤務時間が少なくなり、賃金が下がるため、支給額が減る可能性があります。
・復職後にフルタイム勤務を選択した後に出産した場合
育児休業取得前の金額によっては、支給額が増える可能性もあります。
企業側が注意すること
育児休業給付金に関して、企業が気をつけるポイントは以下です。
◆労働者へのアナウンス
育児休業給付金にまつわるトラブルの多くに、労働者が保育園の申し込み手続きを忘れてしまうケースがあります。これは、会社から労働者へのアナウンスが十分に行われなかったことが原因です。
保育園の申し込みは毎月行われるため、その都度労働者に申請を促すことが望ましいです。
さらに、労働者が育児休業に入る前や育児休業が終わる2〜3カ月前、1歳6カ月になる2〜3カ月前など、適切なタイミングで連絡するとトラブル回避につながります。
◆中途採用で入社1年未満の労働者が出産する場合
前職で雇用保険に加入した期間が2年間で12カ月以上あり、退職後に失業保険を受け取っていなければ、育児休業給付金を支給できる可能性があります。離職票の有無や失業保険について労働者に確認しましょう。
◆2年前までさかのぼって申請できる
万が一会社が申請を忘れてしまった場合に、申請期限を過ぎても2年前までさかのぼって申請できます。
育児休業給付金は、労働者が妊娠・出産後も働き続けるために必要な制度です。基本的な情報や手続きを把握し、労働者が安心して受給できることが大切です。
(参考)
育児休業給付の内容及び支給申請手続きについて(厚生労働省)
※記事内で取り上げた法令は2021年6月時点のものです。
<取材先>
特定社会保険労務士 キャリアコンサルタント 岡佳伸さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト
