短時間勤務制度とは
「短時間勤務制度」は2009年6月に改正された「育児・介護休業法」により義務付けられた制度で、時短勤務と呼ばれることもあります。労働者が育児や介護と仕事を両立できることを目的として設けられました。
1日の所定労働時間を原則として6時間(5時間45分〜6時間)とするもので、子育て中の労働者は子が3歳を迎えるまで(誕生日の前日まで)利用できます。要介護状態の家族がいる労働者は、対象家族一人につき、利用開始の日から連続する3年以上の期間に2回以上の利用が認められています。なお、利用回数に上限はありません。
法律で定められている対象者
短時間勤務制度は、下記のすべての項目に該当する労働者に適用されます。性別の制限はなく、配偶者が専業主婦(夫)の労働者も対象となります。女性の場合は育児休業が終わるタイミングで実施される復職面談の際に申請し、男性は必要なタイミングで申請します。
- 3歳未満の子を養育する労働者であること
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- 1日単位の労働契約(日々雇用)でないこと
- 短時間勤務制度が適用される期間に育児休業を取得していないこと
- 労使協定により適用除外とされた労働者でないこと
5の「労使協定に適用除外とされた労働者でないこと」については、下記が当てはまります。
- 当該事業主に引き続き雇用された期間が1年に満たない労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
- 業務の性質または業務の実施体制に照らして、短時間勤務制度を講ずることが困難と認められる業務に従事する労働者
短時間勤務制度の適用が難しい業務とは、仕事を途中で切り上げることが物理的に不可能なケースを指します。国際線の客室乗務員のように、一度離陸すると途中で勤務を終了することが難しい業務などが該当します。
このような労働者に対して、企業は代替措置として以下の1つ以上を満たす必要があります。
- フレックスタイム制度
- 育児休業制度に準ずる措置
- 始業・就業時刻の繰り上げ・繰り下げ
- 事業所内保育施設の設置
◆介護の場合
介護による短時間勤務の条件は、労働者の家族が要介護(負傷、疾病または身体上もしくは精神上の障害により2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態)であることが挙げられます。対象家族は事実婚を含む配偶者、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫が該当します。労使協定を締結している場合、下記に当てはまる労働者は対象外となります。
- 入社1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
企業は労働者が子育てや介護をしながら子育てできるための環境を整える必要があり、業務上難しい場合を除いて、できる限り適用できるようにすることが求められています。
短時間勤務制度の導入に必要なこと
制度の導入にあたり、労働者が制度を利用しやすい環境を整える必要があります。育児・介護休業法により、短時間勤務利用者に対して下記の行いは禁止されています。
- 上司が短時間勤務利用者に対して解雇や雇い止めなどの不利益な扱いをすること
- 上司や同僚が短時間勤務利用を阻害するような行為をすること
- 制度利用者に上司や同僚が繰り返し嫌がらせをすること
- 上司や同僚が業務に必要な情報を与えない、会議に参加させないなどの行為をすること
企業にはハラスメント防止措置を講じることが義務付けられています。具体的には、短時間勤務制度の利用とともに、どのような言動がハラスメントにあたるのかを社内に周知する必要があります。
短時間勤務制度の保険や年金の手続き方法
健康保険料や厚生年金保険料は、「標準報酬月額」によって決まります。標準報酬月額は、毎月受け取る給与や各種手当などの総支給額「報酬月額」で区分され、支給額によって保険料が異なります。
短時間勤務利用中は給与が下がるため、標準報酬月額も下がります。その場合、健康保険料や厚生年金保険料が減額になりますが、これは将来支払われる年金額も少なくなることを意味します。
しかし、3歳までの子を養育する労働者の場合「養育期間の従前報酬月額のみなし措置」が適用され、減額後でも短時間勤務利用前の金額を受給できるのです。
労働者から短時間勤務制の申請があった場合、企業は「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」を日本年金機構に提出します。対象となる期間は、3歳未満の子の養育開始月から子の3歳の誕生日の前日まで。企業の判断で労働者の短時間勤務を延長する場合も同様です。3歳の誕生日以降は「養育期間の従前報酬月額のみなし措置」は適用されず、減額後の年金額になります。
短時間勤務制度でフレックスタイム制や残業の場合はどうなる?
◆フレックスタイム制のある企業の場合
短時間勤務制とフレックスタイム制のどちらも利用できる企業の場合は、労働者がどちらかを選ぶこともできれば、両方を利用することも可能です。短時間勤務制度利用中は給与が下がるため、短時間勤務を申請せずにフレックスタイム制を利用する労働者もいます。
労働者が働き方をフレキシブルに選択できると、採用活動時のセールスポイントになったり、離職率の低下につながったりなど企業にとってもメリットになります。
◆短時間勤務制を利用する労働者が残業をした場合
短時間勤務利用者が残業をした場合、企業は残業代を支払うことが義務付けられています。通常勤務の8時間までは割増なしの時間単価を支払いますが、8時間を超えた場合は通常の時間外労働と同じ扱いになるため、時間単位の125%を支払う必要があります。
企業の判断で短時間勤務利用者に残業を認めないこともできますが、その場合は労働者が短時間勤務を申請する際に伝えることが大切です。また、労働者が残業しないことを希望した場合、企業が残業させることは認められていません。
育児や介護に限定しない「短時間社員制度」を導入する方法も
企業の采配で、短時間勤務制度の延長も可能です。また、自社に合う人材の確保や働き方の多様性を目的とした「短時間正社員制度」を導入する企業もあります。
以下の2つに当てはまる社員を「短時間正社員」といい、育児や介護などのほか、病気の治療や副業などによりフルタイム勤務が難しい労働者へ働き先を提供する取り組みです。
- 期間の定めのない労働契約(無期労働契約)を締結している
- 時間当たりの基本給及び賞与・退職金等の算定方法等がフルタイム正社員と同等
短時間正社員制度を利用した働き方には、1日の所定労働時間を短縮する「短時間勤務」と1週間の所定労働日数を短縮する「短日勤務」の2パターンがあります。
制度を利用することで、労働者はワーク・ライフ・バランスの実現や自分の希望に沿った働き方ができるようになります。企業としても働きやすい職場としてのアピールや人材の定着などにつながるため、双方にとってメリットとなる制度です。
短時間勤務制度は、労働者の離職率低下などを目的として設けられているため、利用者にとって使いやすい制度であることが肝心です。企業は制度の利用者が不利益を被らないための対策を講じながら、労働者が働きやすい環境を整えるよう働きかけましょう。
※記事内で取り上げた法令は2020年11月時点のものです。
<取材先>
寺島戦略社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 寺島有紀さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト