早期退職優遇制度とは
「早期退職優遇制度」とは、退職金支給率の割増しや退職金額の上積みなどの優遇措置を条件に、企業が労働者に対して退職を促す制度です。
◆導入・実施の目的と対象者
導入・実施の目的は、大きく次の2つがあり、目的によって対象者が異なります。
- 人事ローテーションの円滑化・活性化(従業員の若返り)……定年前の一定期間に該当する労働者に退職を募る
- 経営悪化にともなう人件費の削減……企業が独自に設定した条件に該当する労働者に退職を募る
経営悪化にともなう実施の場合、「整理解雇」による「解雇回避努力義務」の一環であるケースもあります。基本的には企業の一方的な押しつけではなく、労働者による自主的な申し出(任意)によって成立する制度です。そのため、「希望退職制度」などとも呼ばれます。
早期退職優遇制度導入の検討基準
早期退職優遇制度を導入することによる、企業のメリットとデメリットは以下の通りです。これらを踏まえて、制度の導入を検討しましょう。
◆早期退職優遇制度導入のメリット
- 人事の若返りや活性化が図れる
- 労働契約法16条に基づく訴訟等の紛争化リスクが軽減される
- その後に整理解雇が控えている場合、解雇回避努力義務を果たす手段になる
◆早期退職優遇制度導入のデメリット
- 優秀な労働者が退職を希望する可能性がある
- 整理解雇を控えた希望退職の予兆として捉えられる可能性があり、企業の窮状が風評リスクとなり得る
実施する際の応募条件の設定
早期退職優遇制度に関する法的な決まりはないため、応募の条件は企業が独自に設定して問題ありません。ただし、労働組合があれば組合と協議し、労働組合がなければ制度導入についての説明会を開催して労働者の合意を得ましょう。
同制度を実施する際には、次のような応募条件を設定するのが一般的です。
◆一般的な応募条件の設定
- 募集人数
- 募集期間
- 年齢(○歳以上)
- 勤続年数(○年以上)
- 優遇措置(退職金の割増し、有給休暇の買い上げ、再就職支援 など)
- 退職日
- 承認制の有無
万が一、同時に募集人数を超える応募が出た場合、多くの企業では、上回る応募にも応じているのが現状です。感情的な不満につながらないようにするためです。しかし、法的には受諾の自由は企業にはあり、企業の裁量で応じる人と応じない人を選択して問題はありません。
トラブルを回避するための注意点
本来の意味での早期退職優遇制度の実施ならば、トラブルが起こることはまずありません。退職したくない労働者は応募しませんし、希望者がいなければ企業は募集を継続するか終了するだけだからです。問題となるのは、次のようなケースです。
1. 希望者がいなかった場合の退職勧奨
経営悪化にともなう実施の場合、希望者がいなければ、表向きは希望退職という名目であっても、退職勧奨、いわゆる「肩たたき」に移るケースも少なくありません。
しかし、労働者には退職勧奨を拒否する権利があります。過度な勧奨は「退職強要」となり、法律に抵触する恐れがあります。また、万が一紛争に発展した場合、退職勧奨後に労働者から退職届が提出されていたとしても、勧奨方法・内容・程度によっては強迫を理由に取り消されるケースがあることを留意しましょう。
2. 承認事項の未整備と承認拒否による過度な引き止め
早期退職優遇制度の実施において、企業がもっとも留意しておくべき点は優秀な人材の流出を避けることです。そのためには、「条件に該当する労働者からの退職希望があれば、誰でも受け入れるのか」、「企業が必要と認めた人材の退職希望は拒否できるのか」といった、承認事項の規定整備は必須です。
法的に受諾の自由は企業にあり、企業の裁量で応じる人と応じない人を選択できます。しかし、承認制の有無を明確にしていなければ、引き止める際に感情的な問題に発展し、労働者から承認権濫用などを理由に抵抗を受けるリスクがあります。とはいえ、承認制の採用を明示していても、過度な引き止めは紛争を招く恐れがあるので注意が必要です。
1、2ともに、企業側の一方的な押しつけにならないように注意しましょう。労働者の合意を得られるよう、誠実に対応することが肝要です。
企業が注意するべきこと
繰り返しますが、早期退職優遇制度の実施において何よりも大切なのは、労働者のコンセンサスを得ることです。条件を明確に提示し、個別説明会を開くなどして、誠実かつ丁寧なコミュニケーションを心がけてください。
また、退職者希望者の人数が増えれば相当な退職金の上積みが必須になります。その際の資金の捻出が可能かどうかもきちんと見極めてください。経営の安定化を目的に制度を導入したにもかかわらず、逆にさらなる経営悪化を招くことも考えられます。
同時に、人件費の削減ばかりに意識がいってしまい、結果的に人員不足を生じさせる可能性も否めません。実施する際は、募集人数の設定や優遇措置などの条件の綿密な設定はもちろん、そもそも本当に実施すべきなのかどうか、導入の検討は慎重に行いましょう。
※記事内で取り上げた法令は2021年12月時点のものです。
<取材先>
ロア・ユナイテッド法律事務所 代表パートナー弁護士 岩出誠さん
TEXT:塚本佳子
EDITING:Indeed Japan + 南澤悠佳 + ノオト