賞与の支払い方式について
賞与制度は法律で義務付けられていないため、支払いの有無や方法、支給額などは企業の裁量で決定できます。支払いには、次の方法があります。
◆後払い方式
従業員の勤務態度などを元に賞与額を決定し、支給します。一般的に用いられている方法で、従業員のモチベーション向上などを目的としています。支払い回数や時期は企業により異なります。
◆前払い方式
賞与を12カ月分に割り、給与に上乗せする形で支給します。
査定対象期間とは
賞与額を決めるための評価期間です。賞与の支払い時期や回数により、査定期間は異なります。
◆後払い方式
下記のように一定期間を設け、従業員の勤務態度などを評価します。
例)冬季(12月)と夏季(7月)に2回支給する場合
冬季支払い分の査定期間:4月〜9月
夏季支払い分の査定期間:前年10月〜3月
◆前払い方式
年度の開始時期に会社の業績を予測し賞与額を決定するため、従業員への査定期間は発生しません。
査定対象期間に従業員が退職する場合、賞与の扱いはどうなる?
査定対象期間に従業員が退職した場合、後払い方式と前払い方式で賞与の扱いが異なります。
◆後払い方式
・支払いが発生するケース
就業規則で「給与の3カ月分」など賞与の支給額が固定されている場合、従業員が訴訟を起こせば、賞与の一部を支払わねばならない可能性があります。
・支払いが発生しないケース
賞与は査定期間中に会社が従業員を評価し、「この人にはいくら支給する」と決定して初めて従業員側に請求権が発生します。つまり、査定期間中は「評価が確定していない=請求権が確立していない」段階のため、企業に支払い義務はありません。
また、「給与の3カ月分」など賞与の支給額が固定されている場合でも、就業規則に「賞与支給日に在籍していなければ賞与を支給しない」などの内容を明記していれば、支払う必要はありません。
◆前払い方式
労働基準法第16条の「賠償予定の禁止」(※1)に該当すると判断される可能性があり、退職者に支給した賞与の返還を求めることは法的に難しいです。仮に就業規則などで賞与の返還を規定していたとしても、従業員が訴訟を起こせば無効となる可能性があります。
※1 労働契約の不履行による損害賠償や違約金などを労働者に強いることを禁止するもの
例)会社が留学費用を負担していた従業員が帰国後すぐに退職した場合、その留学費用の返還を請求する、など
◆賞与の返還が認められた裁判例
賞与支給後、年内に退職したことを理由として、企業から元従業員に賞与の返還を求めた裁判で、賞与の一部の返還を認めた例があります。この場合、「賞与は基礎額の◯カ月分だが、◯月◯日までに退職を予定している場合は◯円」のように賞与の支給条件を細かく設定していたことが判決に影響しているといわれています。ただし、あくまでも民事裁判の一例であり、別の会社が同じように規定しても賞与の返還が認められるとは限りません。
賞与にかかわる実務上の注意点
賞与に関して、企業が間違えやすいポイントは以下の3つです。
◆査定期間後に賞与の有無や支給額を変更する
賞与の支給の有無や金額は査定期間に決定されるため、査定期間以外の事情で減額や無支給にすることはできません。法律で定められていない以上、査定期間外の事情を賞与に反映しても企業にペナルティは課せられませんが、無用なトラブルに発展する可能性があります。
◆支給内容を細かく決めすぎない
たとえば、「給与3カ月分を支給する」など金額を固定すると、業績が思わしくないときなどに金額を変更することができなくなります。賞与決定にあたり、企業裁量を残しておく観点から、調整を加えられる程度に規定することが肝心です。
その上で、就業規則に下記内容を加えておくといいでしょう。
- 支給日に在籍していない従業員には賞与を支給しない(支給日在籍要件)
- 支給額および支給の有無については、業績や本人の勤怠を総合的に考慮して決定する
- 賞与算定期間のすべてを休職していた場合には賞与不発生とする
- 賞与算定期間の一部を休職していた場合には減額する
なお、就業規則を改訂する際には、就業規則の意見聴取および労基署への届出が必要です。支給日在籍要件を創設する場合にも、これらの手続きを忘れないようにしましょう。
◆賞与の査定方法を従業員に開示しない
基本的に賞与の査定方法は内部情報ですが、文章で社内に周知している場合は、その方法が守られることが従業員の権利としてとらえられる可能性が高くなります。査定の基準を満たした従業員に適切な額の賞与が支払われず、訴訟に発展することもあります。企業の業績が思わしくないときに支給額を変更するなどの可能性も考慮し、査定方法を開示しないことも可能です。
一方、従業員のモチベーション向上を重視して、あえて査定方法を開示するケースもあります。ただし、査定方法に基づいた賞与を支払うことが必須になります。
賞与に関しては全てを就業規則に明記する必要がありませんが、ポイントを押さえておくことが肝心です。就業規則を確認して、自社の賞与の扱いを見直すのも良さそうです。
※記事内で取り上げた法令は2022年1月時点のものです。
<取材先>
杜若経営法律事務所 弁護士 友永隆太さん
TEXT:畑菜穂子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト