エバンジェリストとは
エバンジェリストという言葉の元来の意味は「伝道師」です。現在では、特にIT業界において、難解な技術や業界トレンドなどについて広く世間一般にわかりやすく伝える職種のことを指します。
営業職や広報職のように、自社の商品やサービスそのものを宣伝したり売り込んだりするのではなく、それを理解するために必要な前提となる一般知識をフラットな目線で伝え、啓蒙活動を行います。
具体的な業務内容としては、ウェブメディアや雑誌に寄稿する記事の執筆、セミナーやイベントへの登壇、テレビなどのメディア出演や取材対応といったことが挙げられます。こうした対外的な活動の他、営業職など社内に向けて業界知識を教育するための研修の企画・実施、営業職が顧客向けに企画するセールスセミナーへのゲスト登壇、顧客の個別相談対応などを行うこともあります。
自社にエバンジェリストがいるメリット
エバンジェリストが必要とされる背景には、IT業界が急速に進化を遂げ、次々に新たなツールやシステムが生み出されていく中、一般企業がその情報や知識をキャッチアップするのが年々難しくなっていることが挙げられます。IT技術を取り入れようにも、製品選定の前提となる基本的な知識がなければ、自社にとってどんな商品が良いのか判断がつかず、導入に至らないというケースが散見されているのです。
IT企業の立場から見ると、自社で扱っている最新のITサービスがどんなに優れたものであっても、その分野自体が一般企業にとってまったく馴染みがない状況では意味がありません。顧客に基礎的な知識や技術が浸透していなければ、なかなか導入を検討してもらえないといった課題も拭えないでしょう。
自社にエバンジェリストがいない場合、いつかその分野がメディアに取り上げられたり、専門家が解説してくれたりして、一般企業にまで浸透していく機会を待つしかありません。しかし自社にエバンジェリストを配置していると、その分野の基礎的な知識や技術を自ら解説し広めていくことができます。自分たちの力で業界の裾野を広げ、市場を大きくし、トレンドをつくり、結果として自社の見込み客を増やしていくことが可能となるのです。
また、自社の商品やサービスに特化しないという立場の特性があることから、顧客に「売り込みをされるのでは」という警戒心を持たれずに話を聞いてもらえるというメリットもあります。その際、結果的に他社製品を選ばれる可能性があるのも事実です。しかし、そのリスクを差し引いたとしても自社にメリットが大きいと判断されていることから、エバンジェリストを配置するIT企業が増えていると考えられます。
エバンジェリストに求められる資質
まず、IT業界全体および自社が関わる分野について、深い知識と高い技術を備えていることは絶対条件となります。加えて、その知識や技術を大衆に向けてわかりやすく噛み砕き、説得力をもって伝えるプレゼンテーション能力が重要です。それに付随して、記事などの文章構成能力、セミナーやイベントなどの企画能力、常に最新情報をキャッチアップする情報収集能力や探求心などもマストと言えるでしょう。エバンジェリストには多様かつ高度な知識とスキルが求められるので、ゼロから育成するには相当な時間が掛かります。そのため、今から自社にエバンジェリストを配置したい場合、必要な資質を既に備えている人物を新規で採用するほうが現実的でしょう。
<取材先>
人材研究所 代表取締役社長 曽和 利光さん
京都大学卒業後、リクルートに入社。人事部のゼネラルマネージャーとして培ったスキル・ノウハウと、2万人の面接経験を融合しワンランク上の人材を採用する独自手法を確立。その後、大手生命保険会社などで一貫して人事領域で活躍し、2011年に株式会社人材研究所設立。著書に『就活「後ろ倒し」の衝撃』(東洋経済新聞社)などがある。
TEXT:北村朱里
EDITING:Indeed Japan + 波多野友子+ ノオト
